脱出
無支配地帯の北北西外縁に位置する荒野には、荒れた交易路に沿って敷かれた軌道協会の幹線がある。辺りは砕け残った巨大な岩と、疎らな低木があるだけだ。
昼夜の区別なく列車は走るが、けして本数は多くない。停車場も車両基地も遥かに遠く、本来この周辺に人の立ち寄る場所はない。
緊急制動の音も止み、切り離された二台の車両は闇の中に取り残されていた。主動力の供給が途切れ、照明の類は一切が消えている。
途方に暮れた三人は、車内に戻ってランタンを囲んでいた。
「これって、作戦通り?」
エルルが不安げな表情で訊く。ミストが頭を叩いたせいで、ランタンが揺れた。
「そんなわけないだろ。敵に嵌められたんだ」
恐らく、囮の障害物を置いて列車を停車させた襲撃者は、動力車を占拠して列車ごと強奪すると見せ掛け、こちらの戦力を分断を図ったのだ。
高速で走る前の車両は、隊長たちが動力車を奪還するまで停まらない。だが、この車両に襲撃者の姿はなかった。ならば、次に何が起きるかは容易に想像できる。
現に、切り離された車両は、無防備な状態のまま荒野に放置されている。
「危険だ」
アリスの言う通り、別動隊がこちに向かって動いているに違いない。目的はゼノの奪還だ。
「取り敢えず退避して合流を目指そう」
「やっぱり、作戦通りじゃない」
もう一度ランタンが揺れた。
「相談は終わったか?」
車両の端から欠伸まじりの声がした。三人が顔を見合わせる。
「どうする、あれ」
ミストが呟く。
「連れて行く」
アリスが応えて、手持ちのランタンに灯を入れながら、ゼノの檻に歩いて行った。
「でも、隊長は置いて行けって言ってなかった?」
エルルの不安そうな声に、アリスは振り返って繰り返した。
「連れて行く」
垂れ幕を引くと、簡易の椅子からゼノが見上げた。ゼノの面倒くさそうな口許を、アリスは無表情に見返した。内心は分からない。アリスは外に現れる表情が乏しいのだ。
「今より待遇が上がると嬉しいんだけどな」
アリスは無視して踵を返すと、壁に備え付けた保管庫を開けて、中を探った。
小さな金属片と紙片を取り出し、ランタンを寄せて確認する。書かれた文字を目で追いながら、口の中で何事か繰り返した。
「待て。今ごろ解呪の練習をしてるのか? さっき危ないとか言ってなかった?」
ゼノが呆れて口を挿む。
「黙って」
にべもなく言って、アリスは続ける。
「索敵するね」
エルルが皆に言って、立ち上がった。
後ろ手に背嚢の留め具を外し、盤の把手を逆手に掴んだ。えい、とか、やあ、とか声を上げながら身体を捻る。見かねたミストが背嚢から盤を引っ張り出した。
「そうだ、どうせなら派手にやろう」
ミストが手を打って、鼻歌まじりに車内のあちらこちらを引っ繰り返し始めた。車内に残された装備を放り投げ、一所に積み上げて行く。
「やばい、こいつらポンコツだ」
三人を見渡し、ゼノは呻くように呟いた。いっそ置いて行かれた方がましではなかろうか。
不意に、アリスがゼノの右腕を引いた。繋がれた鎖は充分に長いが、腕そのものの長さが足りず、尻の下に渡した板から腰が浮いた。
ゼノの抗議を当然のように無視して、アリスは鎖の繋がった腕輪を矯めつ眇めつして覗き込む。腕輪だけを回せば良いものを、夢中になる余り、ゼノの腕ごと捩じって調べようとする。
「千切れる、千切れる」
「黙って」
手錠の腕輪に細い溝を見つけ、アリスは手にした金属片を差し込んだ。ゼノは右腕一本で吊り下げられたような恰好だ。アリスは片手で無造作にゼノの腕を掴み上げ、もう片方の手でランタンと紙片を一緒に掴んでいる。
アリスは眉根を寄せ、たどたどしく紙片の呪符を読み上げ始めた。
