偽りの勇者

 エフラの街は賑わっていた。

 王都ディアットと湖を挟んで反対側にあり、レイドラやレヴァリア、アスラゲイトなど東側の国々からの貿易品を運ぶ水運が盛んなため、元々大きな街ではある。

 だが、ロムガルドから来た勇者たちがこの大きな街から魔王軍を駆逐していったことは、周辺の未だ解放されぬ村々からの逃亡者を集め、この街を一種の駆け込み寺といった形にしていた。

 街の大きさは人の多さでもある。一度は魔王軍の勢いに押されて奪われたとはいえ、奪還した今は強い危機感を持って魔王軍を警戒しており、元ピピン王国軍の兵士を中心に生半な侵攻を受け付けない迎撃態勢を作っている。

 魔王軍側も「勇者隊」の暴威に蹴散らされて大きく戦意をくじかれており、また勇者隊が取って返して周辺を平定し始めたらかなわぬ、と怯えて、エフラ周辺は小康状態にある。

 そんなこの街に最近現れたのが「勇者」を名乗る男だったという。


「どういう奴なんだ、その勇者ってのは」

 ホークが酒場で店主に聞く。

 店主はホークをしばらく見つめ、やや重い口を開いた。

「強ぇのは間違いないな。魔剣を振り回してパリエス教会をあっという間に叩き潰しちまった」

「……なんで教会を」

「そこがな。……あいつ、大の教会嫌いってんで、街中のパリエス教会を次々ブッ壊して回ったんだ。司祭も軒並み斬られちまった」

「……おいおい」

「信じらんねえだろ? それでも勇者なんだそうだ。そんで、ここを都にしてピピンを自分が再建するって言い出した」

「何だよそりゃ……」

「ま、大言壮語は別として、魔王軍相手には戦ってくれるし領主も死んじまった。誰も文句言えねえで今に至るってわけよ」

「……なるほど。あんま関わらない方がいいタイプの奴だな」

 ホークは挨拶代わりに頼んだ酒に口をつける。

 いつか聞いた噂ではピピンは酒の名産地。今まで楽しむ余裕はなかったが、確かに安い酒でもなかなかの味だ。

「しかし、そんなのをよその人が気にするとはね。噂でも広がってるのかい」

「街に入る時に、すれ違ったおっさんが教えてくれたんだよ。おかしな勇者がいるってな」

「おかしな、なんて言うもんじゃねえぜ。一応は街の実権握ってんだ」

「勇者っつーのはそんなに安い称号じゃねえと思ってる国の出でさ」

「……一応警告したぞ、俺はよ」

 店主がそう言って離れていく。

 ホークはもう一口飲み、そして背後にわざとらしく立った人影に向き直る。

「で? 俺に文句でもあんのかい」

 背後に立ったのは兵士風の男。背後に何人か、やはり兵士と思われる連中を従えている。

「リンズ様に対して放言するのはやめてもらおうか」

「は、街と市民を個人的な趣味で叩き斬った奴を、素直におかしいと言って何で咎められる?」

「市民ではない。教会は街の人々の協調を乱す不穏分子だ。一掃されるべきだったのだ。貴様のようなチンピラにはわからん」

「……ってのがそのレンズだかリンズだかっていう自称勇者の言い分か」

「今、この国に王も領主もいない。魔王軍に皆殺しにされた」

 兵士はホークの胸倉を掴む。

「王が生まれる必要がある。あの方はその器だ。……あまりふざけた口を利くものではないぞ。ここに法はもうなく、これから生まれるのだからな」

 ホークは内心でゲンナリした。

 確かに、いずれこの国はまた誰かが統治しなくてはならない。権力者というのは、いると鬱陶しいが、いないとややこしいものだ。

 だが、どこから現れたともしれない自称勇者は、あの“勇者姫”が通った後から湧いて出て、弱った民をひれ伏させ、ドサクサに紛れて権力者になってしまおうという、勇者というにはあまりにセコい輩らしい。

