第55話 視える甥 4

「ああ」

萌も京平もお互い考える顔になる。


そんなとき、唐突に運転中のめぐみが言った。

「けーちゃん、念のため覚悟しておくようにね」


「「え、何を?」」


「私たちけーちゃんの病室知らないでしょ?面会は明日からだから教えて貰えないかも」


「「うそ……」」

急に不安になった。

もし病室がわからなかった場合、夜の病院を一人で歩き回る羽目になるのだろうか。

自分で自分の身体を探すために。


(シュールだ…)


「ついてけないかな?」

萌が心配そうな顔で言う。


「難しいかもな…」


「あと、十分で着くからね。大丈夫!けーちゃん、安心しなさい。附属病院は中規模病院だからベッドは100ぐらいしか無いわよ」


「いや、姉さん励ましになって無いよ」と伝えたいのに伝わらない。


「大っきいとこだったら病床数700とかザラだから。良かったね」


「「いや、まぁそうだけど…」」


こんなときでも明るい姉に尊敬の念が湧く。

とても真似できないが、前向きに考えるべきだとは思った。


自分の身体を取り戻すために今できることはこれしか無い。

明日まで待っていたら手遅れになるかも知れないのだから。


(腹をくくれ、俺!)


病院に着くまでの時間は決意を固めるには少々短かった。


「はい、到着。行ってくるね!大勢で行ってもアレだから待ってて」


姉だけでは心配で、恵一も慌てて車から降りようとドアを掴もうとしたが、思っていた手応えが得られず勢いのまま転がるように外に出た。


少し驚きつつ姉について行く。


「母さん、兄さんも後ろについていったから!」


背後から萌の声が聞こえた。

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