予期せぬ決戦

「魔王……魔王が、こんなところに……!?」

「これでも人間の常識に合う程度の戦略のはずだが? これまでの魔王なら、一足飛びにお前たちの王都に乗り込むくらいはいくらでもやっている。はるばるキグラスから輿に乗ってのんびりと出てきてやったんだ。俺がここにいるくらいで驚くな」

 魔王を名乗る男が目の前にいることに、勇者隊40名は明らかに動揺した。

「く……!」

「姫! むしろ好機ですぞ! 此奴を倒せばそれで終わりです!」

 ファルネリア隊唯一の古参勇者、リディックが叫ぶ。

 狼狽えていた勇者たちはそれを聞いて我を取り戻す。

「そうだ! 魔剣はあり、我々がここにいる! 敵は少数! 絶好機だ!」

「魔王! その首貰い受ける!」

 一斉に駆け出す勇者たち。

 だが、その彼らに横合いから魔剣の斬撃が襲い掛かる。

「ぐわあっ!!」

「なっ……お前ら!」

 アーマントルードとともに現れた部下たちだった。この期に及んで、勇者たちは彼らが魔王に向けて剣を抜いたと思っていたのだ。

「すまない、皆」

「許してくれとは言わん。恨むなら恨め」

 彼らは量産品ではない古の魔剣を手にしていた。見た感じの威力は「ロアブレイド」と同格と思われる代物を、6人でかつての味方に向けていた。

 それだけで10人以上がやられた。魔剣による防御が間に合ったのは手練れのベテランばかりで、若手は運よく斬撃の射線に入っていなかった者だけが生き残っていた。

「勇者としての誇りを忘れたか! 魔王を前にして……何故!」

「お前たちこそ正気を疑うよ。魔王様たった一人で……何の道具も使わずに壊滅させられたばかりなのに」

「臆したのか! それで寝返ったのか!」

「ほどなくロムガルドも落ちるさ。俺たちの拠って立つものなんて何もなくなる……これほどの魔剣ですら魔王様は不用品みたいに俺たちに下さるんだ。その意味が分かるか……この魔剣なんか怖くもなんともないんだ」

 寝返った勇者たちは再び魔剣を振り上げる。

「それで死ぬような俺たちが! お前たちが! 魔王様に何ができるってんだ!」

 六本の魔剣から光が溢れる。

 ファルネリアがその前に飛び出した。

「皆、防ぎなさい!」


 爆光が勇者隊に叩きつけられる。


 謁見の間の壁が吹き飛び、城が一部崩壊する。

 だが、その中でファルネリアは二本の魔剣をクロスさせて防ぎつつ、裏切り者たちに迫っていた。

「姫といえども、もはや容赦しませんぞ!」

「無用です」

 姫君は全出力を使い果たし、インターバルに入った2本の魔剣を鋭く投げつけ、裏切り者たちのうち二人の腕と腹を貫く。

 そして腰に帯びていた「エクステンド」を引き抜きざま、正面の勇者の首を刎ねる。

「こちらも容赦しません」

「おのれ、いくら“勇者姫”といえど我らもっ……ぐわぁっ!?」

「姫様だけと思うなボケがァ!」

 即座にゲイルがファルネリアに追従していた。防御はファルネリアがするだろうと踏み、突進する彼女の背後を無防備にダッシュして追っていたのだ。

 ゲイルの抜きざまの「フレイムスロウ」が爆炎を吐き、勇者のうち二人を火だるまにする。

 そして一発で再使用冷却に入った魔剣を、構わず次の裏切り者に叩きつける。

 裏切り者たちと姫君、狼人勇者は乱戦に入った。


 その一方で、魔王を名乗った男ジルヴェインは悠然とそれを見物し、ファルネリアの腹心リディックは彼に魔剣を向けてジリジリと隙を窺っていた。

「…………」

「どうした。仕掛けてこないのか? 勇者は魔王を討伐するんだろう。それだけ群れているんだ。一斉に来ればひと刺しくらいできるかも知れんぞ? 魔族の相手は得意なんだろう、ロムガルド」

