破滅の神話
「魔族が生まれた時代……って、魔族は昔からいるもんじゃなかったのか」
「1000年は昔の話だよ。昔は昔だろう?」
「いや……もっと、こう……世界って何万年も前から始まってんだろ? なんか随分新しいな……」
「万じゃないね。世界そのものが始まったって話になると遡れるのは何十億年って話になるけど……ま、そんなことのお勉強をしたいわけじゃあないよね。とにかく僕ら魔族はそういう意味では新しいよ。知的種族では多分一番最新だ」
ホークは、なんのことはない天地開闢の話をさらりと聞くだけで、急にゾッとしてしまった。
何十億年?
そんな単位なんて誰からも聞いたことはない。パリエス教会の創世神話でも、一万年より昔の単位の話なんて出てこない。
「おや。そういうのさえ君らには少し飛躍した知識だったかな? まだ話が始まってすらいないのだけど」
レヴァリアは面白そうにホークの表情変化を見つめる。
「……レミリス。そういうのって……知ってたか?」
「世界の話?」
「ああ。……アスラゲイトでは学問進んでるんだろ」
「ん。……でも、五万年」
「世界の歴史、それだけだと思われてるってことか?」
「エルフの伝承、確証とれるの、それだけしかない」
「……例によって魔族は何も教えないってか」
「ん」
専門家ではないとはいえ、知識人層に位置するはずの魔術機関にいたレミリスがそうだということは、アスラゲイトではそれが常識ということだろう。
そして比較的新興国であるロムガルドがそれ以上の知識を持つということもあるまい。
ホークたちは、既に未知の世界に足を踏み込んでいるようだった。
「魔族が新しい種族ってんなら、何でそんなもん知ってるんだ、って疑問があるが」
「1000年ぐらい前に世界は一度滅びかけた。それが答えだよ、盗賊君」
「答えになってるかよ。魔族がその時代に生まれたなら億年の昔なんて誰も知るわけがない」
「それは見たわけじゃないけどね。当時は、それより昔のことを調べる技術があったんだよ。その頃には、今よりもっと世界の成り立ちははっきりしていた。必要のない知識だから講釈するのは控えるけれど、僕らはそういう知識をたくさん持っていたんだ。そして、それが君たちの手に残らなかったのは、世界が滅びそうになったからさ」
レヴァリアは子供に絵本の補足知識を語るように言う。事実、そういう感覚なのだろう。
ホークたちはこの魔族から見れば、赤子と大差ないほどに知識が少ないのだ。
「魔族はその時代の産物として生まれた。……ところで、魔族なんて言っているが、これは本当は君たちのために名乗った名であって本当は正確な言葉じゃない……っていうのは知ってるかい?」
「意味わからねえあやふやな問いかけなんかするな。知らねえよ」
「うん。知らないというのを認めるのはいいことだ。どういう意味かというと、人間族、エルフ族、ドワーフ族……といった生物種的な意味で魔族は同族関係を括っているわけじゃないってことだよ。水で呼吸するから魚類、くらいの雑な括りで魔族と総称しているだけなんだ。無限の寿命と高レベルの魔力、それにせいぜい人型ってくらいしか共通点はない。当然、ガルケリウスがイレーネを犯しても子供なんてできない。お互い牛と馬くらい違う生物だからね」
「……嫌な想像をさせるでない」
イレーネが本当に嫌そうな顔をした。
「そしてもちろん、例えば盗賊君が僕やイレーネにいくらせっせと子作りしようとしても無駄だからね。人間とエルフの間には頑張れば子供が出来なくもないが、魔族は生物としてそれよりずっと離れている」
「…………」
「ん? 言われて僕の抱き心地に興味が出てきたかい?」
「いいから話を進めろインチキ幼女」
「君は思ったことがすぐ視線に出るねえ。まあ無駄だから一晩くらい相手してあげてもいいんだけど、同じ性欲の無駄遣いならイレーネで発散する方が健康的だよ。幼女趣味は良くない」
「い・い・か・ら、進めろ」
ホークは思い切り渋面を作る。
自分を性的な話題でからかおうとする女が多すぎやしないか。