 この兵士たちも、自分たちの母体たる国家が蹴散らされてしまい、途方に暮れていたのだろう。

 そんな中で、たとえどんな形であれ、飛びぬけた力を示した「勇者」が国を背負って立つという。

 ことによっては現実になるだろう。それならば、早くから味方をしておけば、新たな国家で取り立ててもらえるかもしれない。

 まだ魔王戦役に終わりも見えないのに、なんと気が早く楽天的な話か、と鼻で笑ってしまいたくなるが、彼らは大真面目だった。

「手をつき、ひれ伏して謝罪しろ。そうすればこの場は許してやる」

「なるほど。じゃあ手を放せ」

 ホークはそう言って兵士の手を振りほどく。他の兵士たちが逃げないように周りを囲む。

 襟元を正して。


 次の瞬間にはホークはそこにいなかった。


「なっ……!?」

「お、おいオヤジ、見てただろう! 今の奴はどこに行った!」

「お、俺に聞かねぇでくださいよ! 兵士さんたちが見てたんでしょう!」

 酒場は騒然となった。


       ◇◇◇


「ふぃー……っと。相手してられるかっての」

 ホークは酒場の裏路地を忍び足で通り抜け、そして人目のない暗闇で壁に背を預けて深呼吸。

“祝福”は、こんな風にも使える。

 咄嗟に集中するのではなく、ゆっくりと状況を確認し、万全の態勢でタイミングを待てるなら、動ける限度も少しは伸びる。

 息を詰めるポイントが「全く予期していないタイミングか、それとも胸いっぱい吸った瞬間か」という程度の違いだが、それでも一瞬で動ける範囲が数歩分も伸びれば、逃げ隠れには便利だ。

「いい酒だったのに惜しかったな。杯もパチってくるべきだったか」

 小さく呟く。

 独り言は傍目には不審だが、少しはいいところもある。黙ってゴチャゴチャ考えているよりは、口に出した方が冷静になれる。

「……リンズ、か。建物ごと破壊できるクラスの魔剣使い。……手を出さない方がいいよな」

「さてな。自称が勇者といえど、魔王軍と何も変わらぬと言えばそれまでよ」

「うわっ」

 闇からロータスの声が返ってきてびっくりする。

「……いたのかよ」

「留守居にはメイ殿を置いてある。私が大人しく待つ理由もあるまい」

「……それで、どうしろってんだ? まさか勇者とやり合えとは言わねえよな」

「貴殿の国では、勇者とは巨龍を屠るほどの達人の極みにあって、尊敬と信頼を集める者のはず。魔剣を持っただけの馬の骨は、そう呼ぶに値せぬのではないか?」

「実質の話をしてるんだよ。ジェイナスほどとは言わないが、常識外れの破壊力のバケモノを相手に目測誤って死にたくはねえ」

「バケモノか。……安くなったものよな」

 闇の中から苦笑の息が漏れる。

「なんだよ」

「なに、昔を懐かしんでいた。かつては魔剣は珍品中の珍品、使い手たる才能を持つ選ばれし者の手に渡ることは奇跡。ゆえに勇者は自然と運命や責任を自覚したものだ。今では野盗が如き者がそれと同列のつもりになる」

「お前らのせいだろうが。ロムガルドの魔剣量産体制の」

「全く全く。世の中便利になれば良いというものではないな」

「そもそも、魔剣ってのはもっと厳重に管理してるもんじゃないのか? 馬の骨がうっかり手に入れられるもんなのか?」

「ロムガルドは新しく魔剣を増やせるようになっただけで、全ての魔剣を管理しているわけではない。魔王に占領された地は富める者から片っ端から殺される時世、なんの拍子で流れ出るかわかったものではないさ」