「……貴公がただの魔族と同等とは思っておりませぬ」

「そうか? 本当はただの魔族相手でも厳しいんじゃないのか、お前たち。……先日も思ったが、どうも質が劣るからな。本当はロクな勇者を探し出せていないんだろう?」

「……!」

「最後に魔族を狩ったのはもう30年近く昔になるのだろう? このアーマントルードが言っていたぞ。かつて魔族と戦った経験者は死ぬか隠遁し、魔王との戦いを予期して焦った現王は体裁を整えることに腐心し……その結果が、他国にすら笑いものにされる粗製乱造の即席勇者たちということじゃないか」

「……そういう評判もあると聞きますが、さて」

「尻尾を巻いて逃げ出せ。無様に国元に帰り、こんな我々では魔王には勝てませんと泣いて訴えてみろ。なに、王の怒りを買って首を刎ねられるとしても心配はいらん。その頃には俺が王都ごと現王の命も貰いに行ってやる。その恥を見せたくないのなら……」

 ジルヴェインの羽織っていたマントが風もないのに浮き上がる。

 ただ魔力を身に集中しただけで、服がはためき始める。

「とっととかかって来い。端から無残に殺してやる。それを見て、生き残った屑がさっきの通りの滑稽な劇を見せてくれるだろう」

「ぐぬ……っ」

 ファルネリアとゲイルは裏切り者を斬り終わり、リディックのもとに駆け寄る。

「リディック」

「姫……」

「厄介ですね……姉上を引き取ることも、もはやままなりませんか」

「そのようですな。……いずれこの時が来ると思ってはおりましたが、このような形とは」

「付き合わせてしまってすみません」

「そう申されますな。老いて生き恥を晒すよりは、剣を握って死ぬのが勇者の本懐」

「……あとは、レヴァリアの彼らに……ロータスに、託しましょう」

「それしかありませんな」

 二人が覚悟を決めた顔になり、姫君は回収した桜色の魔剣を、リディックは重厚な紺碧の光を放つ魔剣を構える。

 ジルヴェインは笑う。

「かかってこい」

「……ゆくぞ!」

「お覚悟!」

 リディックとファルネリアが駆け出すと同時、他の勇者たちもそれぞれに声を上げて走り出す。

 腹を決めたというより、破れかぶれにも近い。

 姫君が戦うのなら自分たちが下がるわけにはいかない。そんな焦燥に駆られるように。

 だが、ジルヴェインは指を鳴らすだけで火の玉を無数に発生させ、軽く腕を振るとそれらが勇者たちに襲い掛かる。

 勇者たちは魔剣で迎撃したが、素早く虫のように動く火の玉は魔剣をかわし、再使用時間の長い魔剣を使っていたり魔剣の力をセーブできない若手の勇者は、次々に火に呑まれる。

「みんな!」

「姫、振りむいてはなりませぬ!」

「く……魔王っ!!」

 リディックとファルネリアは剣を振りかざす。

 リディックの魔剣は切っ先から蒼光が伸びて巨大な光刃を形成し、ファルネリアの魔剣は桜色の光の粒を滝のようにジルヴェインに誘導する。


 が、その二つをジルヴェインは煙を払うように打ち消してしまう。


「なっ!?」

「ぬぅぅっ!」

「あれだけ仲間に警告をされても、まだ魔剣を当てれば勝てると思うのか?」

 ジルヴェインは溜め息交じりの声で言いながらリディックの魔剣を奪い、ファルネリアの剣を素早く弾き飛ばして彼女を蹴りつけ、背後から魔剣を奪い返そうと掴みかかるリディックを見もせずに振った剣で逆袈裟に斬って殺す。

