歌って踊る体操オバサン
デイサービスでの仕事は朝お迎えの準備をして待機する者、早速ご自宅に行き、それぞれ、三台~四台のバンでピストン送迎をし、順次来所してもらう者。に分かれます。午前八時半から手分けするのですが、概ね十時半ごろにはその日予定されている利用者様が事業所に揃います。午前の体操から始まって、クラブ活動、ラジオ体操、口腔体操を経てランチタイム。午後は個人個人口腔ケアをする中、脳トレ、午後の体操、リクレーションゲーム。そして三時のオヤツ後、それぞれお宅へとピストン輸送でお帰りいただきます。すぐに帰られない方はしりとりやトランプ、カラオケ等各々お楽しみいただきます。
お風呂はスケジュールの合間に午前中が男性、午後が女性となっていて、これも手分けして介助します。
自発性をもってトイレに行ける方、いけない方、又、自発性はあるものの身体的理由で介助が必要な方もいます。それらの誘導や、介助、そして静養室もありますので、体調がすぐれなくなった方や、看護婦さんが常勤していますので、その指示に寄ってベッドで静養していただく事もあります。
その後私たちは記録の管理、ミーティングを経て帰宅となるのです。
新人の場合、残業は三十分ぐらいでと言われていますので、朝八時半から遅くても午後六時半までが仕事ですが、先輩たちは午後八時ごろまで残業しているようでした。
そろそろ初任者研修の最後の試験を目の前にして、愈々私にも脳トレやレクリエーション、体操の指導者の役割がまわってくるようになりました。
その中で午後の体操をやるにあたって、一つの問題が浮上しました。
午前の体操はカウントしながらシンプルに体操していただくのですが、午後は、道具を使っての体操で、概ねセラバンド(平べったいラバー)か棒(新聞紙でくるんだ棒)を使った体操がほぼ定番で、新人はそれを真似てやってください。と言われたのですが。。。実は私の左手は障害者レベルでは無いのですが、少々の問題を抱えています。日常生活にはほぼ問題はありません。。しかし、左手の握力が極端に少ないのです。これまでにも書いてきましたが、高校生の頃、それまでの父親からの暴言暴力、軽微な形の性的虐待から、愈々その性虐待も本格的になりました。
私は自暴自棄な生活態度に加えて、二度程自殺未遂をしています。そのうち一度は左手首をカットしました。今で言うリストカットといった生易しいものではなく、思いっきり切りつけましたので、今でも鮮明に覚えているのですが、切った傷は円形に広がり、理科室の解剖人体のように、中の腱や骨、血管が丸見え状態になるほどの重症だったのです。痛かったか?と言えば、痛さはまったくありませんでした。それより、死のうという思いに執りつかれ、何かの脳内分泌でもあったのか?興奮状態でした。しばらく左手親指が動かなかったのですが、そのうちに動くようになったのですが、いつも付け根のぷっくりした部分がしびれていて、それでもその違和感も徐々に薄れて行ったのですが、最近になって加齢のせいか、しびれが強くなっていて、セラバンド体操の時、思わず左手で握っていられず手放したせいで利用者さんに直撃しそうになったり、棒体操も、最後に両手で棒を横に持って、利用者様にえい!って叩いてもらって日頃のウサを晴らしてもらうのが人気なのですが、その際も私は棒を持っていられす、利用者さんの棒が私の頭に当たってしまい、恐縮させてしまったりで。。。私は午後の体操の自信を無くしたのです。
この午後の体操を辞退したいと宮本さんに相談した処、何も棒やセラバンドにこだわらなくて良い!北尾さんは歌が得意だし、元々ダンサーだったのだから音楽を使った体操にしてみれば?とアドバイスをいただき、それならば。。と色々考え、
マツケンサンバの音楽でマツケン体操をしようと思いついたのです。
その他にも歌いながら体操や、掛け声を強調した体操。。そして体操後に今週の歌として決められた(利用者様が決めます)歌を歌う際の発声練習等でもアイデアが浮かびました。
これが偉く人気となり、「声が綺麗。上手い。。。」「あんたの体操は面白い!」とか、「ねぇ~アレやってよ!」「今日は体操じゃないの?楽しみにしてきたのに!」等、様々言われるようになり、そのうち、朝到着された利用者さんが、」突然駆け寄ってきて、「わぁ~~今日会えるの楽しみにしていたの。。」と言いながら手を握り「あなたの手を触ってると安心するのよ。」等様々言われだしてしまったのです。
それとは裏腹に私の心は複雑になっていきました。
{ある日の日記。}
どういう訳か?歌ったり踊ったり?パフォーマーのような位置づけで評価されると同時に、どの職場でも目立つと叩かれる。。そんな空気も感じ始めた
仲間の一部から通り過ぎる一瞬に「調子に乗ってんじゃねえよ!」と捨て台詞を言われたり。。それでもニコニコ。。。
音楽が鳴ると。。それは体操でなくてもBGMでも、自然と踊ってしまったり、
鼻歌を口ずさんでしまったり。。
元々の性格なのか~~嫌いじゃないし、利用者さんも私の明るさに癒されてる感もある。。
ニコニコしながらお昼のお弁当を配り、ニコニコとしながら皆さんを見守る。。
食事を終えている人にコーヒー等飲み物を勧め、飲み終わった人には歯磨きを勧める。。それを間髪入れずに見つけ勧めねばならない時。うっかり見逃した人がいると、私のニコニコとした表情がヘラヘラとした表情にうつるのかもしれない。。
しかし、利用者さんからのウケは良い。。
ある意味、仲間と確執を感じざる得ないでいる人との関係性は悪化する。。
一方でそれでも私を理解してくれようとする人もいる。。
どちらかと言うと、良い風にみてくれている人の方が多いようにも感じる。。
きっと時間がかかるのだろうと思う。。
でも、心からの笑顔や少々のミスがあっても心で仕事をしている方が良い。。
さばくように。。ミスらないように。。そっちばかりなら、そのうちに高性能なロボットが出てきたら負けるに決まっているのだから。。
ただし。。。歌と踊りに関しては複雑な気持ちだ。。
どうして辞めたのに。。また似たようなことをしなくてはならないのか?
全く違う仕事のはずなのに。。と言う思い。。
そういう流れになるのが私の人生なのだ。。と言う思い。。
どうして母親の呪縛から逃れられないのか?と言う思い。。
私の意思でキッパリと辞めた仕事。。二十年以上たって。。
どうしてまた。。。という思い。。
運命に呪われている。。と言う思い。。。
自分の得意分野なのだから活かそうという思い。。
否、冗談じゃない。。あれだけ苦しんだ出来事。。そんな思いまでして必死だった仕事。。なんで、こんな歳で中途半端なパフォーマーにならねばならないのだ!という思い。
昔と比べて随分と下手くそになってしまった!と言う焦燥感。
それでも。。。
音が鳴ると、歌ったり、踊ったりしてしまう。。
体操の役目になると、セラバンドや棒が出来ないから音楽に頼ってしまう。。
しかも、ノリノリで利用者さんを笑わせる。。
心の底からの利用者さんの笑顔を見れる事で幸せな気分になる。。
しかし、夜になるといろんな心の己が現れ。。泣くことも多くなった。。
悲しいバックボーンがあるから、やってることが爆発的になり、
利用者さんを心から笑わせられるのかもしれない。。けれど。。。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます