小田急線と副都心線

実家へ向かうのに右目が見えていれば車でサッ!と行けるのですが、電車で行かねばなりません。路線図を見ると、タイミングが良ければ乗り換え一回で行けるようになったのだと思いました。練馬には副都心線が乗り入れていて、小田急線には元々千代田線が乗り入れていましたから。。

副都心線。。これが乗り入れる事によって私が恩師と良く会う渋谷へは随分と行きやすくなりましたが、これに乗る度に、昔の恋を思い出していた。。一つ目の恋は私が酷い事をして終わった恋。。そのお相手の住む東急線にも乗り入れているのが副都心線で、乗る度に思い出しては心が痛んでしまうのです。


さて、、その話はおいて、、右目が完全に見えないという事はこんなにも不自由なのだという事を実際に歩いて、階段を上り下りしてみて実感する事になります。早朝待ち合わせという事で電車は通勤ラッシュで込み合っています。。

そんな中、階段の手すりを握ろうとして、握ったつもりが無いのです。私は無意識にこういう時左は避けます。左手には古傷があり、それに利き手は右でもありますし。。

この日、左目だけで右側の物を探そうとしても今までの感覚で探すと遠近感が違い自分が思っている以上に遠くにあるという事を思い知りました。又、階段を上から見ると地面との距離が今までと全く違い、めまいがおきそうになります。ラッシュで人は容赦なくぶつかってきますから、安全の為私は左側に行って本来苦手なはずの左手で手すりを持つことにしました。それでも、階段との距離。。これを体に叩き込まねばいけない。。もしかしたらこのまま見えないかもしれないし、回復したとしても失明の道を辿るかも知れない。自分の体を自由に動かせないで何が介護だ!慣れなくてはいけないと思ってエスカレーターは利用しなかった。。


副都心線の中で私はいつもの甘ったるい昔の恋話の事ではなく宮本さんが言っていた事を思い出していました。「僕の同僚で片方目が見えなくなった介護士が居る。彼女は努力をして介護の仕事を今でも続けていますよ。今は結婚したけれど、その地元で続けています。こういう状況で治療が困難になった北尾さんに今いう事では無いのかもしれないけれど、介護士を続けられない訳ではない。」と言っていた。。ラッシュの混雑で人に揉まれながら、私も出来るところまで頑張らねば。。と思った。。


明治神宮で千代田線に乗り換えると、通勤と方向が逆になった事で人はまばらになりました。。やっと地下鉄から外に出たのは代々木上原。。懐かしい光景でした。

{小田急線に乗るのは何十年ぶりだろう?}

ホームの反対側の電車に乗り込む時、車体は新しく変わったというのに、何だか淀んだ圧力が私を押し返そうとする。

{出来れば乗りたくないような抵抗感。。}

電車は再び地下に潜る。。

{下北沢は地下に潜ったんだ~}

高校から帰る時、一緒に急行に乗った友達と別れるのが下北沢でした。昔は雨が降ると上を走る井の頭線の鉄橋から滴がポタポタ落ちるホームで各駅電車を待った。。

家に帰れば地獄。。まさに地獄の門に似つかわしい駅だったのに今はクリーンな駅に様変わりしているのが何とも無機質で逆にやるせなさを感じる。。

四人にレイプされたのも下北沢だった。。どのみちこの駅はどんなにキレイになっても私は嫌いだな。と思った。

電車は経堂駅で通過待ち。。

今は小洒落た低層階のショッピングビルになっているけれど、昔、高層のマンションがあった。。

十一階。。空を見上げてあの辺りか。。と無意識に探している。

あそこに別れた彼を呼びつけ、彼の傷に塩を塗り付けるような事を私は言った。。本当は大切な恋だったのに。。あの後、窓の手すりに足をかけ、何度か飛び降りようと思った。

そして神を冒涜するような自傷行為。。。


きっとまだ流しきれていないのだろう。。

十一階。。私にしか見えない空間の歪みを見上げ、もう、階段で登っていくことも出来ないのか。。と思うと、涙がこみ上げてきた。

私はバッグから急いで目薬を出して右目にさす。そして急いでハンカチで涙ごと両目を拭く。。

きっと、今日はこの電車に乗る必要があったのだろう。。

発車の合図があり、電車はゆっくりと走り出した。。


愈々、又あの親と会わねばならない。。

最寄り駅に到着し、改札を出て何か食べ物をと思っても、まだコンビニしか開いておらず、仕方なくおむすびを三個ほど買った。。


実家に到着すると城田さんが待っていてくれた。。

三週間ぶりくらいだろうか?父は二回りほど痩せていて、目だけが血走り、鼻水が垂れている事さえ気づかないようだった。


「食べてないんじゃないの?」と聞くと

「ご飯は食べない。」という。。聞けば風呂の水の使い方を注意されて癇癪をおこし、大便をするなと言われたと解釈し、便を出さないイコールご飯は食べない。。という理屈らしい。。

とりあえず、「朝で何も無かったけれどお結びを食べて。。」と言うとそんなものは食わないと怒るように父は言った。

これからいろんなものが支払い遅れになっていく事、今日、保護費が出ても足りない事。それでも、ケアマネさんにはまだまだ協力してもらわないといけないからその支払いだけはうちでするという事などを父に説明すると、

「お前や旦那にに金がある訳がない。」と言い出す始末。。

「あるのよ。。だから大丈夫。。倒産したのだって何年前の事を言ってるのよ。」

と言うと、「あるんだったら何でさっさと持ってこないか!」

父に渡すとすぐに使ってしまう事。。ケアマネさんの事務所でも締め日と請求日があってそれに間に合えば良い事等説明しても全くお話になりませんでした。。

父はこの時、「金ならまだあるんだ!」としきりに言っていた。。

私は見当識障害だとしか思えなかったのですが。。実はあったのです。。それも厄介な形で。。それは随分経ってから分かった事なのですが。。。


この日、父はかなり興奮気味でしたのでこのまま帰り、ケアマネさんの車の中で少し話し合いました。施設入所しかないですね。とケアマネさんは言い、何とか特養に入れるように頑張ります。。とおっしゃった。。

私はお願いするしかなく、夕方電話し合うという事で別れて、帰りに循環器科へ向かって診察してもらい、追加でお薬を処方してもらって帰りました。。

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