第44話 死んでる僕 7

***



「おい、萌!どうした⁈」

京平に両肩を掴まれ振り向かされた萌は、蒼白な顔で呟いた。


「……間に合わなかった」


(どうしてだ。今までこんなことなかったのに!)


今まで萌が視てきた映像は、いずれも未来に起こるものだった。それは数時間先かもしれないし、数日先かもしれない。

時間のばらつきはあるものの、そのことに変わりはなかった。


それが今回は、違うのだ。


(何で!)


萌は自分の部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。

玄関のドアをぶつかる様にして開け、傍に止めてあった自転車に飛び乗る。

そして、細かく震える指を素早く動かし、スマホの画面の「1」「1」「9」を押した。


「「消防庁、火事ですか、救急ですか?」」


「救急です!場所は南ヶ丘高校入口交差点。怪我人は一名。っ…交通事故です!頭部から出血しています」


自分が視たものを、焦る気持ちを抑えて端的たんてきに伝え、最後に萌自身の連絡先を伝える。


これで大丈夫だろうか。

救急車は恵一を見つけられるだろうか。間に合うだろうか。


事故があった場所まで、下り坂も自転車を漕いだとして、ここから十数分はかかる。

必死で漕ぐものの、気持ちに脚が追いつかず、酷くもどかしい。


そのとき萌の背中にバンッと何かがぶつかった。


振り向くと自転車に乗り萌を追いかけてきた京平と、その少し後ろにリョウマが見える。

直ぐに横並びになった京平がもう一度、萌の背中を叩いた。


「大丈夫。急ごうぜ」


二人に事情を説明する時間はなかったけれど、京平の目には全てをわかっているような、そんな色が浮かんでいた。


「おう!」


深く息を吸った萌はもう一度、ペダルを踏む足に力を込めた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る