第6話
若菜が俺の家に居候を始めて早くも1月が経とうとしている。
その間には結構なゴタゴタが・・・あって然るべきなんだが、何もなかった。
親は普通、学生の身分で同棲とか問題視するものだと思うんだが。
どうやら若菜が何かしたらしく、親は彼女を同棲くらいしていて当たり前な関係と認識しているようだ。
面倒事がなくて良いんだが、着々と外堀が埋まってきているような気がしないでもない。
「カケル~。朝だよ!起きて~!」
まさかこんな風に可愛い女の子に起こしてもらえる日がこようとは・・・。
「おはよう若菜」
「うんっ、おはようカケル」
良いものだ。
おかしな夢を見た代償としては十分だろう。
そう、悪夢を見たのだ。
端的に言って、若菜が俺以外の人間と・・・というそんな夢。
まあ今の若菜を見る限りではそんな未来はなさそうではあるけど。
一緒に朝を食べて登校し、一緒に下校して・・・と、それが毎日の事だった。
その日はどうした偶然か、お互いに用事があって一緒に下校とはならなかった。
俺の用事は単純に巡に頼まれた買い物の手伝いだったが、若菜のは分からない。
しかし、この日がターニング・ポイントだったのは間違いない。
若菜はその日、帰ってこなかった。
憔悴しきった若菜が帰ってきたのは翌日の朝。
さすがに様子がおかしい。
「おい若菜、一体どうした!?」
「あ・・・カケル。おはよう・・・大丈夫、なんでもないよ」
と、明らかに大丈夫ではない事を言ってきやがる。
どう訪ねても曖昧に微笑みながら、質問をかわされてお手上げだった。
それ以来、若菜が俺の血を吸うことがなくなった。
外泊も多くなった。
俺達は一緒に居る時間がほとんど無くなり、これは完全に何かある、そう確信した。
だから俺は、若菜の後を追跡してみた。
若菜が入っていったのは建設途中で放棄されたビルだった。
若菜に遅れること2分程してから俺も侵入を果たしたが、どこに居るのかが分からない。
1階ずつ確認していってもどうしたことか若菜が見つからない。
・・・地下があるのか?
そう思って降りていくと、やはりあった。
階段の裏手側、目立たない所にひっそりと。
俺は逸る心を抑えて、ゆっくりと慎重に下っていく。
俺の脳裏をあの悪夢がよぎる。
聞こえてくるのは女の嬌声・・・まさか・・・。
目の前の扉を開けるのが怖い。
この声の主が若菜だったら・・・?
その時俺は・・・。
そんな俺の葛藤を無視して嬌声は絶頂に達して聞こえなくなった。
その時、別な声が聞こえた。
「どうしたのかね?入ってきたまえよ」
「!?」
気づかれてた?でも誰の声だ?
逡巡している間に扉が開いた。
そこには半裸の若菜が呆然と俺を見つめる姿があった。
「カケル・・・どうして・・・」
「若菜!これは一体何だ!?」
ほぼ同時にそんな事を言った。
奥には40代に見える男と、10代~20代位の全裸の女達がぐったりしていた。
男は俺に言った。
ここは我々ヴァンパイアが買い取ったビルで、頻繁に食事をしている場所だと。
どうでも良かった。
若菜は血に酔っているらしく、陶酔した表情で俺を見ていた。
俺に近づいてくる若菜、動けない俺。
深刻そうな表情で俺たちを見つめる男。
そして・・・若菜は当たり前のように俺の首筋に牙を突き立ててきた。
「ん・・・ジュル・・・」
「ぐっ・・・」
血を吸い、舌先でチロチロと傷口を舐め更に昂ったのか深く牙をねじ込んで血を求めてくる。
さすがに苦痛が大きいが、若菜の求めに応じない選択肢があるはずもない。
されるがままになっていると、若菜が口を離してくれた。
しかしそれでは終わらなかった。
俺の顔を両手で掴むと、俺にキスしてきた。
ねっとりと俺の舌に絡ませて、唾液を貪るように啜ってくる。
「そこまでにしておきたまえ。リリス=グランデュオ」
男がそう言うと素直に俺から離れる若菜だったが、明らかに不満そうで、息が荒く太腿には多量の愛液が伝っていた。
「済まなかったね、少年」
「悪いけど若菜は連れて帰る」
俺がそう言うと、男は静に笑って宣言した。
「それはマズイ。許可できない」
頭に血が登ったような感覚に襲われた。
無意識に男に駆け寄ると、胸ぐらを掴み怒鳴っていた。
「ふざけるなよ!若菜に何しやがった!?」
「私は何もしていないさ。むしろ君がリリスにしてやりすぎていたんだよ」
更に言い募ろうとした俺を制したのは若菜だった。
「手を離してカケル」
未だに昂りは消えていないようだったが、冷静にはなれたような感じだった。
「私は暴走しかけてるのよ。だからその人を頼ってるの」
「暴走・・・?」
「ふむ・・・聞く耳はあるか。・・・説明はリリスからしてやるほうが良さそうだな」
「分かったわ。・・・カケル、よく聞いてほしいの」
若菜が俺にした説明とは、俺にとってぶっ飛んだものだった。
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