「その威力で殺される方としちゃ、たまったもんじゃねえな」

「何も我が国の魔剣と決まったわけではない。そう噛みつかれる覚えはないぞ」

「ま、そりゃそうだけどよ。……しかし古の魔剣が相手となりゃ、なおさら俺の手に負える話じゃねえ。俺は盗賊だ」

 古代の遺物として残る魔剣は、ロムガルド産の新型より総じて質が高い。

 一般的に教会は街でもひときわ立派に建てられるものだ。それを一刀で破壊するならば、人間がまともに受ければ粉々だろう。

 が。

「逆だ。これが勇者同士で戦おうというなら魔剣の性能は重要な問題だが、貴殿なら魔剣がどんな種類だろうと関係あるまい」

「……あ?」

「あの獣人兵を三人斬り伏せた技ならば、たとえ振り下ろす直前だとしても、剣を奪うのは難しくあるまいよ。……あとは貴殿の良心の問題だ」

「……つまりあれか。お前はここの親玉になっているリンズから、魔剣を盗み出せというわけか」

 ホークは腕組みをする。疲れた体はだいぶマシになってきていた。

「だけど、奴は曲がりなりにも今の支配者だ。暴君ではあるかもしれないが、それでも魔王軍に抗うには必要な人材だ」

「どうかな。いつ機嫌次第で殺されるともわからん暴君は、魔王軍よりマシな支配者といえるのか」

「魔王軍におとなしくやり放題させてろっていうのか?」

「どんな敵と戦うことより、仁義なき無法者が味方面することほど厄介なことはない」

「…………」

 ホークも無法者だが、理屈はわかる。

 信頼できない味方を抱えるというのは、敵が多いことよりよほど絶望的だ。

「でも、俺たちはただの通りすがりだ。やった後のことに責任は持てない。ただエフラの戦力を削いで逃げるだけってことになりかねないだろう」

「それでいいのではないか?」

 ロータスは逡巡するホークに問いかける。

「貴殿は盗賊、悪党なのだろう?」

「悪党っていうのは、正義の反対じゃないぞ」

 ホークは思わず、いつか教わった悪党の心得を口にする。

 すかさず、ロータスは返した。

「そう、我が身を余人には誇れぬとしても、自分のやっていいことを自分で決める者だ」

「……なん、だと」

「貴殿は骨のある悪党か? それは簒奪者に魔剣を持たせ、この街を食い荒らすのを見過ごす者か?」

「ちょっと待てロータス。お前……」

「……長生きをしていれば色々ある。それよりも、目の前だ」

 ……ホークは、推測して納得する。

 ロータスも暗殺者であった女だ。それは決して日の当たらぬ仕事だ。

 その中で、彼女も誰かに教わったのか、あるいは彼女自身が悟ったことなのか。

 百年以上、あるいはもっと。

 脈々と社会の闇の中で、彼女の誇りはホークまで受け継がれていたのだろう。

 だからこそ、彼女はホークに改めて喝を入れた。

 己だけの小さな正義に、怒りに素直な「悪党」たれ、と。

「……ま、そうだな」

 ホークは頷く。

「魔剣は金目の物だ。それを盗賊が狙うのは当たり前だ。……それに、魔剣ひとつなくなったら誰もついてこないってんなら、そいつはどのみち支配者の器じゃねえ」

「全く全く。……では、行くとしようか」

「悪い、もう少し休ませて」

「……意外と貧弱だなホーク殿は」


       ◇◇◇


 深夜のエフラの街、その屋根伝いにホークとロータスは駆ける。

 町の中央にある領主邸。支配者を気取るリンズがいるとすればそこだろう。

 ロータスの黒装束はさすがに隠蔽効果抜群で、油断しているとホークも時々見失ってしまう。

(ロータス……いるか?)

