第9話 才能が〇〇
「それで、作戦ってどうするの?」
たった二人の反乱軍秘密基地。つまり、旧レジデンスささやか205号室にて、会議は進行する。
「まずは目的です。これを明確にしてからでないと、作戦は纏まりませんからね」
「目的って、それはあれだろ? リラリを出し抜く。これで決まったんじゃないの?」
「それはあくまで過程です。リラリさんを出し抜きはしますが、その結果どうなるか、が大事です。現状、私の中では『真澄さんの魂をリラリさんに渡さない』のが最優先です」
「でもさ、それなら俺が指名拒否すればいいだけじゃない? 原因は分からないけど、俺はあの世界に転生しても問題ないよ。確かに才能もなくくだらない人生だったかもしれないけれど、別段不幸だった訳でもない。もう一度あれをやれ、と言われても、そこまで悲観的な訳じゃあない」
「真澄さんの言う通りです。私達の一番大事な部分を達成するのならば、真澄さんが指名を拒否して元の世界に転生するだけでいいんです。でも、それじゃあ——」
時折見せる彼女の強い表情は、俺の心を揺さぶる。この瞬間に彼女が見せたのは、強く、そして、少しあくどい笑顔。
「勝った事にならないじゃないですか」
「ユミルさんって、偶におしとやかじゃないよね。ちょっと強いところ出る」
「あれ、もしかしてイメージと違います? 失望しました?」
「イメージとは違うけれど失望はしないよ。意外だなあってだけ」
「まあそりゃああれですよ、私も一応神様ですからね。真澄さんの世界にも、神様信仰はあったでしょう? 神話や寓話に出て来る神様ってまともな人ばかりでしたか? むしろ、ネジが外れてる人が多くありませんでした? それと同じですよ。私も一応神様です」
「あー凄く納得いった。でも、それにしてはまともだよね。ユミルさんは」
どちらかと言えば、その話を聞いて納得がいくのはリラリという女の性質だ。ユミルさんはむしろ外れてしまう。
「そうですねえ。私は元々人間だったので、もしかしたら人間っぽい部分が残っているのかもしれません」
「え!?」
ぽかんと開口してしまう。多分今俺は、随分な阿保面をユミルさんに向けている。
「ん? なにかおかしいですか?」
「いや……神様って、なんか特別なものだと思ってたから」
「特別ですよ。勿論、私みたいな元人間ではなく、最初から神様として生まれた神も居ます。神様の出自は色々ありますよ~。共通しているのは、その世界においてルールに則ったまま超常的な存在になったしまった者という点ですね。過ぎた信仰によって神格化してしまった英雄だとか、魔法に魔法を重ね、その世界のキャパシティを超える存在になってしまった、とか」
「へえ、そうなんだ。ユミルさんもそうなの?」
軽い気持ちで、尋ねてしまった。
「私は、天災を止める為の生贄ですね。多くの命と引き換えに祀り上げられた私の魂は神としての性質を持ってしまい、死んでここに来た時に神と認定されました。私が死んだのは呆れる程昔の話ですから、ドラフトの制度もありませんでしたし、こうして神になるしか選択肢はありませんでした」
「……ごめん、軽率だった」
俺が言うと、ユミルさんは気持ちを隠すとかではなく、純粋な笑顔を浮かべる。
「やめてくださいよ。まるで人間みたいに私を扱わないで下さい。その謝罪は人間の価値観でしかありません。私はそんなのどうでもいいんですから! はい、暗い話はおしまい! 作戦会議ですよ、真澄さん!」
そんな彼女の笑顔を見て、俺はすぐに気持ちを切り替える。
「うん、分かった。作戦会議だ。リラリに勝つんだったね」
「はい! 勝ちましょう!」
両手の拳を握り込む彼女は、やたら力強く見える。
「で、指名拒否が勝利条件じゃないとなると、どうすればいいんだ?」
「指名拒否はあくまで最終手段と思って下さい。この場合、出し抜くにはやはり、リラリさんの指名巡より早く真澄さんの事を指名して獲得する、のがベストになるかと思われます。ですから、私はこの間真澄さんを一位指名する! と息巻いたのですが……」
「なにか問題があった?」
「えっと……」
転じて、先程まで充実した気力に満ちていたユミルさんが、俺から目を逸らす。なにか言いたげで、しかし口籠る。
「ど、どうしたのユミルさん?」
「えっとですね……その、リラリさんは、真澄さんの事を次回のドラフト会議で一位指名するって言っていたんですよね?」
「うん、今回の三十七回じゃなくて、三十八回、つまり、次回のドラフトで一位指名するって言っていた」
「一位で指名するっていうのは、もう本当に絶対に欲しい魂に行くのが普通なんです。例え競合してでも、自分の抱える世界の中で危機に直面している、そんな世界を救う為の大逆転。確かに、それを他人を出し抜く為のブラフに使う場合もありますけど、基本的には純粋に欲しい魂を指名します。優秀な魂を手に入れる事は、どんな状況下でも効力が絶大ですから……」
ユミルさんが言葉を並べ立てるけれど、いまいち頭に入ってこない。なんだから話の本筋が見えない。遠回りしてなにかを隠す様な、曖昧な語り口だから話のシルエットがぼやけている印象を受ける。
「ユミルさん、なにが言いたいの? なんかいまいち話が……」
「あ、ああごめんなさい……えっとですね……つまり、ドラフト一位指名では、おおよそ……九分九厘、九十九パーセント、優秀な魂を指名するんです」
「まあそうだろうね。こんな俺にも、なにか才能があるんだろうね。とても俺にはそうは思えないけれど」
自分の人生を回想すればそれは明らかだ。人生においてなに一つ人より秀でた事などなかったのだから。
しかし、リラリが俺を欲する以上、なにかがある。それは恐らく、例に出されたような、俺の世界では役に立たない才能だったのだろう。
そう、漠然と考えていた。
「それがですね……この二日間頑張って調べたんですが……なかったんです」
「え?」
ユミルさんは、消え入りそうな声。そして、今にも泣き出しそうな顔を俺に向けて言った。
「真澄さんには……なんの才能もないんです……」
異世界転生ドラフト会議 高坂はしやん @kosakahashiyandayo
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