第2話魔法少女は大忙しっ!?


 俺の幼馴染であるリサは正真正銘、本物の魔法少女だ。

 単なる創作の産物だった彼女たちが現実のものとなったのは、今から数十年ほど昔のこと。

『デビルウィスパー』というものが発見されたのだ。それに憑りつかれた人間は、犯罪や非行に走るようになり、優しさや思いやりといった感情をなくしてしまう。

それらを退治するために魔法少女は生まれた。彼女たちはデビルウィスパーを浄化し、悪人を善人へ戻すべく日夜戦っている。

リサも去年素質を見出され、魔法少女になった。カントはあいつのサポート役だ。

こうやって登下校中や授業中に呼び出され、戦いに向かうことも少なくない。

だけど、魔法少女のおかげで犯罪数は激減した。世界は確実に、平和で優しい、美しいものになりつつある。最後のはまあ、学校の先生が言っていたことだけれども。



リサが登校したのは、一時間目も半分ほどが過ぎたころだった。

休み時間になり、俺の席にやってきたリサは何も言わず、そうするのが当然という風に机の上に腰を下ろす。

寝ようと思ったのに傍迷惑な奴だが、抗議したところであいつは聞き入れない。何も言わずに受け入れる。世の中、あきらめが肝心なのだ。

「いやぁ、今回は手ごわかったわ。コンビニ強盗だったのよ。今時珍しくない?」

 労わって欲しそうにこちらを見るリサ。それに対しカントは少し怒っているようだ。

「リサは無駄な立ち振る舞いが多すぎるエル。もっと真剣にやらなきゃ危ないエル!」

「大丈夫だったのか?」

 俺が思わず聞くと、リサはバカにしたように笑った。

「魔法少女を何だと思ってんのよ。ちゃちいナイフごときにやられるわけないじゃない。ばっかじゃないの?」

「なんだよその言い草。人がせっかく心配してやったってのに」

 その時、背後から誰からのしかかってきた。少したばこ臭い息が俺の顔にかかる。

「お、今日もよろしくやってんな~」

 クラスメイトのユウジだった。

「おはよー。ユウジ」

「おう」

あいさつをしたリサに返事をして、ユウジは俺の前に座った。

「大変だなぁ、魔法少女さまは」

「ほんと、お給料でもいただきたいぐらいよ」

「ってかユウジ、よろしくやってるってどういう意味だ?」

「え? 言わなきゃいけねえのか?」

 ニタニタと笑ってくるユウジ。まったく、なんで俺の周りにはこんな奴しかいないんだろう。

「ところでユウジ、どうしたんだよ今日。遅刻だろ?」

 一時間目、俺が滑り込んだ時にはユウジの姿はなかった。おそらく、この休み時間に登校してきたのだろう。

「どうでもいいだろ。ほっとけ」

 ユウジはたちまち不機嫌な顔になって俺から目をそらせた。

「まったく、そんな言い草はないでしょ。あんた最近荒れてるって聞くけど何してるのよ」

 リサは顔をしかめてそう指摘した。

 確かにここ最近、ユウジは素行不良が目立つようになってきた。髪を染め、無断の遅刻や早退、欠席も多くなり、両耳にピアスをつけている。一応全部校則違反だ。俺は面と向かっていったことはなかったのだが。

「黙れ。お前に関係ねえだろ」

 ユウジは低い声で言って、乱暴に立ち上がった。そのまま大きな音を立てて教室を出ていってしまった。

「どうしちゃったのかねえ、ユウジったら。ここ何か月かじゃないの?」

「まあな。でも俺らがホイホイ首突っ込んでいい話じゃねえだろ。なんかこう、デリケートなもんなんじゃねえのか?」

「悪いことがかっこいいって思うなんて、やっぱりまだ子供エルねぇ」

 カントもやれやれといったように首を振った。

「でも、ちょっと注意してみといた方がいいエルね」

「あー。たしかにね」

 リサがうなずいた。

「どういうことだ? カント」

「ああいう不良行為は、デビルウィスパーに支配された兆候エル。特にユウジたちのような中高生はデビルウィスパーの誘惑に誘われやすくなるから危険なんだエル」

「ま、万が一そうだったとしても、私がちゃちゃーっと浄化しちゃうけどね」

 リサは赤い宝石を指先で弄びながら言った。

 そういえば、リサが普段魔法少女としてどんなふうにデビルウィスパーと戦って、どんなふうに奴らを浄化しているのか、ちゃんと見たことがない。

 だから、俺は言ってしまった。

「なあ、リサが魔法少女やっているところ、見せてくれねえか?」



「先輩たちのおかげで最近は平和だからさ、私はだいたいこうやって街をぶらつきながらカントが知らせてくれるのを待ってるの」

「それで、ここを?」

「そ。こんなところの方が、デビルウィスパーは多いのよ」

 放課後、俺はリサに連れられて市内の歓楽街に来ていた。ゲームセンターやアミューズメエント施設が建ち並ぶこの近辺には、俺らと同じぐらいの中学生や高校生の遊び場だ。

「もし現れたらすぐに言うから安心してほしいエル。でも危険だから、その時は離れとくんだエルよ、コウスケ」

「りょーかい」

「じゃ、早速行こうか」

 リサが俺の手首をがっしりと掴んだ。

「……行くって?」

「いつも一人で回るの、結構つまんなかったんだよね」

 リサは怪しくほほ笑んだ。

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