(ここだ)

(何でお前、一瞬目を離すと樽の中にいるんだよ)

(少しでも狭いところに入りたい性癖がうずいてしまった)

(猫かお前は)

 メイを置いてくるのは不安だったが、「盗み」の仕事に彼女を付き合わせるわけにはいかない。

 魔王軍兵数人を相手にしても圧倒したロータスの腕も頼りにする。

 街と領主邸を隔てる高い塀は、僅かな石垣の隙間に手をかけ、すいすいと登ってしまう。

 綺麗に積まれた切り石ゆえに手をかける隙などない屋敷も、レヴァリアにはたくさんあった。それに比べて防犯意識は低いようだ。

 帰りに備えて細いロープを塀から内側に垂らし、それを予め三か所。仕掛ける余裕があるなら脱出経路は多い方がいい。

 今のところ侵入者に対する備えは見当たらない。

(ガバガバだな)

(姫がエフラを落としてからそう日が経っているわけでもない。椅子をかすめ取ったばかりで、まだ誰かに攻められると思っていないのだろう)

 二人は明かりのついている部屋を順に覗いていく。

 ひとつめは厨房。次は使用人の食事室。客間だったと思しき部屋には、リンズの手下になったらしい兵士たちが数人集まってカードに打ち興じている。

(ここの扉には細工しておこう)

(便所に行くとかですぐ騒ぎになるんじゃねえか)

(どうせリンズとやら相手にそう長く用はない。万一のための保険だ)

 ササッと扉の取っ手に縄をかけ、開かなくするロータス。

 何が引っかかっているのか把握さえできれば、扉の隙間から剣でも出して振り下ろすだけで済むので、大した嫌がらせでもない。が、その僅かな時間があれば充分になんでもできるのが盗賊というものだ。

 そこらじゅうの明かりを消すのも、隠れるのも、逃げるのも、なんなら館に火を放つのもアリ。

(こういうのは久々なので少し楽しんでいる)

(ロムガルドの姫君付きなら、そりゃあ盗みに入る用はなかっただろうな……)

 変に楽しそうに七つ道具を弄ぶロータス。まあ、ホークもちょっと楽しい。

 ここまで無警戒な貴族屋敷など、そうはない。イタズラ小僧の魂が騒ぐのだった。

 そもそもコンビで盗みに入るのも駆け出しの頃以来だ。信頼できる腕の共犯者がいるという感覚は久しく感じていなかった。

 やがて、リンズの寝室と思われる部屋にたどり着く。

 そこでホークは一旦ロータスを制した。

(ここは俺一人で行く)

(む? どういうことだ)

(評判は又聞きだ。本人と向き合って、印象が違ったら素直に引こうと思う)

 周りが暴走し、本人と関係ない悪評が撒き散らされているという場合も、可能性は僅かながらあり得る。

 そういう場合は見当違いの「仕事」はやめておこうと思う。

 風評で街が占拠されるというのは違う意味で大変なことかもしれないが、話が違うとわかっていて無茶をすることはない。あくまでこれは気が向いただけの寄り道、本来の仕事とは違うのだ。

 ロータスが頷くのを見て、ホークは服の乱れを正し、ドアを三回叩く。

「誰だ」

 返ってきた声には答えず、ホークは扉を開けて中に滑り込む。


「入っていいとは言っていないぞ」

「元々招かれてないのでね」

 ホークの前にいたのは身なりのいい青年だった。

 だが、本当の貴族や王族も幾度も見ているホークにはわかる。身なりがいいように見えるのは急に手に入れた身分ゆえの物で、本来は大した階級の出ではない。

 油で誤魔化しても髪の手入れの悪さは補えず、風雨に晒され肉体労働をしていたと思われる肌は、いくら上等な服を纏っていても隠せない。

「あんたがリンズ?」

「知らずにここに入ったのか。馬鹿な鼠だ。俺は勇者だぞ」

「勇者か。じゃあ魔王討伐には行かないのかい?」

「勇者の仕事がそれだけだと思っている素人は困るな」

 目の前にいるのが「勇者」の仲間とは全く思いも至らないらしいリンズは、ホークを小馬鹿にした顔をしながら魔剣を抜く。

 やる気か。ホークは身構える。

「勇者とは魔剣の力によって世に光をもたらす者だ。魔王なんてものはつまらん脅威の一部に過ぎない。俺はそんなものにかかずらうことなく、この魔剣で愚か者と旧弊を排し、人を導く勇者なのだ」

