第16話 けーちゃんの貢ぎグセ 4

「中学に入って少しした頃にさ…」


夏休み中だった。

萌は自分が所属するバスケ部の仲間5人と一緒に駅前で遊んでいた。

ただ一人、京平だけは何か都合があるとかでその場に居なかったが、その日のメンツは全員幼稚園からの持ち上がり組で、萌にとっては『いつものメンバー』と言える仲の良い友人達だった。


いつもの様に、道幅の広いロータリーを挟んで駅の真正面に建つファーストフード店で皆と昼食を済ませ、店を出た。

丁度そのときだった。


萌と友人達の目の前を、白のマウンテンバイクに乗った小学校低学年くらいの少年が横切った。


「はっきりと思い出せないんだけど…。あのときはただ、特に意識することもなく、なんの気無しにその子を目で追ったんだ」


多分、そうだったと思う。

そして、見た。

その先の交差点で、左折しようとしたトラックに巻き込まれ、下敷きになるその子を。


「真っ赤だった。自転車もヘルメットも元の色がわからないくらい真っ赤だった。あと、…めちゃくちゃに潰れてて。鉄の…血の匂いがした」

覚えている。あの日聞いた周囲の人々の叫び声も。


しかし、そのあまりに凄惨な光景に呆然とした萌が正気をとり戻したとき、たった今、トラックに轢かれて大怪我を負ったはずの少年は萌の目の前に居た。


彼が乗って居たマウンテンバイクは元の形を保った状態で自分のすぐ隣に横たわっていて、

そして萌は、その子の上着を両手で乱暴につかみあげていた。


「お前、何してんだよ…」

冷たい様な、怯えた様な、聞きなれない調子の、しかし、聞きなれた声に振り向くと、

気味の悪いものを見るような目で自分を見下ろす友人達が居た。

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