不穏分子

 敵が強いと力不足が露呈するロムガルド勇者隊、というのが玄人の評らしいが、逆に言えばあまり大したことのない相手にはめっぽう強いということでもある。

 魔剣はそれだけ強い武器だ。

 ただの剣や槍なら、どれだけの名剣名槍といえども素人使いには大差ないものだが、魔剣は一振りで幾人も倒し、戦局を一変する力がある。

 たとえ彼我の数に大差があっても、いや、大差があるからこそ、優位側の一員は「よりにもよって自分が勝利の犠牲にはなりたくない」と思うものだ。

 魔剣使いのロータス、ゲイル、マリンに対する攻勢は自然と緩みがちになり、それが逆転の付け目になる。

 どんなに弱兵でも手傷を与えてくる危険があるからこそ「多勢に無勢」は成立する。攻撃をしてこない「多勢」は、やられる順番を大人しく待っているにすぎないのだ。

「撫で斬りだな!」

「丸焼きにしてやんゼェェ!!」

「行きなさい『キラービー』!」

 それぞれが魔剣の猛威を振るい、そのたびに取り囲むゴロツキが減っていく。

「ひ、怯むな! たったあんだけだぞ、やっちまえ!」

「斧を投げろ! とにかく殺せ!」

 ゴロツキが距離を取って攻撃する方針に変えるが、どうせ狭い市街地、しかも夜間。大した距離は取れず、その距離はさらにロータスたちにとっては有利になる。全員、持っている魔剣のおかげで中距離攻撃はむしろ得意なのだ。