「かはっ……!」

「つまらんな。弱者は戦いで俺を楽しませることが出来んのなら、せめて泣き叫び滑稽に命を乞うてみせろ。まだその惨めな姿の方が娯楽だ」

 ファルネリアは玉座に叩きつけられて転がり、血を吐きながらも立ち上がろうとする。

 それを狂った瞳の姉姫アーマントルードが踏みつける。

「駄目よ、ファルネリア。あなたはつまらないの。これ以上魔王様の手を煩わせては駄目。それに命乞いなんかしても駄目よ。何故なら私があなたに生きていてほしくないのだから。魔王様がその気になってはいけないわ」

「アーマントルード。勝手に遊ぶな。ソレは俺のところに来た玩具だろう」

「ええ魔王様。でも私、この子が本当に憎いんです。恵まれて、愛されて、穢れを何も知らないような顔をして、そのくせ勤勉で、非の打てない……伝説にでも語られそうな聖人のような妹。そんなのに万一にも生き残らせるなんて」

「ははは。実にいいな。お前のそういう醜いところが俺は好きだ」

 そういう片手間にも、ジルヴェインは火球から生き残った勇者が散発的に飛び掛かってくるのを、リディックの蒼い魔剣で捌き、惨殺していく。

 やがて魔剣に飽きたらしいジルヴェインがポイと投げ捨てたそれを、喜々として駆け寄ったアーマントルードが拾い、妹を見下ろしてにっこりと微笑んで、光刃を生み出す。

「見て、ファルネリア。この通り。何度魔剣を握っても何も起こらなかったのが、魔王様にかかればこんな簡単。……いいでしょう」

「姉……上っ……」

「魔王様がその気になれば、勇者隊なんてそこらの農民からだって作れるのよ。そう。その程度なのよ、あなたの誇ってきた才能は。……そして、近いうちにロムガルドそのものも消えてなくなる。あなたが輝いていた理由全て、魔王様が消し去ってくれるの」

「……そんなのはっ……姉上、もっ……」

「私の人生なんて、いくら高貴に見えても何一つ輝いてなんかいなかったじゃない。祖国はあなたをもてはやし、私を外れくじ扱いした。そんな国はいらないのよ。この機に歴史から消えてなくなるの。綺麗に掃除して、すべて過去になるのよ」

 踏みつけた妹の胸に、光刃を突き付ける姉姫。


(くそっ……)

(ホーク殿、撤退だ。欲を掻いている場合ではない)

(ちょっとっ! お姫様置いて行っちゃうの!?)

(ジェイナス殿を欠いた我々で歯が立つものか! 相手はメイ殿の苦手な魔術のエキスパートだ、何の手立てもなく突っ込んでも死ぬしかない!)

(そうは言っても……ああもう、なんでお姫様逃げなかったのっ!? なんか逃がしてくれそうなこと言ってたのに!)

