闘病と父の行く先

平成二十九年二月二十五日大量出血

ネットでどんな病気か探り出すと結構な病気ではないか?これは、治療を優先しないといけないと思い、三月に申し込もうと思っていたセミナーや日曜たった一軒ではありますが、勉強を兼ねた訪問介護のお仕事も事情を話して諦める事にしました。

又、健康を取り戻してからやり直せばいい!そのように考えたからです。

私の状況が大幅に変わった事をケアマネの城田さんにも電話で報告。父には今はバタバタしているからそのうちに直接話すが、取り急ぎ城田さんから伝えてほしいとお願いしていました。

眼底出血と言えば、当然先妻(私の母親)の事を思いだすだろう。。

何故なら、母は私とは違う病名であっても、糖尿病性網膜症で当時レーザー治療は無く、失明を免れるための脳外科手術を受けて、その上医療過誤、命を落としたのですから。。

そうなってくるとどう荒れるのか?逆に神妙になるのか?想像がつきませんでした。私も大事な時期。余計なストレスは避けたかったのです。

その後、城田さんの話では父はかなり落胆していたようで、それまでは何とか生活保護に申請まではこぎつけたものの、風呂の水の使い方の注意に対して「納得できない!」等と、その他にも暴言だらけだったのが、私の目の出血の話を聞いてから、観念したのか大分おとなしくなって言う事を聞いてくれだした。。と聞きました。

城田さんは父の預金の残金で一月分の請求の介護費用を差し引き、残りを手渡し、大事に使わないといけないと言ったのだそうですが、父は早速デパートに行き、大半を一日で散財したそうで、その後、父には一万円だけ手渡し、残り少ないお金は城田さんが管理する事や生活保護のお金が支給された場合、城田さんが管理する事の許可を私に求めてきましたので承諾しました。父にはこの一万円で二週間はしのいでください。とお願いして、それが生活保護のレベルだと説得した事には父は「分かった。」と言っていたそうです。

分かっていてもまとまったお金が手にあると自己管理できないのだなと理解しました。


私の血圧は循環器科のお薬の変更で再び120代を金曜とこの日土曜にはじき出し、私もホッと一息ついて、出勤しました。一応何事も無く、仕事を終えたのですが、ミーティングで、ある利用者様のその日のご様子を話しました。

時々、言葉を言ってくれたりしていたハルミさんの事です。


私がお昼休みを終えていつもする事は、皆さんの食事の進み具合等様子を見て、結局入れ歯のお手入れが必要な方の口腔ケア及び自力でいけない方のトイレ介助。。と概ね決まってはいるのですが、

前に書いたハルミさんに関しては、この日、ちょっと躊躇するものがありました。

{あの人は好みで介助する人を選んでる。}その噂話の後の噂話。。

{利用者様を甘やかしてばかりいる。}でした。。

いつもだったらそんな噂はお構いなしでしたが、自分の目の病気の事を思うと、噂話の出所をつつきたくなかったのです。

この一週前の酒田さんのハルミさんへの無理くり介助の時の言葉で、誰を甘やかしていると言っているのか?

そして噂の元は酒田さん及び酒田さんの舎弟辺りであると想像していましたから。


あの人たちは酒田さんのおごりで酒を飲み、居ない人の悪口を酒の肴にして盛り上がり、自分たちが強くなったように錯覚して、その錯覚をそのまま仕事に持ち込んでいるのだろうと前々から思っていました。


この日、私のお昼休みが終わってフロアに出ると、私の視野にいつもと違う場所でハルミさんがポツンと座っていました。口腔ケアが終わって、トイレ待ちであそこに座らされているのかな?と思いました。丁度洗面所とトイレの中間ぐらいの場所で椅子に座っていたのです。。

目を合わせると呼ばれ、行かねばなりません。私は一瞬躊躇して、片付いていない弁当箱の整理などをし始めました。その方が嫌な事を言われないで済むから。。

本当に一瞬の気の迷いでした。。

しかし、視野で何となく見ていると、どうも誰も気にかけず放りっぱなしにされてる感があり、徐々に放っておけなくなりました。

で、ハルミさんの元へ向かい、「ハルミさん。。歯ブラシ終わりましたか?お口開けてください。」と言って頷いてくださったので、口を開いていただいた途端、口から刻み食がブワッ!っとあふれ出てきました。「口腔ケア。。まだだったのね。どうしましょう。。お手洗いと歯ブラシどっちが先がいいかしら。。」と聞くと目が洗面所の方を向いたので。両手介助で洗面所に移動していただき、まずお口をさっぱりしていただきました。その後、トイレに移動して座っていただいた途端。声は出さずとも、もう少しで嗚咽が始まるのではないかというくらい、肩を揺らして泣き出されてしまったのです。

こういう場合、感情失禁かもしれない。その場合は根掘り葉掘り聞いてはかえって感情を募らせてしまいます。そっと側にいるか、場合によっては一人にしてあげた方が良い場合もあります。ハルミさんの場合、お手洗いに一人にしてしまうと転倒の危険がありますから、ついてはいるのですが、どのように接するか?迷いました。感情失禁は脳血管性認知症及びアルツハイマー型の方でこういった後遺症が出やすいとも聞いています。

しかし、どこかが痛い場合も「泣く」という事で表現されている場合もあるのです。痛いというだけではなく、骨折した。出血した等。命にかかわる場合の出来事でも単に「泣く」だけの場合もあるのです。この場合、何とかして泣いている原因をつきとめてあげなくてはなりません。

