第45話 声 1

それから萌たち3人は出せる限りのスピードで事故現場を目指した。


南ヶ丘の交差点まで近づいてゆくと、明らかに人が集まっている場所があり、すぐにここがその場所だとわかる。

萌は自転車を止める間も惜しく、乗り捨てるように転がして人混みに向かって走り出した。

野次馬をかき分ける。

そして見えた景色に、呆然とした。


白い自動車が歩道に乗り上げている。車のボンネットから電柱が生えていた。

一体、どれだけのスピードで突っ込んだのだろうか。

電柱が運転席前の車体をごっそりとえぐりとって、フロントガラスは粉々にひび割れグニャリと凹み、一部が剥がれていた。


覗き込むと中には誰も乗っていない。

ただ、運転席に赤黒い大きなシミがあった。


「…つっ。運転手は?!乗っていた人はどうなりましたか?!」


周囲の人々に尋ねる。

集まっていた人々は「自分は知らないけど」と互いの顔を探る様に見合うだけで、誰からも答えは返って来ない。


(ただの野次馬かよ!)


そう思ったとき人だかりの端から答えが返ってきた。


「乗っていた人は二人とも、ついさっき救急車で運ばれました。私、救急車呼びました」


若い女性だった。


「二人?」


「はい。スーツの男性が二人」


おかしい。萌が視たのは恵一ひとりだけだった。力がハズレるなんてことは今までなかったのに。


「一番近くの病院は?」


「俺、わかる。案内する」

京平が答え、もう一度自転車のある場所に戻るため走り出そうとしたときだった。


「俺はここに残るよ」

リョウマが言った。


「お姉さん、事故を実際に見ました?」

先程の女性にリョウマが続けて聞く。


「あ、はい。最初から全部」


「良かった。さっき話したけどうちの親父、警察の交通課なんだ。この場所だと多分担当は親父のとこになると思う。目撃者のお姉さんも居るし、詳しい事を聞いて警察に繋ぐよ。あとでLINEで必要事項を聞くから返して。警察から事故について連絡が行くから」


早口に告げられる。

毅然とした様子で判断を下すリョウマは普段と違っていた。

一瞬驚いたものの、事態は急を要するのだ。

すぐに萌は返した。


「わかった」


「恵一さん、きっと無事だよ」


「ありがとう。じゃあ行くわ」


京平と共に、萌はまた走り出した。

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