 それに対し、ホークとメイはこれといって派手な戦闘手段を持たないように見えるので、敵の攻撃は集中していた。

 が、それはすぐに間違いだと思い知ることになる。

「メイ、全開だ! すぐに片付けてさっきの馬を追うぞ!」

「おっけー」

 メイが自らの本能を制御し、一瞬で全身を戦闘状態に跳ね上げる。

「ホークさんはちょっと休んでて。アレ、使ったんでしょ?」

「悪い」

 気遣いをしてくれるメイがやっぱり唯一の仲間だな、と和む。

 いや、目の前で次の瞬間に繰り広げられた光景は和むどころではなかったが。


「はぁぁぁっ……りゃあぁぁっ!!!」


 数瞬溜めたメイは、手に手に武器を持って襲ってくる男たち5、6名を、ほとんど音が一つに聞こえるほどの拳打で爆発的に吹き飛ばしていた。

 数十ヤード先の民家の壁や石垣などを崩して止まった彼らは、確認するまでもなく二度と起き上がることはないだろう。

 それを見てギョッとした後続も、メイの獣より速い接近に武器を構え直す暇もない。

 少女の形をした怪物に、砕かれ、折られ、壊される。

 殴るとか蹴るなんて言葉では表現しえない、暴力の極限が闇の中から猛速で襲い掛かる。

「あたしに喧嘩売るなら、夜に来たのが間違いだよ。……昼間でも避けられそうにないけど」

 メイは鬱憤を晴らすように、あっというまに二十名以上の敵を撃破していた。

 ロータスたちを囲んでいる敵より、メイが倒した相手の方が既に多い。

「あっちも援護する?」

「……一応、減らしとけ。あのバカの攻撃範囲には気を付けろよ。巻き添えにされるとコトだ」

「うん。じゃ、遠めの奴から」

 メイが瞬間移動のような速さのダッシュで、敵の後衛に音もなく近寄り、空高く殴り飛ばし、蹴り伏せる。

「メイ殿!」

「あんたたちがもう引っ込んでてくれると早いんだけど」

「お、おい、姫様の体でもあるだろ、無茶すんなヨ!?」

「危ないですよ!」

 勇者たちが慌てるのを尻目に、メイは慌てて刃を向けるゴロツキたちを雑草を抜くように殺戮していく。

「どういう敵なのか知らないけ……ど!」

 メイの動きには全く慈悲はない。

 それは魔剣などという単純な攻撃力とは違う、明確な意思に制御された、絶望的な暴力。

 そして。

「今日のあたし、めっちゃくちゃ機嫌悪いからね……!」

 理不尽な襲撃者は、それを超える圧倒的な理不尽に殲滅されていく。


       ◇◇◇


 騒ぎはすぐに周辺住民にも知れ渡り、集まってきた野次馬たちによって、彼らの正体がある程度看破されていた。

 というより。

「この辺の奴らみてえな服着てるが、どいつもこいつも一人も見覚えがねえ」

「武器の短剣や斧も、ここらじゃ見ねえ型だ。少なくともウチじゃこんな拵えの奴は扱ったことねぇよ」

「こいつら一体何なんだ……?」

 全然、町と関係ないことが「わかった」。

「アンデッド化すると面倒です。すぐに葬りましょう」

 マリンがそう言うと、町の住民たちはいそいそとそれを手伝う。

 死体を放置すれば、一番被害を受けるのはこの町だ。はた迷惑な異邦人同士の争いとはいえ、処置をすると言い出したマリンに文句を言う者はいなかった。

 大国ロムガルド公認の勇者に表立って盾突くのも、決して賢明ではない……という理由もあるだろうが。

「状況から察するに……少なくとも俺たちとは関係なさそうだな」

 ホークは今手に入る情報からの推論を言う。ロータスは頷いた。

「ロムガルドにこそ縁がある何者かのようだ。先ほどの“声”から考えてもな」

「つまりジェイナスたちの死体が盗まれたのは……何かと間違えてのとばっちりってことじゃねえのか」

「そうなるかもしれん」

「ふざけやがって。……行くぞメイ」

「うん」

「待てホーク殿。……取り返すのはやぶさかではないが、メイ殿はマリンと共に置いて行ってほしい」

「どういうことだよ」

「姫だ。どういう拍子で姫の人格が失われてしまうかわからぬ以上、メイ殿を不用意に危険には晒せぬ」

「お前いい加減にしろよ」

「ジェイナス殿が大切なのはわかる。だが、姫も失うわけにいかぬお方だ。長兄ヘンドリック殿下を失い、姉姫アーマントルード殿下も裏切った今、今やロムガルドを受け継ぐのは次兄アルフレッド殿下と我が姫のみ。だがアルフレッド殿下は体も虚弱で人前に出るのを嫌い、国民からの支持は残念ながら最低に近いお方だ。姫なくしてはもはやロムガルド王家に先がない」

「そういう人材をぽんぽこ前線に投げ込んでるのはお前らの責任だろうが! メイにあいつが居座ってるのもあいつ自身の我が侭だろ! それで危機になるってんならお前らが悪いんだよ、もうこれ以上邪魔すんじゃねえ!」

 ホークが溜まった怒りをロータスに叩きつける。が、それを横で聞いていたゲイルが反論する。

「テメェこそいい加減にしろヨ? チンピラと子供ひとり残して逃げ回ってるお前ら自身、どこでどうなってもおかしくねェんだろうがヨ。それで逃げ道の助けに俺らを頼ろうとして追っかけておいて、いざとなったら関係ねェから姫様がどうなろうと文句言うなってェのかヨ。勝手が過ぎるだろうが!」

「お前は頼ってねぇから黙ってろ」

「ロムガルドの姫様の話だろうがヨ!」

「マジでいい加減にしろ殺すぞ」

「やってみろクソチンピラ!」

 睨み合う男二人。

 ……それを、メイの手が制した。

 いや。

「思い違いをしているのはあなたたちです。控えなさい、ロータス、ゲイル」

「……姫」

 倒れることなく、メイが金髪に……ファルネリアになっていた。

「ロムガルドの未来を憂うあなたの気持ちは立派です、ロータス。ですが、私のような小娘一人失って滅ぶ国なら、放っておきなさい。それが世界の為でしょう」

「姫!」

「そもそも、私が本当に魔王から解放され、蘇るためには、ジェイナス様のお力が必須。そんなことを抜きにしても、世界の為にはジェイナス様こそが何よりも優先されるべきことです。私はそれを手助けするためにメイさんの体を選びました。もし私のせいでそれが妨げられるのならば、今すぐ消えるべきでしょう。ホーク様、そうすべきと思ったならば、いつでもこのペンダントを砕いて下さい」