そして「甘え」なのかもしれない。いろんな場合が考えられますが、私たち介護者は「オオカミ少年を作り上げてはいけない。」と私は思っています。。

「結局、甘えか。。」「どうせ甘えでしょ。」これを繰り返していると、いつか本当に大事なSOSを見逃してしまいます。。

その方の家庭環境によったら甘えさせてあげて何が悪いのか。と思ってしまいます。

私は自分の病気の為、心の平穏を保つため、すぐにハルミさんのところへ行ってあげられなかった事を心の中だけで反省しました。これをミーティングで言ってしまうと、穿った取り方をする方が数名いて話がおかしくなります。又全員のチームコミュニケションが取れていれば、私は正直に全部話していたと思いますし、そもそも私はすぐにハルミさんの処へ行っていたと思います。

ミーティングで話したのは、「ハルミさんがいつもと違うように泣ていた。感情失禁なのかどこかが痛いのか?結局わからず終いでしたので、過多な質問は避けて見守りながら落ち着きを少し取り戻られた段階でお席に移動していただきました。」

と報告したのです。

後藤さんは下を向いて考え込んでいました。吉田さんも「う~~ん。」と唸りながら考えているようでした。深澤君は私の隣に座っていました。「明日から少し注意深く見守っていただければ~~」と私が言おうとした瞬間に深澤君が、小さな声で「甘えてんじゃねえの!」と言ったのです。。私としては聞き捨てならない言葉でしたので、でも、一瞬迷いました。。このまま黙ろうかどうしようか。。。

で、「深澤さん。今何ておっしゃいましたか?」と言いました・・

すると、又小声でぼそっと。。「甘やかしてるからだよ」

。。。。

そのまま私は黙りました。。

何の為のミーティングなのか。それでも看護師か。。と心の中でつぶやいた。


ミーティングも終わり、そのまま帰ろうかと思った時、事務コーナーで豊田所長が書類整理をされていて、私が「ちょっといいですか?」と言うとこちらへ出て来てくれました。

本当は私の出血は父のことがキッカケでそれでいいと思っていた事。しかし、このところの血圧の乱高下、ストレスが薬の強さに追いついていかなくなった事、実は

医師のとった私の目の画像を見る限り、出血の一週間前に閉塞が起きていると画像が証明している事。それら症状は、血圧とストレスが原因である事などを話し、

深澤君と仲間数名が私に対して嫌な感情を持っている事は周知の事実。しかし、私が病気である訳だから暫く尖った反応はやめて休戦していただけるように話してもらえないか?と相談したのです。

一週間前、私もあの二人には心を痛めている。これからは私も所長として頑張るから何かあったら相談してください。と言ってくれた事でのこの私の相談に対する豊田所長の答えは。。

「ハッキリ言って北尾さんの話は承服できない。大体あの二人は変わらないよ。変わらない相手に未だにそうやって言う北尾さんがおかしい、それともあなたはみんなを辞めさせたいのか?」と。私は面食らってしまいました。この人の心の真実はどこにあるのだろう?

私「みんなとはいいません。でもこんなことがずっと続くならそう思っても仕方ないじゃないですか!」

豊田「あなたが辞めてしまえばいいじゃないか!大体就職活動してるって聞いている。」


この時、私の目の奥でズキ~ンと強烈な痛みが一瞬はしりました。


私「就職活動はしていません。。それは宮本さんに聞いてもらってもいいです。ずっと去年あたりから相談していて、先月本格的に相談しました。で結果は就職活動ではない事をご存じのはずです。。」

豊田「更衣室でこっそり休憩時間に問い合わせたりしてたと聞いてる人が居る。」


ああ~あの動かない女性ドライバーだと思った。

こっそりではない。平日全部に予定があり、昼休みしか時間が無かった。

外へ出て電話をすると幹線道路の騒音で相手の声が聞こえない。だから更衣室で電話していただけで、私は隠さねばならない事だとは思っていなかった。。


私「私が風呂介助させてもらえない為。セミナーに行くのと同じ。日曜ならここに迷惑が掛からない、日曜たった一軒の訪問介護をやらせてくれる事業所を探してたんです。ここを辞めようとしての就職活動ではありません。」

豊田「大体何でそんなに働きたいの。そんなにお金が欲しいのか!セミナーって?そんなに勉強!?」

私「お金の問題じゃない。実技の勉強の為。そんなに勉強するのはこの職場ではモチベーションが上がらないから。勉強しに行くともっと志の高い人と出会える。ストレス発散になるんです。」

豊田「血圧高い人に風呂介助させられないね。」

このあたりで豊田所長に電話が入りました。

私は目の奥がどんどん重くなってきているのに気づきました。

鈍痛までいかないのだけれど、何か嫌な予感がする重たさ。目の奥での疼き。。。


仕事も終わっている事だし、これ以上話しても何の意味もない。。

「帰ります。」と一声だけかけて、表に出ると、添乗で何かあったのか?友梨佳ちゃんがやっと添乗を終えて遅めに戻ってきたのとバッタリ出くわしました。


私の表情がおかしかったのか?

「どうしたんですか?何かあったのですか?」と顔を覗き込まれた時に、

涙が止まらなくなってしまって。。

「もう無理かもしれない。豊田さんの下では働けない。」


「そんな事言わないでください。北尾さん。がんばってください。。」


そう言ってくれましたが。。目が。。

「ごめんね。今日は帰るわ。。」といって帰路につきました。

珍しく旦那さんが先に帰っていて、何か話したかったのですが、

話す元気もなく、又目を開けていられないくらい瞼が重かったのです。

「ごめんね。ちょっと目が疲れたから、上で少しだけ横になるね。」

と言って自室に行き、そのまま朝まで食事もせず、風呂にも入らず眠ってしまいました。

朝、目が覚めると。。見えない。。

右目だけで見ようとチェックすると。見ようとする方向に影が追いかけて来て、まったく見えないのです。かろうじて右目の外側の視野だけが見えている感じで。。。。


私は愕然としました。

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