ラパン into spaaaaace!!

SATAカブレ

宇宙ラパン

 ついに!

 ついについに!

 あたしは手に入れた!

 あたしは手に入れてしまった!


 ――――――念願のマイカーを!!


 思えば今日まで長かった。

 親戚どもから貰った大学入学祝いというはした金を礎にして

 放課後は連日バイトでせっせと働き(主にキャバクラの体験入店巡り)

 昼ご飯はクラスの男子を餌食に日替わり入れ替わり、たちかわりあれこれたかりたかっては奢らせて

 そんなこんなで必死こいて貯金して

 時には一攫千金を狙ったパチスロHADESで散財して

 最終的には奨学金に手を伸ばし……

 ようやくわが下に――

 念願のラパン!

 かわいい! かわいい! ウサギのロゴなにこれかわいい!

 あたしかわいい!!!

 えっうんありがとう!!!



     *


 ふはははははは!

 今日はマイカーを手に入れてから初めての休日だ。

 あたしの視床下部弓状核のニューロンから止めどなく溢れ出る内在性オピオイドエンドルフィン

 行くしかない。

 そう、ドライブに行くしかない!

 今日は記念すべきバージン・ソロ・フライトだ。アイキャンフライ。


 ということで行くぜ首都高。

 感情に身を任せ――待ってろよ、環状線2016。



 自宅の最寄の高速乗り口手前のコンビニに立ち寄った。

 買いに来たのはそう、長時間のドライブには欠かせないアイテム――








 ビールである。



 はい嘘です。

 いろはすとチョコレートを持ってレジ前へ。

 ちゃちゃっと会計を済ます。

 あたしはお釣りが出ないよう調度の金額を小銭で支払った。

 新人バイト野郎へのささいな気遣いだ。

 すると店員は小銭をレジにしまいながら言った。





「アリーッス」



 その言葉を聞いたあたしは自分の耳を疑った。

 アリーッスだって?

 おいおいおい、

 ありがとうございますだろ、お前。

 アリーッスってなんだよ、アリーッスって。

 アリとスの間の『がとうございま』は一体どこにいったんだよお前。

 これは許せない。許せる事ではない。

 たとえどう見ても日本人に見えなかろうが、

 名札に書かれている名前『カーマチャイ』の上に『トレーニング中』のシールが貼ってあろうが。

 これは到底許されることではない!



 そうしてあたしの脳幹、青斑核からは大量のノルアドレナリンが分泌され怒りの感情が表面化していくと同時に、それとはまた別に先程浮かんだ一つの疑問がどんどん色濃くなっていった。



「それにしても、言われなかったは、いったいどこに言ったんだろう――?」


 そうあたしはひとりごちり、カーマチャイの鼻っ面に渾身のパチキ頭突きを一撃食らわせて、愛車であるラパンに戻った。カーマチャイは「パプゥッ!!」と意味わからない鳴き声を上げ鼻血を流してレジに突っ伏した。




     *<ブッ!




 愛車に戻って来たあたしは、早速カーナビをいじいじいじいじいじいじくった。

「えーっと、ルート検索っと」

 目的地を頭文字からひらがな入力する画面が表示される。

 そして画面をぽちぽちぽちぽちぽちぽち

「んんと、が、と、う、ご、ざ、い、ま……OKと」


 ただいまルート検索中です

 最新のナビのクセにやけに遅いな~。

「って、こんなもの検索したって出るわけないよね~。しかしこいつっ、少しくらい誠意見せろつうんだよ」

 あたしがそう言って画面を殴ろうとした所で、検索結果が出た。


「え! うそ!? なになに、えっと……目的地までの距離……は?」


 ――画面には1兆7200億8700kmと表示されていた。


「うわっ……私の年収、低すぎ……?