自分の仕事がひと段落したのか、ゼノの悲鳴が可哀想になったのか、ミストがアリスの傍にやって来た。
「そこ、間違ってる。最初から」
アリスの詠唱に耳を寄せたミストが指摘した。
「アリスは施術が下手だからなあ」
「下手な奴にやらせんなよ」
ゼノが泣きそうな声で言った。気の毒そうに笑うミストが、ふとアリスの胸元に目を止めた。工具帯に挿した真鍮管のひとつが、端部を朱に変色させている。
「伝信だ」
アリスの胸元から管を引き抜く。両手で擦り合わせるように温めてから、留め封を外して中の紙を引き出した。
伝信器は、簡易術式を使った一方通行の通信手段だ。正式には送信盤と受信管の一組を指して云う。送信盤は、魔晶石を基盤に収めた煉瓦ほどの箱で、入力、変換、発信を担う機器が収められている。今はカーラが持っている筈だ。
一方の受信管は、掌に入るほどの細長い筒で、中には魔導触媒と硬く巻いた紙が入っている。送信盤に書き込まれた文字が、その紙に再現される仕組みだ。触媒が送受固有の一対になっているため、傍受ができず、こうした状況では常用されている。
「こんちくしょう」
読み上げたミストが、ゼノとアリスの視線に気づいて慌てた。
「違う、書いてあるんだ。きっと副長だ」
気を取り直して続きを目で追う。
「小隊規模の集団がそちらに接近中。接触を避けつつ本隊との合流を試みよ」
「本隊って、ヨハンナ副長の方?」
エルルが振り返ってミストに訪ねる。ランタンと索敵盤の光が半身を照らし上げている。
「そうだと思う。でも遠いなあ」
呟きつつ、エルルの頬に蠢く照り返しに気づいて、ミストは慌てて索敵盤を見るよう促した。目線を戻したエルルが裏返った声を上げる。
「いっぱい来る。何だろう、魔動機付きの、車かな。自行車みたいな。小さいのが四つ、大きいのが四つ。もっとかも」
ミストがアリスを振り返る。
「置いて行く?」
口の中で詠唱を続けながらアリスは首を振った。
無口で凄みと威圧感はあるが、度を越した口下手で引込思案。それは皆も知るところだが、実はアリスにはもうひとつ手を焼く性質がある。頑固さだ。これと決めたら意固地を通して聞き入れない。
「後で叱られたって知らないからな」
言い捨て、ミストは積み上げた荷に駆け戻って行った。エルルに索敵盤の片付けを指示しながら、積み上げた荷の周りに筒を差し込み始めた。
「何してるの? それ破裂管だよね」
背嚢に索敵盤を押し込みながら、エルルが不安げに訊ねる。振り返ったミストの、嬉々とした表情に不安が抑え切れない。
「ただでくれてやることはないだろ」
ものすごく楽しそうだ。
「やめて、やめて」
足踏みしながらエルルが泣き声を上げた。ぎゅうぎゅうと、盤を押し込む手を早める。
準備を終えたミストは、ランタンで床を照らしながら、並んだ椅子の間を這うようにして探った。避難口を見つけるや、手早く床板を跳ね上げて蓋を外した。
「アリス、早くしないと爆発するぞ」
「おまえら、いい加減にしろ」
ゼノが悲鳴ともつかない声を上げた。
アリスはそれどころではない様子で、解錠の施術に集中している。幾度も詠唱をやり直してようやく、腕輪の溝に収めた金属片が融けて一体化した。
腕輪が小さな音を立て、捩じれるように口を開けた。ゼノの右手首から外れ、デッキに落ちて跳ねた。
「アリスー」
床の避難口から頭だけ出して、エルルが呼ぶ。ミストの仕掛けた破裂管の危うさに加え、エルルの焦り様を見るに、敵はどうやら思いのほか近づいているようだ。
「拾って」
拾い上げた腕輪をゼノから奪い取ると、アリスは鎖を掴んで壁の固定具を潜らせた。
「こっちも外し」
アリスはゼノが言い切る前に鎖を引いた。
「急いで」
アリスが鎖を掴んだまま走った。まだ鎖に繋がれたままの右手を思い切り引かれて、ゼノは半ば四つ足で追い掛ける。それより他にしようがない。
