第46話 声 2

京平に先導してもらい、再び自転車を漕ぎはじめると、携帯が鳴り出した。

母からの着信だ。


「萌?! 今、けーちゃんの会社の長谷川さんという方から連絡があって!落ち着いて聞いて! けーちゃんが事故に」


「母さん。大丈夫、落ち着いて。俺、知ってるよ。兄さんが搬送された病院わかる?」


附属ふぞく病院。萌、今何処にいるの?」


良かった。今向かっているのも附属病院だ。恵一が病院をたらい回しにされていたらと思うとぞっとした。

恵一の身体のことはもちろん、自転車で近辺の病院を一つずつ回って探すなど絶対にごめんだ。


「京平と一緒に自転車で病院に向かってる」


「わかった。お母さんもすぐに行くから。先に待ってて。気をつけるのよ!病院着くまで携帯はしまっときなさい」


携帯を切り、顔を上げると何となく見た記憶のある附属病院の屋根の一部が見えてきたところだった。

到着すると、二人はナースステーションに駆け寄った。


「あの、救急搬送された石橋恵一の甥です!」


看護師に案内され、狭い廊下を進む。

窓の無いそこは細い蛍光灯では力不足で、何処か薄暗くひんやりと感じられた。


何度か角を曲がると先の方にぼんやりと不気味に赤く光る場所がある。

赤い光に照らされた長椅子に、スーツ姿の大柄な男性が力なく座っていた。


あの人が母に連絡をくれたという-

「長谷川さんですか」


「…はい」

ぐったりと俯いていた男性が力なく顔を上げた。


「石橋の甥の木芽 萌です。こっちは友人の真中まなか京平。あの、叔父は…」


「ああ!」

長谷川が慌てて立ち上がる。


「石橋さんの会社の同僚の長谷川です。自動車事故で……。事故があったときはまだ意識があったんです。頭から出血はしていたけど、その傷自体は浅いようでした。でも、救急車の中で一度、その……心肺停止になって、またすぐに心臓は動き出したんですが、意識が戻らなくて。現在、集中治療中です」


そう言って、長谷川は辛そうに目の前の扉に視線を移した。

この扉の向こうに恵一がいる。


「連絡ありがとうございました。怪我、大丈夫ですか」


よく見ると長谷川も首や手に包帯を巻いていた。


「ありがとう。僕は全然、平気です。それよりも……」


長谷川は涙ぐみながら、暫く何か言うのを躊躇う様な逡巡しゅんじゅんを見せ押し黙ったあと、意を決した様な顔をして再び口を開いた。


「木芽くんに聞いてほしいことがあるんだ

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