そんなホークの苛立ちを知ってか知らずか、いや多分知ってのことだがイレーネはしれっと話題に乗る。
「お前も母国を七百年支配したプリンセスじゃ。知った今ならプレミア感がある一夜になるのではないか」
「なるほど、確かに精神的には充足感はあるだろうね。そういうので興奮するタチかい」
「ねえっつってんだよ! メイでもちょっとアウトだよ!」
ホークはついメイの名前を出してしまったが、横で聞いていたメイがふくれっ面をする。
「むー」
「落ち着けメイ殿、ちょっとアウトなら今しばらく待てばうまい具合に合格圏だろう」
「そうは言っても、今そこにある危機が……。おっぱい魔族が安心物件でも、ファルネリアさんとかレミリスさんがアリってことだし……」
「……私は既に考慮の外だろうか」
「真っ黒女は既に面白枠に収まってるよね」
「お前ら本当にどうでもいい話を広げるな。これ本筋に全く関係ないだろ。っていうか本筋の話が全然始まってないだろ」
ホークは彼女らを強引に黙らせる。
「とにかく魔王戦役に繋がる話をしろインチキ幼女」
「まあ、繋がらない話でもないんだけどね。……僕ら魔族が仲間意識が希薄なのは、そういう側面があるってことさ。一属一種一人。僕らは、生まれた時から一個体で完結した生物だ。魔族はただただ、同じ時代に別の形で生まれた人型動物同士に過ぎない。それがどういうことか」
「謎かけが好きだな。俺にいちいちそんなの答えさせてたら話が終わらねえぞ」
「いいよ。暇だからね。朝までお喋りしようじゃないか。……僕を詰問している間は君も呪印の苦しみが弱まるだろう?」
「!」
ホークは今更悟る。時間稼ぎか。
生き返りの秘法を前にして、ジェイナスたちと10歳の子供たちを秤にかけたことを忘れるために……。
「おっと、戻るなよ盗賊君。あれは最初から君のための選択肢じゃない。あの儀式を邪魔して、あの子たちを救い出したとしても、近いうちに他の貴族のために別の子供が使われる。順番が彼らだったというだけだ」
「……くっ」
「他人を襲う理不尽のために悩めるのは素晴らしい。だが君がぶち壊しにしても生き返りの秘法は色んな国で行われている。それを絶やすことはできないし、そもそもジェイナスたちなくして倫理面の甘い反応ができる情勢じゃないだろう?」
「…………」
「何かを憎みたいならそれもいいさ。僕でもパリエス教会でも、なんでも憎んだらいい。だが儀式はもう進んでいる。夜明けにはジェイナスとリュノの心臓も動き出すだろう。なおもそれが腹立たしいなら、ジェイナスを改めて殺したっていいよ」
「なん……だと」
「その場合、このレヴァリア王国の対魔王戦略は終了だ。他のどこかに期待するだけ。もう魔王軍がレヴァリアに来たとしても僕は知らない、というだけだね。国民たちが何万死のうが僕は君を罰しないよ。……だって僕は別の生物だ」
レヴァリアはニヤッと笑う。
「人間たちを国家という単位で操作して、魔王戦役に耐えられる人材を出しやすくする。人間たちは、僕のそういう趣味の作業にメリットがあると考えているから協力している。でも僕は失敗したって構わないんだ。この国の人間が根絶やしになったとしても別に悲しくも悔しくもないよ。また何百年か使ってやり直せばいいもの」
手を広げるレヴァリア。
「君は君が見逃したジェイナスの死をどう受け入れる? あの小さな命が勇者という希望を再び灯すために使われるのを受け入れるか。そんな犠牲で生き返るジェイナスを許せないか。どちらにしても君は命を見捨てるんだ。彼が生き返らなければいけないのは僕の都合じゃない。人間たちが生き残るための必死の策だ。僕はそれを成就させてやるためにこうして長話をしてやっているが、どうしてもぶち壊したいなら勝手にしろ。……さあ、どうする?」
酷薄な言葉。
それのいくらかは、お気に入りの幾人かを守るための偽悪的なものなのだろう。
だが、事実でもある。ホークがあの子供たちを救ったとしても、そのためにもっと大きな犠牲は出る。そもそも見知らぬ子供は見過ごせないのに、ジェイナスたちは見殺しにしてよかったのか、というホーク自身の罪の話になる。