アリスが不意に立ち止まった。ゼノが追い付いた瞬間、その足元が抜けた。アリスは床の非難口を跨ぎ越していた。
ゼノの身体はそのまま地面に落ちた。地表に敷かれた枕木まで、思いのほか高さがあった。足から落ちたが、転んで強か尻を打ち、声も上げられず硬直した。その上に鎖の残りが降って来る。
「この」
喚きながら見上げた視界が真っ黒になった。アリスの投げ降ろした背嚢が直撃し、ゼノの身体はそのまま地面に押し潰された。
「静かにしろよ、気付かれるぞ」
ミストが抑えた声で言いながら、アリスの背嚢を引っ張って退ける。
不意に、蛙の鳴くような声がした。アリスが非難口を潜った拍子に、伸びていたゼノを踏んだのだ。
「静かに」
アリスが言った。
「アリス、目薬」
手探りで非難口の蓋を閉じているアリスに、ミストが小瓶を突きつけた。夜戦用の視覚拡張薬だ。
「けっこう派手に爆ぜるから、点火の瞬間は目を閉じて。これで向こうの気を引こう」
「その隙にどこかに隠れる?」
ミストの策に、エルルが不安気に問う。
「この辺りじゃ、せいぜい岩の裏だから無理だ。せめて山まで逃げないと」
「まだ凄く遠いよ」
「車を」
点眼後の目を押さえながら、アリスは唸るように言った。視覚拡張薬は鼻に抜ける痛みがある。
「相手の戦車を戴くのか」
「自行車だよ。かなり小さいもの」
エルルの声が心なしか弾んだ。
「接触を避けろって言われてたろう。ちゃんと上官の命令を聞けよ」
ようやく立ち直ったゼノが背中で呟く。
「あんたが言うな」
ミストが口を尖らせた。どうやら釘を刺されるのは常のことのようだ。
アリスが車両の下を這って行った。ミストとエルルが続く。鼻を摘まれても分からないような闇の中、ゼノの周囲から気配が動いて行く。
不意に、鎖を引かれた。ゼノも動かざるを得なかった。
四人が這い出したのは後続の貨物列車との連結部だ。
エルルが記憶を探るように宙を見上げて、列車の右側面を差した。四人はそのまま、貨物列車の後尾まで移動した。
エルルの舌足らずな声の説明によれば、軌道の左手は斜面になっており、少し下った先に街道が並走している。自行車の集団は、それを通って接近している。
「来た」
ミストが囁いた。唸るような魔動機の音と、地面を擦る車輪の音だ。重々しさと騒々しさを増して、走行音が近づいて来る。
まだ一台。斥候かも知れない。自行車で近づくからには、相手に身を隠す意思は薄いようだ。
砂利を踏み締めるような音がして、車輪の音が止まった。魔動機の音はまだ低く続いている。
「一台だけだね」
「降りたら」
アリスがミストに囁いたのは、着火の段取りだ。ミストは頷いて手の中の操作管を見せた。
槍のような照明が、小型車両の下を抜けて地面を照らしている。こちらの貨物車両には、まだ注意は向いていないようだ。
ちらちらと光が揺れた。人影が照明を遮っている。
「考え直せって。面倒なことになるぞ」
一応は空気を読んだのか、ゼノも叫び出すようなことはしなかった。
エルルが問うような表情をしたものの、アリスとミストは意に介さなかった。搭乗員が自行車を離れ、列車に近づいて行くさまを、足音で探っている。
アリスがミストの肩を叩いた。
ミストが駆け出した。
一拍を置いて、幾筋もの光束が周囲に伸び、車両の屋根が跳ね飛んだ。遅れて重い金属音、硝子の砕ける音が響く。
頭を殴られるような破裂音の中で、ゼノは溜息混じりにアリスとエルルを貨物列車から引き剥がした。エルルは鼻先で圧搾板のように震える列車の壁に慄いた。
夜空に飛んだ屋根が落ち、割れ鐘のような音を立てた。列車内では、まだ連続して破裂音が鳴っている。