 ホークたちは物陰から観戦を続けている。

 逃げるなら今しかない。魔剣の威力がまた撒き散らされ始めればこのナクタ城も危ない。

 だが、こんな場面を見殺しにして行くなんて。

 ……そんな逡巡の中、ずっと沈黙していたイレーネが動き始める。

「ここは儂がどうにかしておいてやる。お前たちは行け」

「おい……」

「何、少しな。……奴と話すことがある。多少時間がかかるからの」

 イレーネはそう言って、物陰から歩み出し、無造作にジルヴェインに向かっていく。


 勇者隊の残りも10人を切り、その残りも降伏しそうな雰囲気の中、イレーネの登場はあまりにも場違いだった。

「……なんだ、貴様は」

「はっ。知らんか。知らんじゃろうな。……お前が『第七魔王』か。儂はイレーネという」

「名など聞いていない。お前もこの勇者どもの仲間か? 少し待っていろ。先にこちらを済ませてからだ」

 と。

 イレーネはそんなジルヴェインにいきなり紫色の魔力塊を投げつけた。

「!!」

「誰が待ってやると言った? 儂に命令できる権利はお前に与えてはおらんぞ」

「こんな高濃度の魔毒っ……貴様、魔族か!」

「その通りじゃが」

「魔王に拳を向けるか、魔族が」

「誰に向かって凄んでおる?」

 イレーネは再びそれぞれの手に紫色の魔力を宿しながらジルヴェインを睨んだ。

「他の魔族に気づかん若造のくせに、随分舞い上がっておるではないか。魔王を名乗れば誰もが平伏してくれると思うておらんか」

「悪いが、俺は魔族にも容赦はせんぞ」

「悪いが、儂は気に食わんものは全て滅すと決めておる。人も魔もな」

 イレーネは白い龍翼をバンッと音を立てて広げた。

「どうも気に食わん。今代魔王は祭りの作法が分かっておらん」

「ほう。ではご教授願おうか」

「よかろう。……じゃが」

 イレーネは翼を打ち、飛び掛かる。

 ジルヴェインはその紫の拳を両手で止める。

「若造、儂を騙せておるつもりか?」

「……老骨が、何を」

 イレーネが牙をむき出して嘲笑する。

「その不正直が何より気に食わん」

 そして、赤紫の髪の魔族と魔王を名乗る男が激しく魔力を叩きつけ合い始める。


「今だ! 逃げろ馬鹿野郎ども!」

 ホークは物陰から叫ぶ。勇者隊の生き残りに対してだ。

「ホークさん、何をっ……」

「あの馬鹿魔族がタダで時間稼いでんだ、逃がせるだけ逃がさなきゃ嘘だろ!」

「で、でも、肝心のお姫様が!」

「無理だ、俺たちがやられるわけにはいかねえ!」

 彼女たち自身が言っていた。ジェイナスさえ生き返れば、まだ希望はある。

 最初からこのことを覚悟していたのだ。魔王に鉢合わせして全滅する危険を。

 勇者たちがイレーネとジルヴェインの戦いを尻目に逃げ出す。

 その中にはゲイルとマリン、見覚えのある二人の若い勇者もいる。

 熟練者であるリディックが何もできずに敗れた相手には、彼らが手を出せる道理もない。苦渋の表情だった。

 そんなホークはメイとロータスも急かし、最後にイレーネとファルネリアを目に焼き付けようと振り返る。

 イレーネには、生きてまた戻って来いよ、という気持ちを込めて。

 ファルネリアは、最期の死に目。長い付き合いではなかったが、今まで見た中で一番美しい少女。

 そして……ホークは謁見の間を出際に、ロータスに囁く。

「おい、ロータス。……『やる』。フォロー頼む」

「何をだ」

「いいから。……物は試しだ、ひとつくらいイレーネを手伝っといてやる」

「……わかった」


 そして。

 ……意識を飲み込む横殴りの吹雪を、呼ぶ。


「っく、は、あっ……はぁ、はぁ、はぁっ……」

「ホーク殿!」

「……早く逃げるぞ。嫌がらせくらいにはなったはずだ」

「……わかった」

 ロータスに素早く肩を貸され、途中に仕掛けたロープで一気に城外に逃げる。


 やったことは、広間に取って返して、合成弓でジルヴェインの額とアーマントルードの心臓に一撃ずつ。そしてすぐに廊下に飛び戻る。

 射た結果はわからない。確認している暇があれば逃げるしかない。やるにはやったが、魔王がそんな簡単に死ぬとは思えない。

 だが、やらずにはいられなかった。

 許せないものだったからだ。特に妹を殺めようとするアーマントルードは。


「……ちったあ骨のある悪党を、やれたかな」


       ◇◇◇


 町を飛び出し、丘に上り、そしてようやくナクタ城を振り返る。

 不気味な静寂がそこにはあるのみだった。