きっと“盗賊の祝福”を出し渋ろうとなんてなければ、ジェイナスとリュノ、どちらか一人くらいは救えたはずなのだ。分断されたメイが戻ってくるまでの時間稼ぎくらい、できたはずなのだ。
後からは何とだって、ともいえる。あの時はホークはそもそもジェイナスを疎ましくすら思っていたし、リュノにもメイにも大して思い入れはなかった。
一山いくらで魔王軍相手に死んでいく兵士たちと同じくらいの相手でしかなかった。
その絆の浅さが、ひいては深める努力もしなかったホークの人間としての浅さが招いた事態なのだ。
ホークは浮かせかけた腰を落とす。
「……話を、進めろ」
「うん。そうだね」
レヴァリアは笑う。少しだけ、複雑な慈愛がその表情に差す。
「昔々の世界の危機に話を戻そうか。……その滅亡の前、世界は今より高い文明を持っていた。何億年も昔のこの世界の姿を見抜き、人が魔族をデザインできるほどに」
「デザイン?」
「そうだ。僕ら魔族は、人にデザインされて作られた。僕らはエルフやドワーフ、獣人よりもさらに優れた、新しい種族を作るための試作品だ。世界中に何百もあった研究機関で、競うように作られたんだ。……まだ試作品なのに繁殖なんかすると面倒だから、その可能性は排除しつつね。僕たちは同じ時期に同じ技術水準で生まれたという、それだけのものであり、互いを守る意識に欠けているのはそういう理由だ。まあその是非を語るのはよそう。キリがないからね」
レヴァリアはイレーネと視線を交わす。
当事者であるふたりだけが共有できる感情や葛藤は、当然あるのだろう。
「僕らはまた、兵器でもあった。当時の人類は自然界を征服していた。少なくとも、飢えや魔物で死ぬ者は今よりだいぶ少なかった。……余裕があったからこそ人同士の戦争は多く、強い力を持った試作新人類の僕らは当然投入されたよ。当時から魔族同士はそういう意味で敵同士でもあった。……でも、それはそれでまだうまく回っていた方だったんだ」
言葉を切り。
「もう一度、問いかけよう。君が自分より優れた生き物を作れるとなったら、最強は、どうやって作る?」
「……思いつく限りの強い要素をぶち込むだけだろ」
ホークはもはや謎かけに異を唱える元気もなく、ストレートに思いついたことを言う。
レヴァリアは頷き。
「それが当時の大抵の奴の答えだった。それで回っていた頃は、野蛮ではあったけど、まだよかった。だけど無責任なことを考える奴が現れた。『自分より優れた頭脳を持つ生命体を作り、そいつにさらに強い生命体をデザインさせ続けよう』とね」
「そんな手が……」
「うん。一見いい手だ。だが致命的な欠陥があった。そうやって頭脳拡張リレーを始めた本人が意図していたことは、もっと優れた次代の創造体に早々に『愚か者の寝言』として無視され、その次代でも同じことが起こった。その当事者たちは誰もが自分こそ一番冷静であると考えながら凌駕されていき、加速の果てに完全に隔絶した制御不能で理解不能の化け物が生み出された。それが文明を滅ぼす直接の原因になったんだ」
かつて起きた歴史。
人が、ロムガルドのような国家が総力を挙げてようやく相手できる魔族。
そのうちの一人であるレヴァリアすらもが、1000年の時を経てなおも語りながら震えるほどの惨劇。
「あれは恐ろしいことだったよ。地平線まですべてが溶岩のように溶かされた光景。手当たり次第に火山が作られ、遥か四方で吹き上がる火柱でいつまでも照らされ続ける都。海が蒸発し、空が赤く澱む。何より、そんな光景を生んだバケモノの行動原理を、生きている誰もが理解できなかった。ソレは人の理解をハナから置き去りにしていた。何故世界を滅ぼそうとしていたのか、それさえ最後まで誰にもわからなかった。魔族さえ」
「そんなものが……でも、そいつが今いないってことは、勝ったんでしょ?」
メイが言う。
そう。遥か1000年前に、済んだ話だ。
「勝ったよ。……そう。本当はそれが一番の問題だ」
レヴァリアは震える己の肩を抱きしめ、天を向いて溜め息。