じゃなくて、嘘でしょ……いくら有料回避したからって遠過ぎ……」


 すると突如ナビから再度音声が聞こえてきた。

「次元転移装置を利用します」


 えっえっ

 次元転移装置って、お前デロリアンかよ。これを見てる若い子バックトゥザフューチャーわかんないかもしれないのに何してくれてんだよ。

 ってか次元転移装置は距離じゃなくて、時間の移動じゃんか……


「とにかくいくらなんでもこんなに遠くまで行けないよ、今日は首都高でVIPカーでも煽って遊ぶんだから。キャンセルキャンセル~……」


 そうあたしが言う言葉を無視するかのように、ナビが食い気味で話し始めた。

「シートベルトをお閉めください、では、出発」

「えっ!?」

 そうしてラパンは大きな起動音をあげながら振動する。

「いや決定ボタン押してないじゃんよォォォオオッ!!」


 そうしてあたしのバージン・ソロ・フライトは幕を開けた。




 ~先程までのあらすじ~

 コンビニ店員のカーマチャイはあたしから鼻っ面に渾身のチョーパン頭突きを見舞われて死んだ。



    *



 ナビが勝手に出発を宣言すると同時に次元転移装置が作動したのか、

 ラパンからギュムムミミワワワワン! と微妙にキモい起動音が大きく鳴り響き、

 同時に大きな振動を始めた。

 車体の回りには稲光いなびかりのような激しい発光が、運転席の窓から確認できる。


「えええ……ねえ何これ大丈夫なの? 爆発したりしない?」

 あたしは不安な気持ちから心細くなってつい、ナビに向かって問いかけた。

「——大丈夫です。タイムスリップにはまずプルトニウムを燃料として1.21ギガワットの電力を生み出す必要があります。それを更に次元転移装置、コイルへと移動させ電磁エネルギーに変換し、エネルギーを更に膨らませた上でそれを以って時空間をぶち破ります。それが時空移動のトンネルの入り口です」

 ナビはスラスラとあたしに向かって解説してみせた。


「へ~……っておい!! あんた会話出来るの!? じゃあなんでさっき出発の時シカトなんてしたのさ……」

「ハブアグッドトリップですよ、あたしさん」

「なにそれ意味わかんないしね! 死ね! 氏ねじゃなくて死ね!」

「まぁまぁ落ち着いて。それにタイムスリップも超高速移動も要領は同じようなものです。さて、準備が出来たようですよ。シートベルトはしっかりしめておいてくださいね」

「また人の話聞いてないしね……まぁいいか、あたしも強引な人はキライじゃないワ♡」

「準備OK! ただ今よりデロリアン、超高速移動を実行します! レッツゴー!」

「デロリアンって言っちゃったよ」


 そうしてラパンの目の前の空間が強力な電磁力によってぶち破られて、あたしはナビに言われるがままアクセルを踏みその時空の裂け目へと突入した――。




    *<ス~ッ




 ピチョン……

 ――ピチョン……


 ピイイイチョオオオオオオオオオオオオオン――――――


 あわわ、あわわわわわわわわわ……

 ピチョンピチョンと、あたしのすぐ近くで水が滴るような音が聞こえる。

 聞こえてくるその水滴の音は、地面に垂れるやいなや一瞬にしてあたしを置いてきぼりにして、先に進んでいく。

 まるであたしより早く時間が過ぎているかのように。

 そうこうしているうちにあたしののろまな時間すら、あたしの下から消え去っていく。

 時間という感覚がなくなったあたしはピチョン、ピチョンという音を聞く為だけに息をしているよくわからない、謎の細胞になった。

 なんだなんだ、なんだこの感覚は~。


 ――ピチョン。

 あっ、あれあたし何してたんだっけ?

 ――ピチョン。

 あっ、えっここどこだ? ああラパン、そうそうあたしのかわいい愛車

 ――ピチョン。

 おおっと湯船でついうとうとしちゃってた。ってあれ、それは昨日のことだっけ?

 ――ピチョン。

 あたしなんでこんなに平べったくなってるんだろう、かわいくない。

 ――ピチョン。

 何か喋ろう!! 抜け出せない!!