「畜生っ……チキショーッ……!!」

「……ゲイル。やめて。……それ以上拳を傷つけても治癒魔法はかけませんよ」

「要るかヨ馬鹿ッ!!」

 地面を叩いて悔しがる狼人勇者ゲイルと、その隣の女神官勇者マリン。

 結局、それぞれに逃げ散った勇者たちの中で、ホークたちの集合場所まで一緒についてきたのは彼らだけだった。

 ホークたちは眠らせていたロバを起こし、その背に死体を積み直して、そして少しだけ暗い顔を見合わせる。

 覚悟はしていた。

 勇者隊が壊滅した相手に挑むのだ。ファルネリアが死体になっていることすらも。

 だが、彼女を魔王からは盗めない。リスクが大きすぎる。

 これが他の眷属などであれば、またいくらでも潜入し直し、ファルネリアの首だけでも奪ってこれたかもしれない。だが魔王本人相手にそんなことができるものではない。

 ……そして、イレーネを置いてきた。

 置いてきたのは本人の希望とはいえ、彼女もまた旅の仲間として馴染み始めていた矢先だ。

 生きているのか。最初の勢いでは優勢にも見えたが、ドラゴン一頭にも確実に勝てるとは言えない彼女が、あのデタラメな魔王にいつまでも優位なままでいられるものだろうか。

「……寄り道は失敗、かな」

 ホークは努めて軽く総括する。

 それで済まして、旅をまた続けるしかない。

 自分たちがレヴァリアの勇者一行とは割れていないはずだ。このままロンデ街道に戻り、次に狙われるロムガルドは避けてベルマーダに出るか、あるいはそのままレヴァリアまでロンデ街道周りで行ってしまうか。

 ベルマーダ王国はロムガルドとレヴァリアの間にある国で、あえてそこに向かうくらいなら直接レヴァリアに向かってもそんなに変わらない。

 ロムガルドに行くのは目の前のゲイルとマリンを頼ればうまく行けそうではあるのだが、その前に魔王が入っては元も子もない。

「とにかく、クラトスからは出よう。のんびりして的にかけられるのは避けるべきだ」

「そうだな」

「……うん」

 ロバを引き、歩き出そうとするホークたち。

 マリンがこちらをチラチラ見て、意気消沈しているゲイルを立たせようとする。一緒に来る気だろうか。


 その時。

「……ふ、ぁっ!?」

 メイが突然変な声を出した。

「どうした」

「メイ殿?」

 ロータスと二人でメイに駆け寄る。

 メイはうずくまり、震えている。

 癒しの魔法を使うパリエス神官であるマリンも、ゲイルを放置して駆け寄ってくる。

「どうしました!?」

「見ての通りだ。俺たちもそれ以上は……」

「メイさん? メイさん、どこか痛いんですか?」

「……ぅ、ぅ……ぅっ……!!」

 メイは低く唸り、ゾワリ、ゾワリとその髪が膨らむように逆立つ。

 やがて。


「うあああああああっ……!!」


 ひときわ激しく震えたかと思うと、メイが奇妙な光に包まれ、倒れる。

「メイ! メイ、しっかりしろ!」

「ホーク殿っ……これは……!」

 ロータスがメイを抱き起こす。

 すっかり脱力してしまったメイは……銀色の髪が、金色に染まっていた。

「なんだこりゃ……」

「わ、わからぬ……」

 ややあって、彼女が目を覚ます。

 ゆっくりと開けた瞳で、メイは……ロータスを見て。

「……ロータス」

「……なぬ?」

 ロータスは違和感に片眉を上げる。

 メイは今までそんな呼び方を一度もしていない。

「……それに、ホーク様……よかった、ちゃんと……っ、けふ、けふっ……」

「ホーク様?」

 咳き込んでいたメイが息を整え、改めて立ち上がって自分の手足、そして服を見る。

「……変な感じです」

「変なのはお前だ」

「何があった、メイ殿」

「……ええと、どこから説明したらよいでしょう」

 金髪になったメイは頬を掻きながら考え込み、そして。


「……まあぶっちゃけますと今、私ファルネリアなんですけど」


「何を言ってるんだ」

「城から出る時に頭でも打ったのだろうか」

「違います! ……ええと、これ、これです!」

 金髪のメイは胸元からペンダントを引きずり出した。

 他では見たこともない宝石が、ペンダントトップで怪しげな光を放っている。

「これのおかげです!」

「やっぱり頭打ったのかな」

「長生きしているつもりだが、頭を打って毛の色が変わるのは初めて見た……」

「ちーがーうーんーでーすー!!」

 メイはばたばたと暴れた。

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