「ソレは、人の叡智が必然として生み出した災厄。過程を理解すれば、そうなるというのもまた、わかる。例えあまりに高次元の存在として僕らの考えが及ばなくなっていたとしても、そんなものになり得た理由はわかる。でもね。ソレを倒したんだ。手の付けられない叡智の暴走を、そうでなかった人間の力が止めたんだ」
「……え、どういう……」
「僕たちはその時、本当の神の存在を確信した。僕たちは神になったと思っていた。思い上がりだったんだ。……何も手を施していない人類の中から、あの邪神ともいうべき存在を討伐する、誰にも不可能なことをやったバケモノは生まれた。僕ら旧文明の小賢しい知恵など、本当の神が人の中に仕組んだチカラにはかなわないと知った。世界は守られた。……僕は守られたと考えたかった。でも、そう考えなかった魔族も、当然いた」
レヴァリアはホークに視線を戻す。
「逆に考えるといい。人はいつ、あの世界を終わらせる邪神をも凌駕する『勇者』を生み出すか……『勇者という名の破壊神』を生み出すか、わからないとも言えるんだ。魔族はそれを知ってしまった。それが邪神に対応した時にしか生まれないなんて誰が保証できる? そのポテンシャルは、依然として人類の中にある」
ホークは絶句していた。
バーナードの言葉を思い出す。
──この世がいかに脆く儚いか。二度と安らかには眠れぬかもしれん。
そして、イレーネはレヴァリアの言葉を継ぐ。
「全ての魔族は知り、恐れている。人の中の可能性を。それに全てが滅ぼされる結末を。……ある魔族は魔王として戦うことでソレを見出し、ある魔族は人を育て、研究することで本当の神のカラクリを解き明かそうとする。……我らはみな、旧文明という主を失ったことでその存在意義も失った。無限の寿命と無限の不安の中で、あの再来を悪夢に見ながら過ごしているのじゃ」
「百年に一度の魔王戦役は、あの後長い時間をかけて魔族同士が作った紳士協定。戦乱の中で僕たちがその真実に近づくために、世の繁栄とのバランスを保ちながら続ける巨大実験。やがて僕らがこの世から尽きるまで続く、破壊神の生まれる道を見つけ出し、あるいは克服できると確信するまでのお祭りだ」
「……話がデカ過ぎてわけがわからねえ」
ホークの価値観は、壮大すぎる歴史の裏側の話に完全に飽和していた。
満足げに、そして皮肉げにレヴァリアは頷く。
「いつか僕ら魔族がそれを完全に諦めるか、あるいは全てこの世からいなくなれば、魔王戦役という戦いはなくなるよ。僕らはその後のことなんて知らない。たまたま限界のない寿命を付与されて生まれてきたが、本当に永遠に生きたいわけじゃない。ただ、あの恐怖を上回る何かの正体を見るために、今を生きているだけさ」
「……つまり第七魔王も、そのために」
「それじゃがな」
イレーネが口を挟んだ。
「そう単純な話ではなくなっておるかもしれんぞ」
「ジルヴェインか」
「うむ。奴は……少なくとも儂の知る魔族ではない。儂らの知る、1000年前の生き残りではない」
「俺たちは創造体なんじゃねえのかって推測してるが」
「あるいは、そうなのやもしれん。じゃが、それなら第七魔王自身はどうしておる。影武者にしては手が込み過ぎておる。あの強さはそう簡単に実現できるものではない」
「……何かの趣向か? あるいは体調が悪くて任せざるを得ないとか」
「魔王が旗揚げをしておきながら体調不良とは冗談にもならん。魔族の力ならば、死んでさえいなければ己の不調などどうとでもなる」
「……お前にわからねえなら、俺たちがわかるわけねえよ」
ホークは白旗を上げる。イレーネは腕組みをして口をへの字にする。
その時、ノックの音が響いた。
「リルフェーノ殿下。……生き返りの儀式、無事に終わりましたぞ」
ルドルフの声だった。
「ああ、そうか。……よかったね、君たちの命運は繋がった。あとは……盗賊君。その『イグナイト』はルドルフに返してやってくれ。仕置きは済んだだろう」
レヴァリアはホークが掴んでいる魔剣を指差して言う。
入室してきたルドルフは嫌な顔でホークを一瞥した。その右手はレヴァリアが繋いだのか、元通りになっている。