「……い、いや、それは」

「勇者王国たるロムガルド王族として生まれ、勇者としての力を授かった私は、魔王から大陸人類を守るためだけに生まれてきた存在と言えます。どんな手を使ってでも私は魔王を倒します。そのために拷問を受ける本体を捨て、こうして心を残したのです。……逆に私が邪魔で魔王が倒せないというならば、喜んで消滅しましょう」

「姫……」

「姫様、そりゃあんまりじゃねェかヨ」

「あなたたちも覚悟を決めなさい。ロムガルドという国を見捨ててでも、他の何に頼ってでも、命を捨ててでも私は人類を守る。それだけの覚悟があの魔王と戦うために必要だと、何故わからないのですか。既にただの戦争ではない。災厄と人類の滅ぼし合いなのですよ」

「…………」

「……っ」

 ロータスは目を伏せ、ゲイルは歯を噛みしめて一歩下がる。

 たった14歳の娘が、自分自身の肉体を失いながらも言い放つ覚悟。

 それは、昼間に変な騒ぎを起こしていたのと同一人物には思えない。

 いや。

 だからこそ、だったのかもしれない。

 恋よりも、楽しみよりも、やらなければいけないことがあった。

 手の届く場所にあり、誰もが楽しんでいたことでありながら、絶え間なく学び、鍛え、覚悟し続ける“勇者姫”であらねばならなかった少女には、決して許されないもの。

 それが、誰かに恋し、気持ちを表現し、未来を夢想するということ。

 この戦場に来るまでは、少女はそれに手を伸ばすこともできなかった。

 この戦いが始まらなければ、終わった後を語ることすらできなかった。

 そこにホークがいたのはただの偶然でしかなかったとしても、少女はそういう想いを抱いてみたかったのだ。

 ……それが実現しえないことだとしても。自分がこのまま消滅を迎えるとしても。

「……行くぞ。姫さん。ジェイナスを取り返しに」

「……あ、はいっ……え、ええと、申し訳ありません、我が国の……」

「姫さんっていちいち言うのも問題だな。今回みたいな連中にどう嗅ぎ付けられるかわかったもんじゃねぇ」

 ホークは、ついてくる少女をしばらく見つめ、そして決める。

「ファル」

「え……?」

「これからその状態のあんたのことは『ファル』って呼ぶことにする。それならあの姫さんだとは誰も思わないだろ」

「……はっ……はいっ!」

 雑な略称だが、彼女はまるで最高の誕生日プレゼントを貰ったように笑う。

「ほ、ホーク殿! 私も行くぞ」

「クソッ……ええい、俺も行くッ!」

 ロータスとゲイルもついてくる。

 襲撃者たちの根城を目指し、ホークたちは出発した。


       ◇◇◇


 普段から街に居着かない連中が数十名単位が移動していたのだから、目撃者には事欠かなかった。

「あっちの山の方から来たと思うぜ。最近おかしいと思ってたんだ。あっちには集落もないはずなのに、最近急に畑の周りに足跡が多くなってさ。あそこは次の作物のために耕してるんであって道じゃねえってのに」

「なるほど……ありがとう」

 日の出の頃に出会った農夫に礼を言い、ロータスは地図を確かめる。

「あの山だな。おそらくロムガルド縁の者たちが集まっている。……ロムガルド側からは峻厳な道になるが、一応関を通らずにこちらに出てくることもできる山だ。レイドラ軍がいた頃にはそれでも見咎められれば重罪だったが、今はこのザマだからな」

