第30話 なんか変なフェロモン 6

「うん」


「それは、…辛いな」


付き合いは短くとも一緒にいた時間の密度は濃い。リョウマは人一倍、他人の痛みに敏感だ。

俯いて黙り込んでしまったリョウマをどうにかしようと萌は続けた。


「でも、視えるだけ良いんだ」


はっきりと、いつ、どこで、誰が、恵一に何をするのか視るのは辛い。だが、安心もできるのだ。

予知できるから避けられる。

萌の視た未来を恵一が知ることはない。萌が恵一を護るからだ。


「俺の視え方って、すっげー不安定なんだよ。だから何も視えないときが一番怖い。何か良くないことが起こることは分かるのに対処しようがない」


そう言うときは、いつも焦りのままに恵一の行動を縛ってしまう。


「今回は『当日』、『外出先』で、『夜』に不審者に背後から抱きつかれるってはっきり視えたから、まだ良かったよ。それに、実は兄さん少林寺拳法習ってたから結構強くてさ」


「へー。意外だな」


リョウマの言葉に京平も隣でうんうんと頷いている。


「俺も超意外だった。萌が、熊みたいなおとこが恵一さんに襲いかかってるって言うから慌てて助けに行ったら、もう熊退治された後だったもんな。普通に無事だった」


あの時、恵一は、床に伸びた変態をよそに涼しい顔をして自動販売機で水を買っていた。

そうだ……京平のせいで嫌なことを思い出してしまった。


「いや、無事じゃねぇよ」


恵一はペットボトルの水で念入りに口をゆすいでいた。萌はあの時、それを見て間に合わなかったことを悟ったのだ。


「あー、まぁ、キスはされちゃったみたいだったけど、それくらいなら可愛いもんだって。いつかお前が上書きしてやれ」


「お前、ふざけんなよ。俺がどんだけー…」


「ぷっ」


ふと漏れた小さな笑いにリョウマの方を見やると、幾分表情が和らいでいる。

その顔を見て京平の意図したところがわかった萌は、そのまま京平が仕掛けたじゃれ合いに乗っかることにした。

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