「だいぶ斬新な勇者定義だ」

「強い力によってのみ邪悪は滅び、人は道理を知る。それを執行するのが勇者だ。簡単なことだ。ロムガルドはそうして生まれたんだろう」

「パリエス教会を叩き潰したのは?」

「実体のないフワフワした神とやらに怒られるだの喜ばれるだの。そんな妄言をこねている老人どもが何の役に立つんだ」

「ああ、なるほど。だいたいお前さんの頭の中身が分かった」

 誇大妄想狂。

 周りにできないすごいことができる、という実感が暴走し、自分が王、ないしそれを通り越して一種の神になっているタイプだ。

 自分を崇めない者を認めない。自分以外のえらいものを認めない。

 一顧だにする価値もない、小物。

「そうか。……馬鹿なコソ泥のために寝室を壊すのも忍びない。場所を移そうか。兵士たちに殺されるか、俺の魔剣で殺されるか選ばせてやる」

「ああ、それなら」

 ホークは冷めた目で彼を見る。

 その視界内に自分の足跡が刻まれ、彼の手から魔剣を奪い取り、バックステップ四つで今の位置に戻る軌跡が「予約」される。


 意識を叩く横殴りの吹雪が、吹き荒ぶ。


「結構だ。もう帰るから」


 ホークはきっかり元の位置で魔剣を逆手に持ち、まるで「いいものをくれてありがとう」というように軽く挙げて、背を向ける。

「なっ……き、貴様、それを返せ」

「俺も豪華な寝室を壊すのは忍びないよ」

「ぐっ」

 ホークは剣を軽く返して構える。

 魔剣が使えるわけではないが、もし使えたら「一瞬で粉々」だ。

 リンズは駆け寄る足を一瞬止める。

 が、それでも魔剣を失うことは今の地位全てが奪われること。

 そういう焦りを露わにして、遮二無二ホークに飛び掛かる。

「返せェェェッ!!」

(殺るしかないか)

 ホークは短剣を抜き放つ。魔剣で刺すこともできるが組み打ちには向かない。“祝福”で消耗した手足では長剣を器用に振りこなすことも難しいが、手足のように馴染んだ短剣ならいける。

 と。


「身の程を知った志の低さも嫌いではない。が、勇者と名乗られるのは少々癪に障るな」


 ロータスの低く抑えた声がして、リンズは蹴り伏せられた。

 縦回転の投げ斧のような動きで飛び出してきたロータスのカカト蹴りは、それだけでリンズを木の床にバウンドさせ、悶絶して動けなくするほどの威力があった。

「……助かった」

「何、元々煽ったのはこちらだ。……しかし、本当に魔剣というものを持つだけで人はここまで増長するか」

 ロータスは虫を見るような目でリンズを見下ろし、ホークの手から魔剣をヒョイと取って眺める。

「……レヴァリアの『デイブレイカー』とまではいかないが、これほどの魔剣を手にして、せいぜいが教会壊しか。やるせないな」

「お前、わかるのか」

「うむ」

 ロータスはおもむろにそれを下段に構え。


「これくらいの魔剣だ、なッ!」


 雷のような大音声と烈光。

 そして、一瞬後には壁と塀が吹き飛んで消え、だいぶ遠くの物見の塔が崩壊しているのが見えた。


「おまっ……」

 ホークは愕然とする。

 それを使うのは「勇者」にしか許されない奇跡、だったはずだ。

「……まだ意識があれば覚えておけ。これは“正義の大盗賊”がもらい受けた」

「……あ、てめえ!?」

 ピクピクしているリンズにロータスが囁き、壁の大穴から跳んで行ってしまう。

 ホークも慌てて追った。

 重い手足を動かしての逃亡は、兵たちが集まってくる音が地味に怖い。

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