幼なじみは魔法少女っ!?

徒家エイト

第1話幼なじみは魔法少女っ!?

「起きなさいっ! いつまでそうしてんのよ、コウスケ!」

 怒鳴り声とともに、くるまっていた布団が勢いよくはぎ取られた。

そして聞きなれたキンキン声が俺の鼓膜を襲撃する。そのせいで、オフ状態だった俺の脳味噌は強制的に再起動。

「遅刻するわよ! わざわざ美人の幼馴染が起こしに来てあげてんのにまだ寝る気!?」

重たい瞼をこじ開けると目の前に幼馴染、リサの顔があった。

「起こしてくれなんて頼んでねぇんだけど……」

 俺がまたよく回らない口で文句を言うと、リサも眉を吊り上げる。

「あんたじゃなくて、おばさんに頼まれたのよ。じゃなきゃ、やんないに決まってんでしょ、こんなこと」

 リサは肩ぐらいまである髪の毛の先をクルクルといじっていた。イライラしているときのこいつの癖だ。

 なぜだかわからないけど、リサは制服を着ている。母さんが起こしに来てないんだから、登校まではまだ時間があるはずなのに。

「母さんは?」

「おばさんなら急ぎの用があるって出かけたわよ。それよりコウスケ、あんた今何時かわかってるの?」

「は?」

 そういわれて、俺は枕元の目覚まし時計を見た。

「あ。……マジで?」

「マジで」

大遅刻だった。今すぐ家を出なければ、学校に間に合わない。

「感謝しなさいよ」

「……ああ」

 なんだか釈然としないが、助けられたことは事実だ。俺はしぶしぶうなずくと、用意のためにリサを部屋から追い出した。



 すぐに着替え、朝飯がわりのエナジースティックを握りしめて家を出ると、リサが門に寄り掛かって俺を待っていた。

「悪い、リサ」

「どーいたしまして」

 通学路にはまだ登校途中のやつらがちらほらいた。どうやら遅刻は避けられそうだ。

 俺が安心して息を吐くと、どこからか子供のような声が聞こえた。

「エル、中二にもなって幼馴染に起こしてもらうなんて情けないエル!」

 ポンっという音とともに薄いピンク色をしたフクロウのような鳥が訳知り顔で現れる。

「うるせえ、カント」

 俺も人形みたいなそいつ、カントに言い返すが、カントは全く意に返した様子はない。そして腹が立つことに、リサもそいつの味方だ。

「こら! カント。ホントのこと言っちゃダメでしょ。コウスケの無駄に高いプライドを傷つけたら、面倒なのは私なんだから」

「ごめんエル。リサ」

「無駄に高いってなんだよっ!!」

 俺が抗議の声を上げても、二人はただくすくすと笑うだけだ。

「リサが面倒事に巻き込まれるのは魔法少女のサポーターたるカントにとって一番避けるべき事態エル。コウスケの癇癪につき合わされるのは本当に気の毒だから、こうやって気を使ってあげているエルよ」

「そーそー。よくわかってるじゃない。さすが私の相棒」

 相変わらず人の神経を逆なでするのがうまい。鳥にあるまじき毒舌だ。

ただ、今何を言っても癇癪だといわれてしまうので、俺は黙って唇を噛むしかなかったのだった。



 それはいつも突然やってくる。



「エル! リサ、出動エル!!」

 カントが急に飛び上がった。

「え? こんな時間に?」

 リサは心底嫌そうな顔をしてカントを見る。

「あいつらには時間も何もないエル! 急がないと大変なことになるエル!」

「はいはい。わかってますよ。ああー、魔法少女は大変だわぁ」

 大きなため息とともにリサがブレザーのポケットからネックレスを取り出した。真ん中にはオリーブ型の枠でかたどられた、大きな赤い宝石が光っている。

「目立つからあんまつけたくないんだけど……」

 ぶつぶつ言いながらネックレスをつけ、胸元に来た宝石に両手を当てた。

「行くよ、カント!」

「エル!」

 手の中の宝石が輝き、指の隙間から現れた光のベールがリサの体を覆い包んだ。

あまりにまぶしくて俺は顔をそらした。やがて光の幕がはじける。

単なるセーラー服の、どこにでもいる女子中学生だったリサの姿は、さっきまでとすっかり変わっていた。

 紅の長袖ブラウスに黒いベスト、控えめのフリルが付いた茜色のスカート。

 首元にはルビー色の宝石で止められた紅色のスカーフ。

 かぶっているのは黒いテンガロンハット。

腰のホルダーには銀色の大きな回転式拳銃。

 履いているのは膝まである長い革のブーツ。

「もーちょっとかわいくならないもんかな」

 変身したリサは、不満そうに口を尖らせた。アメリカ開拓時代の保安官を連想させる姿だ。俺は、別に悪くはないと思うけど。

「じゃ、ちょっと行ってくるわ。先生に説明よろしく!」

 リサはカバンを俺に放り投げるとそのまま屋根の上に飛んで、家の向こうに消えていった。

「……相変わらず勝手だよな」

 文句を言っても聞く相手はいない。

 しぶしぶリサの鞄を肩にかけ、俺は歩き始めた。

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