第43話 死んでる僕 6
萌についてあれこれと思い悩んで、「いや、今はそれどころではない」と思い直して周囲に視線を巡らせる。
そんなことを繰り返し、どれくらい歩いただろうか。
ようやく大きい道へ出た。
今までの道と比べ格段に明るく、大勢の人が行き交っている。
「よかった」
これで一歩前進できた気がする。
何しろ初めてのことで最善策はわからないが、とにかく自分の身体に戻りたい。
病院がわからないのだから、ここからは標識を辿って自分が事故を起こした場所へ向かいたかった。
実況見分をして車両を片付けるためには時間もかかるだろう。
そこに居る警察の事故係にくっついて居れば、上手くいくと自分の搬送先がわかるかもしれない。
標識を探そうと顔をあげると、等間隔に灯る街灯に目がいった。
歩き始めたときと比べ随分と日が落ちたことに気づく。
腕時計は4時13分。
(…変だな)
秋になったと言えど4時にしては周囲が暗すぎる。
「壊れたのか?」
そう思った後、恵一は気付いてしまった。
行き交う大勢の人々。
先程はそれを見て安心したのに、どうしてか身体の奥の方から震えが起こる。
誰も自分を見ない。
皆がみな、恵一の中をすり抜けて行く。
ドクドクと鳴り出した心臓に押し出され、血の流れが速くなった。血管が拡がる。
血液の流れる音に耳が
すぐ右側に、ショーウィンドウを
けれど脚は、何かを確かめようと勝手に動いていた。
二人の隣に並んで立つ。
キラキラと光るガラスの中には幸せそうな二人の男女しか映っていなかった。
こちら側には3人居るのに。
確かめるまでもない。こうなるだろうことは先程から予想できていた。
それなのに何故だろう。
今頃、言いようの無い孤独に襲われる。
(俺が事故にあったとき、ラジオから4時の時報が流れてた…)
思い出した。
あのときはまだ意識があって、目を開けることはできないものの耳は聞こえていた。
ならばだ。
時計は事故によって壊れたのならば、4時少し前で止まらなければおかしいんじゃないだろうか。
4時13分で止まった腕時計が言っている。
-「これはお前が死んだ時間だ」
「時計が壊れたんじゃない…。俺が…」
これは、そう。
自分が自分の身体から、すっぽり抜け落ちてしまった時刻なんじゃあるまいか……。
(怖い)
とっくに実体を失ったはずなのに、脚が震え出し一歩も進むことが出来ない。
さっきまでは、この状況をどうにかしようと考えることが出来たのに…。
(怖い……怖い!)
先程からすぐ側に感じていた「死」が今は恵一の全てを暗く覆っていた。
「…萌」
心配させたくない。
自分で解決しようと思うのに、情けないと思うのに、でも、怖くて怖くて仕方がない。
「萌っ!」
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