光芒に輪郭が判別できた。小型車両に近づく人影は二つだ。ミストは既に、貨物列車の前を駆け抜けていた。
突然の爆発に竦んだ相手が、地面に伏せる動作の前に、ミストは手近の一人に掌底を打ち込んだ。
白い火花が散って、相手の身体が撥ねた。ゼノがバンドゥーンの停車場でアリスに当てられた、神経網に誤信号を与える簡易施術だ。
間を置かず、ミストは二人目も眠らせた。
念のため、三回分が装填された魔導管を手首から抜き、新しいものに差し替える。身を屈めて車両に近づき、伸び上がって中を覗く。
ゼノに小突かれ、アリスは目線をミストに戻した。車両の横でアリスとエルルに合図を送っている。
二人は車両に向かって駆け出した、必然的にゼノも付いて走る。それはそれで、鎖が弛んで意外と重い。
自行車は微かに身震いしていた。機動状態のままだ。
無骨な矩形の車体に、突き出した四つの車輪。車体の上半分は枠と骨組みに幌を掛けたような造りをしている。張り出した前部に複数の魔動機を収めた動力部があり、乗員用には並列の二座席がある。後部は席のない荷台だ。
「動かせなきゃ意味ないぞ?」
爆発に騒めいているであろう斜面の下を伺いながら、ミストがエルルに声を掛けた。エルルは操縦席に這い込もうともがいている。
「凄い。ジウの最新型だよ。国軍にだって、まだ配備されてないの。うわー独立四脚稼働だ。山だって登るよ」
鉄の車体の向こうから、エルルが何やらくぐもった声で盛んに喋っている。アリスが無造作にエルルの身体を持ち上げ、座席に置きなおした。
「人質は?」
ミストが転がったままの二人を差して問う。
「面倒だからやめとけ」
ゼノが口を挿んだ。
「ついでに俺も置いて行ってくれないかな」
アリスが無言でゼノの腕を取り、捻り上げるように荷台に投げ込んだ。
「出すよー」
エルルが鼻息も荒く声を上げる。見れば、身体の大方が運転卓の下に潜り込み、頭が半分、辛うじて風防を覗いている。
「大丈夫かなあ」
ミストが不安げに呟きながら乗り込もうとする。自行車は前触れもなく飛び出した。
「エルル」
ミストが辛うじて座席に飛び込み、抗議の声を上げた。後部の支柱を掴んだアリスが、身体を折って荷台に潜り込む。
「取り敢えず、隊長たちを追い掛けるね」
エルルが声を張り上げた。操作卓に突き出した二本の操縦桿にぶら下がる格好だ。車体が撥ねれば、前も見えなくなる筈だ。
ミストは悲鳴を噛み殺しながら、手探りで座席を動かしたり敷物を詰めたりと、エルルの体勢を整えた。すっかり立場が逆転している。
「重い。潰れる」
荷台は荷台でゼノの悲鳴が響いている。
ゼノはアリスの身体の下敷きになっていた。アリスの下から這い出そうと、揺れる荷台の中でもがく。不意に、アリスがらしからぬ悲鳴を上げて硬直した。
また余計な所に触れたのかも知れないが、ゼノには構う余裕がない。アリスはゼノの身体を引き摺り出して、荷台の支柱に押さえ込んだ。
「おまえら、暴れんなよ」
揺れる車体に合わせて跳ねながら、ミストが荷台を振り返って諫めた。
「この馬鹿でかい奴に言え。お前の乳と尻は積載超過だ」
止せば良いのにゼノが煽る。
アリスはいっそう強くゼノを押さえ付け、彼の右腕に繋がる鎖を手繰った。意図に気付いたゼノが、咄嗟にアリスの手にあった空の腕輪を奪った。
アリスの手が腕輪を追い、ゼノはそれを背中に隠す。頬が擦れるほど密着したまま、ゼノとアリスが睨み合った。膠着した二人を眺めたミストは、呆れて声も出ない。
「ねえ」
操作卓を舐めるような恰好で前に目を凝らすエルルが、皆に問い掛けた。
「あれ、何かな」
自行車の尖った照明の向こう、軌道の先に一塊になった複数の灯が見えた。