 ――ピチョン……





「ってか、変性意識上のアリアの第一ステージと被ってっから!!!!」



 ――あたしは喋っている内容を1文字ずつ忘れながらナビに問いかけた。

「ねえ、これってなに」

 話しかけた相手であるナビはなぜか、いつの間にかイースター島名物のモアイになっていた。

 ――しかも一体では無く、三体に。

 ごめん、あたしも自分が何を言ってるのかわっかんない。


 そしてその目の前のモアイはグニャグニャしたり艶々したりしながらあたしの問いかけに答える。

「先ほど作り出したのは目的地へすぐに辿りつけるように、いわゆるワープをする為の環境を整えた、です。

 今はその異次元空間はこの車の表面に張り付き覆うような形を取って、その空間ごと高速に近しいスピードで目的地へと移動しています」


「ごめん全然言ってる意味わからないよ。普通に高速で移動したらダメなの」

「勿論それが出来たらベストです。しかし実際にそうしてしまうとこの車もあたしさんも大気圏を脱出する前に一瞬にして跡形も無く燃え尽きてしまうでしょう。それに

 最後の一言だけ、モアイは三体で口をそろえてユニゾンした。

 マヂむかついた。

「てめえ今更なに言ってんだコラ」

 あたしがそう言うとモアイの顔色はみるみるうちにインディゴブルーに染まり、プルプルと振動しながらこっちを見ている。

「そういうのいいから」

「……はい。ですので、今回は『外部から物理的な干渉を受けない』『仮想空間内の時間は地球上で流れている時間に準ずる』というルールを定めて、そのイメージを具現化した仮想空間を作り、その空間そのものを高速で移動させることによって目的地までワープすることを可能にしています」

「まあなんというご都合主義、古き良きSFみたい。でもそれならあたしの時間だけが止まってしまったりとか、今あたしがこうして喋ってる間にもあたしの脳みそが遠い星の赤い目のネズミ達にムシャムシャ食べられてしまっているのはなぜ? あたし、とてもかなしい」

 涙が出てきた。

 あたしは涙というものはなぜ出てくるのか、それはあたしがかなしいからなんだという事に気づきそれってなんて凄い事なんだと感動の涙を流した。





 そうしてあたしの集中力は家出した――!(大・爆・笑)





「ルールに補足をするならば、『仮想空間内部での感覚群に関してはその限りでは無い』といったところでしょうか。時間感覚の喪失も宇宙ネズミもこの仮想空間内においてあなたの脳が過敏になっているせいで生まれた誤作動です。現実には起こってはいないので、安心して身を委ねてください。アカシアから何か、気付きを得られるかもしれませんよ」


「なによそれ。ってか、話聞いてるとデロリアン全然関係無いじゃない。ギガワットとか、次元転移とか一体なんだったのよ」

「あれはあれです。盛り上げる為に言ってみただけです」

「バカじゃないの」

「でもあなた、そういうの嫌いじゃないですよね」

「え、うんどちらかというと好き」

「さて、そろそろ目的地付近に到着します。お疲れさまでした」

「いきなりナビぶってんじゃねーよ」


 ――あたしはこの空間が終わってしまうことにどこかさみしさを感じながら、

 行く先には一体なにが待ち構えているんだろう、とワクワクが沸き起こる感覚を覚えた。



   *<ブバババババババァンッ!!!!!!!


「ん……あれ、あたし寝てた?」

 ※居眠り運転は非常に危険ですのでなるべくおやめください。




 たどり着いた先は―――――――――――先程のコンビニの駐車場だった。


「はっ? おいおい、さっきまでのってもしかして夢~? なんだよ~」 

 あたしは鼻で笑いながらそう言って、小さくため息をついた。

 でもすっごい非現実的で、そんでもってすっごいリアルな夢だったなぁ。



 もしかして、ここがその、あたしが望んだ世界だったりして……パラレルワールドってやつ?



 ……って、さっきまでの夢? のお陰であたしすっかりSF脳になったみたい。アホくさ。

「そんなワケ、ないよね~」

 ひとりごちってみる、がナビは反応しない。



 ――――ゴクリ。なんだか喉が渇いて来たな。飲み物でも買ってこようかな。

 そうしてあたしはコンビニに入る事にした。

 いろはすを手に取って、レジへ。


 カウンターにいたのは――――――間違いない、さっきのカーマチャイだ。

 思わず緊張が走る。あたしはお釣りが出ないよう調度の金額を小銭で支払った。

 新人バイト野郎へのささいな気遣いだ。



 ――そしてそれを受け取り、カーマチャイは言った。








「……ガトゴジャマッ」

「ちゃんと言えよ」

 カーマチャイはあたしの本気のヘッドバット頭突きをくらって死んだ。

 地球は爆発した。

 SATAは飽きた。

 かゆい

 うま

 おわり

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