第3話幼なじみは大変っ!?
幼馴染という間柄である俺に言わせると、リサというやつは我慢を知らない。
そのくせ癇癪もちで頑固で、わがままだ。さんざんな言いようだと思われるかもしれないが、十数年ほとんど毎日顔を突き合わせていればわかる。
だから俺は今日、リサのわがままに目一杯付き合わされる羽目になったのだった。
「次はどこ行く? またあのゲーセン?」
「もうマジ勘弁してくれ。十円玉しか残ってねえんだぞ、俺の財布」
「しょぼいわね」
「人に奢らせといてその言い草か? 怒るぞ」
「ごめんごめん」
その時、間もなく六時になることを告げる時報が街のスピーカーから流れ出した。
それを聞いた学生たちが続々と店から出始める。市の条例で、午後六時以降は未成年者の歓楽街への出入りが禁じられているのだ。
いつもの習慣通り、俺も家へ帰ろうとする。が、
「ねえ、ちょっとまって」
リサに止められた。
「あれ」
「エル!?」
リサが指さす先に、街を出る学生たちとは反対の方向に向かうグループがあった。制服を着崩し、髪を染め、じゃらじゃらとしたアクセサリーをつけた「いかにも」な連中だ。見たところ、高校生も交じっている。
そしてそのうちの一人に、
「……ユウジ」
ユウジがいた。
「どうする?」
俺が聞くと、リサはにやりと笑って答えた。
「このままじゃ条例違反だし、追うよ」
二人でユウジたちを追うと、歓楽街のさらに奥、居酒屋やキャバクラなどが建ち並ぶ、普段でもめったに入らないようなエリアに出た。
すでに六時を過ぎている。俺も条例を破っているが、魔法少女のリサと一緒なので問題ないらしい。
「条例破りだけじゃデビルウィスパーとは判断しにくいエルね」
「わざわざこんな時間にこんなところにいるんだから、何かあるに決まってるじゃん」
ユウジたちが路地に入った。俺たちも駆け足でそこへ向かう。
覗きこむと、十人近い中高生の集団が奥の方でたむろっていた。ただ薄暗く表情まではよくわからない。
「ユウジ!」
それでも俺が叫ぶと、
「げっ。てめえ、なんでこんなところに」
座り込んだ影が返事をした。まだ火の付いていない煙草を持って。
「なんだてめぇ!」
「おい、ユウジの知り合いみてぇだぞ」
「見てんじゃねえよ、どっか行け!」
ほかの奴らが叫ぶ。彼らの手にも、たばこやビニール袋。足元には液体の入った瓶。そして酒類の缶。
すでに火をつけて吸ってたり、飲んでいる奴もいる。だが、ここにいるのは、どう見ても全員未成年だ。
「ビンゴね」
背後でリサの声がした。と同時に、赤い光が輝く。
途端、連中の顔が、面白いぐらい青ざめた。
「お、おい……、魔法少女か?」
「ええ、私がそれ以外に見える?」
リサが俺を押しのけて前に出る。もうすでに変身していて、右手には拳銃が握られていた。
「エル! 未成年者飲酒禁止法違反。未成年者喫煙禁止法違反。毒物及び劇物取締法違反。ならびに西社市青少年保護条例違反エル!」
カントが羽をびしっと連中に向ける。
「コウスケ、危ないから離れとくエルよ」
「そ、デビルウィスパーに支配された奴らは、何をしでかすかわかったもんじゃないからね」
「な、なに言ってんだよ! 俺らは別にデビルウィスパーになんか」
彼らは情けない声を出しながら首を横に振る。
「問答無用エル! お前たちの行動が証拠エル!」
「憑りつかれた奴はみんなそういうのよ」
リサは銃口をあいつらに構え、こちらをちらりと見た。
逃げろ、という合図だろう。この場にリサを一人置いていくのは少し気が引けたが、それでも今は、あいつの指示には従わなくちゃいけない。
俺は急いで通りの反対側まで走る。
街路樹のところで立ち止まり路地の方を振り返った。夕暮れ時で、街灯がともり始めている中、路地から異質な赤い閃光が何回か灯った。
道行く人も何ごとかと歩みを止める。
閃光はすぐに収まり、リサがトコトコと路地から出てきた。変身は解除されていて、いつもの制服姿だ。ただ、後からユウジたちがついてくることはなかった。
「あいつらは?」
「大丈夫。浄化は何の問題もなかったわ。ただちょっと気を失ってるだけ」
「警察には言っといたから、安心しといてほしいエル!」
「そうか。……よかった」
俺は心の底から安堵した。
この時は。
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