「君が持っていても役には立たないだろう。ロータス君もどうやら余るほど魔剣を持っているという話だし」
「貰っちゃいけねえかな」
「売り払う気ならやめてくれ。僕が払うよ。なんなら昨日あげた分の倍出してもいい」
「殿下! こんな輩に……」
「ルドルフちょっと下がってて。君は負けたんだよ。弱い上に無駄吠えする犬なんて僕は飼う気はない。せめていい子にしててくれ」
「ぐぬ……」
壮年の騎士があどけない姫にさっくりとあしらわれるのは胸がすくが、ホークはそんなつもりだったわけではない。
「ロータス以外にも魔剣を使える奴はいる」
「……何?」
「決めの武器に困っててな。こいつを使わせたいんだ」
その時、メイの髪がザワリと金色に変わる。
例の精神集中でメイが引っ込み、ファルに入れ替わったようだった。
「お初に、レヴァリア様。……ロムガルドのファルネリアと申します」
「……驚いたな。これは……人格転送か。人間にこれを教えた奴がいるのか」
何が起きているのか、レヴァリアは一目で見て取ったらしい。
そして、背筋を伸ばしたファルはホークから魔剣を受け取る。
「お借りします。……これからの旅に、使わせていただきます」
「勝手なことを言……」
「ルドルフ」
食って掛かろうとしたルドルフに、レヴァリアはあまり大きくない声ながら一喝。
「僕に同じことを言わせるな」
「……は、ははっ」
「そうか。“勇者姫”か。ロムガルドもきな臭いからね。こっちに頼ったのか。悪くない判断だ」
レヴァリアはファルの目を見つめて頷く。
「いいだろう。それは貸すよ。まあ二級品だけど、この国では貴重品だ。大事にしてくれ」
「……ありがたく」
「殿下……」
「ルドルフには他のを今度用意するよ。とはいえ、若い奴に簡単に負ける近衛長の仕事は儀礼がせいぜいだ。竹光でいいかもしれないけどね」
泣きそうな顔をする近衛長。
「それと、これからの旅っていうが展望はあるのかい、“勇者姫”」
レヴァリアの問いかけに、ファルネリアは頷く。
「私たちはホーク様についていきます」
「たち?」
「メイさんと私です。ロータスも」
「ん」
スッと手を上げるレミリス。一緒に行く、という意志表明らしい。
それを聞いてレヴァリアは椅子に反り返り、クックックッと愉快そうに笑う。
ルドルフはレヴァリアを気にしながら口を開く。
「メイまでもか」
「メイさんはホーク様をこそ信頼すると言っています。それにここは母国。ジェイナス様の供をする人材には事欠かないはずだ、と」
「メイほどの者がそういるならば、13歳の娘を戦いにやるはずなど」
「ルドルフ。いいじゃないか。彼らの言う通りだ。ジェイナスを使うなら他にいくらでもやりようはある。……面白い。イレーネと新しい才能の坊や、この戦役で何をするのか楽しみになってきたよ」
「……え、おい」
いつの間にか、ホークを新しいパーティのリーダーとして独立する流れになっている。
「わかった。好きにするといいさ。さんざん好きにしろと言った手前だ」
「ありがとうございます」
「殿下!」
「ルドルフ。ジェイナスたちの世話をしていろ。僕はもう寝る。……盗賊君たちも今日は寝ていくといい。こんな夜更けに宿を探すのは骨だよ」
「……あ、あれ? なんか……この先の流れが俺不在で決められちまったような……」
「ああ、ベッドに入るついでだ。どうしてもというなら僕の味見でもするかい盗賊君?」
「盗賊!!!」
いったん出ていきかけて顔を真っ赤にして戻ってくるルドルフ。剣はその辺の兵士から取り上げたらしいものを握っている。
「魔族って全体的に下品な冗談が好きすぎないかイレーネ……」
「儂はむしろあの騎士がまずい趣味にしか思えんのじゃが」
レヴァリアはおそらく彼が若い頃から同じ姿なので必ずしも異常性癖でもないんじゃ、とホークは言おうと思ったが、どんな年齢でもちょっと犯罪臭がするのでやはり黙った。
騎士の忠誠に下衆の勘繰りをすべきでないとも思う。
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