「どういう連中だと思う?」

「推測はできている。おそらくロムガルドの現政権に不満を持つ者……不穏分子だろう。向こうで表を歩けなくなって、仲間を募ってあの山で共同体でも作っていたのだろう」

「そういうのもいるもんなのか」

「どの国にもな。賢しく知恵をつけて、権力の不備や腐敗を糾弾して不興を買うもの……あるいは的を得た指摘かもしれんし、本当に妄言かもしれんがな。とにかく一度そういった視点を持った者は、もはや羊ではいられぬのだ。隙あらば食らいつく野犬となった者たちは、社会の内に住処をなくせば、その外で土を食ってでも牙を研ぐ」

「そういう奴らが、俺たち全員を敗走した勇者隊と見て取って、死体を何か重要人物と間違えて奪っていった……まあ半分勇者なのは事実だし、重要人物でもあるが」

「おそらく死んだ王族か、名のある勇者隊の誰かか……私たちを勇者隊と悟った後に納屋を調べてソレを見つけ、とにかくそういうものと思ったのだろうな。そして有効な取引材料とみてそれを奪い、邪魔な私たちを片付けようと考えた……」

「お前はどう見ても勇者には見えないし、他の面子も大物には見えねぇもんな」

 ホークとロータスの見解は一致した。

 ゲイルは息巻く。

「畜生が。どいつもこいつも魔王が迫ってるってのにわきまえやしねェ!」

「お前が言うな」

 ホークは雑に突っ込んで、山を目指す。

 と、その途中にトラップを見つけてしゃがみ込む。

「止まれ。罠だ」

「罠?」

「ロータス。あの長い魔剣であそこ斬れ」

「……ふむ」

 ロータスが「エクステンド」を振り出してホークの言った通りの場所を斬ると、横から矢が嵐のように飛んでくる。

「……だいぶ激しい奴だな」

「獣用……ではないのですか?」

 ファルの質問に首を振る。

「魔物はともかく、普通の獣はあの高さには引っかからない。……とはいえ、普通の対人罠としちゃ大がかりだ。レイドラ軍に山狩りされるのを恐れて念入りにしたか……こりゃ一筋縄ではいかねぇかもな」

「手当たり次第に魔剣で吹き飛ばしながら行くのはどうだ? 時間をかけるのもよくないだろう」

「悪くない手だが」

 ロータスはそのあたり盗賊とは少し考え方が違うな、と思う。盗賊としてはそんな力押しをしたら肝心の金品を壊してしまって手に入らなくなる、と考えるものだ。

「どこかに隠れ道があるはずなんだ。毎回仕掛けるのは手間が過ぎる。人が通りそうな道以外に、一見してわからない感じに偽装された道が……ちょっと待て」

 ホークは今まで来た道を見渡し、怪しい場所を探す。

 人の足跡はどこまであるか。トラップはどこからあるか。緊急時に追手を誘い込み、騙して一網打尽にするにはどこで分岐するのが効率がいいか。

 正解のパターンはそう多くはない。

「このあたりだな……多分」

 ホークは藪を用心深く調べる。……精巧だが作り物の草藪だ。

 地面を調べると藪の下の地面ごと横にずれる大がかりな仕掛けがあった。そしてその奥には低い位置に洞窟。

 道からはわかりづらいが、馬も通れる広さがあった。

「この洞窟を通って別の道に出るみたいだ。多分トラップゾーンをスルーして、本来のこの道の先に出られる」

「よく見つけられますね……」

「悪党だからな。悪党は余計な労力は嫌うもんだ」

 馬で逃げたことが決め手ではあった。馬はなかなかその場だけの主人の言うことなんて聞かない。夜道でも火事の横でも自在に駆けられたということは、ちゃんと飼っていたはずだった。

 また、わざわざレイドラ農民の服を調達していたということは、付近の街への出入りだって目立たないように細々と続けていたはずだ。木々が助けてくれるエルフ族ならばいざ知らず、人が本当に山だけで生活することは難しい。

