第12話
第3廃工場。
そこはバブル時代の遺産で、かつては自動車部品を生産していた大規模な廃工場だ。
今では殆どの設備が撤去され、残された資機材は朽ち果てるに任されている。
そんな大規模廃工場の一角に一ノ瀬は囚われていた。
正直言って、犯人はお粗末すぎるヤツで特段強敵だったとかはない。
まあ、人の話を聞かない…と言うか話が通じないヤツではあったが。
バルバトス曰く
「教会の手の者であろうな。あそこのハンターは狂信者が多い。自分たちが絶対的な正義と勘違いしておる」
らしい。
一応それなりの描写をしておくとこうなる。
∽
俺達は可能な限りの速度で廃工場へ向かった。
ただし、この工場はあまりにも広い。
正直言って、探し出すのは不可能に近い。
人海戦術ならローラー作戦で行けるだろうが、残念なことに俺達は3人しか居ない。
しかしコチラには完全に規格外の能力と戦力を併せ持つヴァンパイアが2人もいる。
二人はなにがしかの気配?を辿って奥へ奥へと突き進んでいく。
恥ずかしい話だが、俺は何も出来なかった。
着いていくので精一杯で、何も気にする余裕すらなかった。
まあ、ぶっちゃけこの二人と伍して行けるなら俺は既に人間ではないんだろうけど。
とにかく、なんとか遅れずについていってどうにか辿り着いた先には血塗れで地面に横たわる一ノ瀬の姿があった。
生きてはいる。
しかし、あくまでも「死んではいない」というだけの状態。
体中が傷だらけでもう元の美貌は欠片も見当たらない。
顔も身体もよほど手酷く殴りつけられたものと、バカでも理解できる状態にまでなっていた。
先に言っておくと、俺は普段は割りと温厚な人間だと思う。
だから、「あの」二人が俺を見て冷や汗をダラダラかきながら後ずさったのは気の所為だったと思いたい。
(二人が後日言うには、
「コイツと戦ったら、負けはしなくとも二度とは立ち上がれない程の痛手を負う」
と、確信して距離を開けてしまったらしい。
そんな訳ねえだろ…一瞬で制圧完了するだろ俺相手じゃ)
俺は辺りを見渡して、一ノ瀬をいびり倒して疲れたのか壁に寄りかかって寝ている男を見つけた。
何も言わずに男に近づいて、近くに立てかけてあった鉄パイプで横っ面を殴りつけた。
ぎゃあとかなんとか言いながら、男が倒れ込んだので鳩尾を狙って蹴りをぶち込んだ。
亀みたいに身体を丸め込んで俺を見上げる男に腹が立って、背中に鉄パイプを振り下ろした。
完全に無表情で男を痛めつける俺を見て、二人が俺を止めに入った。
「よせ少年。殺すのは構わんが背後関係を聞き出してからだ!」
「そうだよカケル!まだ殺しちゃダメ!」
あぁ、そういやそうか…完全に頭に血が登ってたわ。
と、妙に冷めた気分で思ったのを覚えている。
二人は男を配管に縛り付けて、尋問をしていたが埒が明かない。
何やら良く分らない事を喚くだけの男に業を煮やした俺はやはり何も言わずに顔面に蹴り。
二人はもう止めなかった。
「まあ、脳さえ無事なら知りたいことは知れるし仕方あるまい。もう少年も止まるまいよ」
バルバトスは若菜にそんな事を言っていたらしい。
実際俺は止まらなかった。
結果から言えば、俺は初めて人間を殺めた。
罪悪感の欠片もなく、嬲って殺した。
それからの行動は一つしかない。
一ノ瀬を助ける。
しかしここまで虫の息では医学がどうあれ救助は不可能だろう。
細かい描写は避けるが、とても助かるとは考えられない有様なのだ。
だがこの二人にとってはいくつかの選択肢があるらしかった。
・どちらかが儀式を行って強引に眷属化する
・一か八かの可能性にかけて、医療機関に委ねる
・俺と一ノ瀬が望んでいれば血を媒介にして魂を緩やかに結合させる
最後のは意味が分からなかった。
答えたのはバルバトス。
「人間には魂と言うものが実在する。死ねばその魂は拡散していずれ消える。未悠の状態は既に拡散が始まる寸前なのだよ…だから少年の魂と少しだけ重ね合わせ、結合させることで少年の生命力と未悠の生命力をリンクさせるのだ」
要はどちらかが即死でもしなければ寿命が尽きるまで、どんな状態からでも回復に向かう永続バフが付くみたいなものかと理解した。
眷属化には俺には分からない致命的なデメリットがあるようで、出来れば回避したいらしい。
病院へ連れて行っても治癒なんてとても見込めない以上は、もう選択肢はないも同然だろう。
後で一ノ瀬が怒るなら甘んじて殴られようと決意して、二人に頼み込んだ。
急いで一ノ瀬が流している血と、俺の血を使って魔法陣のような文様を完成させると俺と一ノ瀬をその中央に移動。
二人がかりで何か儀式を始めた。
理解出来ないはずの言語で唱えられる言葉なのにどうしてか俺は理解できた。
『これは契の儀
冥府の主の裁定が行われるその時まで二人を結ぶ誓いの儀
我ら夜の一族が永劫見届けよう。二人が果てるその日まで』
これ以上はまた分からなくなったが、見て分かるくらいの速さで一ノ瀬が治っていくのが見て取れた。
それと共に、なにか俺の身体に流れ込んで来て流れ出し行くのも分かった。
「ん…うぅ…」
一ノ瀬が目覚めたのは翌日の朝だった。
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