微かに判別できるのは、どうやら騎馬の一群らしい。軌道に沿って逆行し、こちらと鉢合わせする進路にある。
「だから、小隊規模の集団が来るって、通信があったろう」
アリスと睨み合いながらゼノが言った。
エルルが慌てて制動を掛けた。身体が前後に跳ね飛んだ。
確かに、副長が伝信器で寄越した警告にはそうあった。切り離され、先行した列車からの発信だ。進行方向からの情報である事は、考えれば解ることだった。
「じゃあ、この車の人たちって」
風防の照り返しに気が付いた。背後から、突き刺すような灯が幾つも迫って来る。
「お、追い掛けて来てる」
「そりゃそうだろう」
ゼノの口調は、何もかも投げ出したように疲弊していた。ポンコツにも程がある。放心しているエルルに向かって、ゼノは溜息混じりに声を掛けた。
「投光器を切ってから、下の街道に逃げろ」
混乱したエルルは、ゼノに言われるまま動いた。
操作卓を手探りで叩いて灯を落とすと、真暗闇の中に前後の灯が交錯した。
道もなく、状態も分からない斜面に舵を切り、転がる様に走り出した。ミストもアリスも、操縦桿に縋るエルルも、毬の様に車内を跳ね回った。
辛うじて、車輪が街道らしき平坦な地面を踏んだ。揺れは幾分ましになり、外の音さえ聞き分けられるほどになった。
エルルは加速ペダルを踏み込んだまま硬直している。四人を乗せた自行車は、街道を疾走し続けた。
斜面の上の軌道周辺を伺う余裕もできたが、状況はよく分からなかった。双方がかち合って乱戦になったのか、それとも睨み合ったまま動けずにいるのか。いずれにせよ、今のところ追手はない。
「だから、ちゃんと上官の言う事は聞けって言ったろう」
「うるさい」
ゼノの苦言にそう返したミストだが、さすがに歯切れが悪かった。
「でも、それなら、この車の人たち、誰なのかな」
エルルが不安げに呟く。思えば、明確な害意も確かめないまま、襲撃して自行車を奪ったのはこちらだ。
「自分で言ってたろ」
ゼノは説明するのも億劫な様子で応えた。もぞもぞと、荷台の中で座り心地の良さげな体勢を探している。
「ジウだ。汎テランフロンタ」
ミストが声を上げた。ジウは汎テランフロンタを構成する十二の自治圏のうちのひとつだ。工業技術に秀でた国家で、土木機械や魔動機の一大生産地でもある。
「こんなところに、どうして」
「それを言ったら、リースタンの宮廷衛士隊がこんなところで、どっかん、どっかんやってる方が変だろう。わざわざバンドゥーンまで人攫いに来てさ」
ゼノが呆れたように言った。
エルルとミストが視線を交わした。ミストがゼノを振り返る。
「なんで、リースタンだって思うの?」
ゼノが大仰に呻く。
「あんな優秀な部隊に、どうしてこんなポンコツがいるんだ」
「ポンコツって言うな」
アリスも揃って三人が口を尖らせた。
「君らセレンの所の兵隊だろ。それなら、あいつは今頃、城の前か」
アリスの息遣いが変わった。窮屈な荷台の中、ゼノと身を寄せざるを得ないため、はっきりと感じる。今更ながら、三人は蒼白になって押し黙った。
「さすがに、あんな美人局みたいな遣いは想像してなかったけどな」
「副長を馬鹿にすると長生きできないからね」
ミストが強がって言った。
「鼻の下が」
伸びていた。アリスが短く付け加えた。
ゼノが間近のアリスに目を遣り、不意に意地悪い目をして微笑んだ。
何気に嫌な予感がして、アリスは身じろいだ。左手の違和感に気付いた。腕を翳す動作に合わせて、鎖が荷台の床を擦った。
左の手首に鈍い色の鉄の輪がある。生え出た鎖が床を這って、ゼノの右手に繋がっていた。
アリスは声にならない悲鳴を上げた。
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