 ならば出入りも便利なようにできているはずだ。

 そしてその通りだった。

「ヘッ。盗っ人も役に立つじゃねェの」

「お前本当についてこなくてよかったのに」

「俺もお前について来てんじゃねェヨ。姫様について来てんだヨ」

「ゲイル。私は『姫様』ではありません。ファルもしくはファルさんと呼びなさい」

「……う、ウィッス」

 ファルネリア改めファルは、その呼び名が本当に気に入ったようだった。とても嬉しそうだ。

「……ホーク殿」

「なんだよ」

「だんだん貴殿が決定的な場所に踏み込んでいる気がするのだが」

「何のだよ」

「……まあ、同じ体で修羅場にならねば良いな」

「言いたいことははっきり言え」

 ロータスは答えずに会話を打ち切ってしまった。


 そしてしばらく山を登ると、開けた場所に出る。

 文字通り、ちょっとした集落と言えた。付近にバレずに営んでいられるのがむしろあっぱれな規模だ。

 そして、その真ん中に二人の死体袋が詰まれ、油をかけられて薪の山に載せられていた。

「せっかく盗んでおいて火葬かよ」

「お前らの返答次第ではな」

 その火葬直前のジェイナスたちを背にして、暗い目をした男が腕組みをしていた。

 周囲に十数人の取り巻きもいて、それぞれたいまつを手にしている。

「あの数の同胞を片付けたのは見事だと言っておこう。だがここまでだ。丸焼きの死体では復活も出来んだろう?」

「何がしたいのだ、貴様らは」

「答える必要はないな。だが、わざわざ運んできているからには価値のある死体なのだろう? さしずめ男は第一王子ヘンドリック……あるいは『龍狩り』バイザークあたりか? 女もアーマントルード姫かファルネリア姫といったところだろう。それくらいの格がなくては、わざわざ復活させる価値もないだろうからな」

「一度だけ警告します」

 ファルが進み出た。ロータスの魔剣の鞘を手にしていた。

「その死体を返しなさい。そうすれば見逃します」

「つまらん警告だ。自分で言っていて、そうは思わんか。……雑魚勇者のお嬢さんよ?」

「なるほど。拒絶ですか」

「もしその鞘にある魔剣でなんとかしようと思っているならやめた方がいいぞ。油は四方に散っている。この広場の誰が火を点けても一瞬で燃え上がる。全員を斬り捨てて、なおかつこの死体を無事に奪える魔剣なんてないだろう」

「ええ、そうでしょうね」

「俺たちの言うことは一つ。とっとと失せろ、だ。この死体をロムガルドに持っていき、交渉をする。お前たちはもう出る幕などない。黙って引っ込んでいればこの死体たちは生き返るかもしれないが、ここで火葬となれば終わりだ。わかるだろう」

「なるほど。ええ。わかりました」

 ファルが頷き。

「ホーク様。無茶とは思いますが」

「マジでこっちにブン投げかよ」

「メイさんから聞いた通りのあなたなら、出来るはずです」

「多分メイ本人がなんかする方が確実だったと思う!」


 と、言いながらも。

 ホークは“盗賊の祝福”を、発動する。

 たいまつをすべて奪うか、あるいは死体袋を奪うか迷ったが……一番確実な手として。

 薪の山の上に立ち、「魔法の水袋」を道具袋と干渉させて解放する。


 ドバァ、とタル数個分にもなる水量が空中で飛び散って死体を濡らし、そしてたいまつを持つ奴らにも容赦なく降りかかる。

 ついでに持ってきた道具も飛び散ったが仕方ない。

「なっ……!?」

「いつの間に……!?」

「これじゃ火が!」

「ぼ、ボケッとするな! 皆殺しだ! たった四人だぞ!」

 慌てる不穏分子一派に対し、ファルは優雅に魔剣を二本抜き、鞘を背後のロータスに投げ渡す。

 その二本は「フレイムスロウ」と「エアブラスト」。

「さて。警告の拒否は受け取りました。始めましょうか」

 笑顔だった。

 やっぱりこの子ヤバいんじゃないかな、とホークはゲイルと手分けして死体を引きずりながら冷や汗をかいた。

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