第2話 冒険者ギルドに行こう!
異世界フォルテシア。その広さはなんと地球の10倍らしい。
いわゆる『剣と魔法』のファンタジー世界であり、様々な種族が住んでいるという。お約束の『魔王』も、もちろん存在しているようだ。
「ちなみに魔王サン1年に6度よみがえる設定です」
「1年に6度って、頻度おかしくない?」
「異世界召喚、転生がブームになったせいで、こちらの世界は大忙しなんすよ。あちらの世界の企業サンからも依頼が多いんすよ。新入社員研修の一環として、または中間管理職のレベルアップなど、用途は様々っす。まー、こちらも色々な趣向を凝らしてみているんすけど、イベントもおっつかないのが現状でして」
そんなに異世界召喚や転送が一般的なものになっていたなんて、オレは全く知らなかった。まぁ、なんていうか……新聞やテレビとかみるのもおっくうだったしなぁ。今もだけど。
なんでもこの世界の住人たち、つまりはNPCたちには決まった【ステータス】や【スキル】しか割り振られていないらしい。つまり成長しないのだ。しかし、異世界からの召喚者たちは違うことに誰かが気づいた。召喚者たちはレベルアップし、能力をあげることができたのだ。
「魔王サン……といっても今は役職のひとつにすぎませんが、むか~し世界を恐怖のどん底に叩き落としたその存在を倒すためには、異世界の人々の協力が必要不可欠だったつーわけっすね」
「へえ、なるほど」
世界は平和になったが、ここで一つの問題が生じた。なんと、異世界からの召喚者たちには元の世界に帰る術がなかったのだ。
「あ、ご安心を。今はそこらへんの問題はちゃーんと解決してるっすから」
よかった。
とにもかくにも、魔王を倒せば元の世界に帰れると思っていた召喚者たちは大混乱。そこでこの世界の人々は、召喚者たちを楽しませるための催し物を開くことにする。魔王が率いていた軍勢、俗にいう魔王軍の残党を討伐し、一定数の討伐があればそれに応じて報酬を出したり、町人の依頼をこなせばお礼の品を渡したり。貢献したポイントに応じて豪華な賞品を用意したりと、人々は趣向を凝らしていった。これが『イベント』のはじまりであるという。
しかしながら、やはり大きな目標というものは必要だった。そこで誕生したのが『勇者×魔王』システムだという。
「ま、王道RPGっすね。みんなで協力して、魔王退治っす。そこで用意したのが、魔王(仮)サンっす。弱いと話しにならないんで、これはつよ~い召喚者サンの中から抽選していまっす」
召喚➝冒険⇔イベント➝魔王討伐このサイクルを回すことにより、この世界の経済も発展するという算段だったらしい。そうこうしている内に召喚者を元の世界に戻す方法も発見され、一件落着。
「とはいうものの、こう召喚が多いとこちらも人材不足で大変なんすよねー、ホント」
妖精はぐちぐち言う。
あれ?
「ところでオレ、なんで召喚されたの? しかも部屋ごと。まさか誰かの依頼?」
「そうっす」
あっさりと。まぁ、大体予想がつく。
「母さんの仕業か」
「いんえ。妹サンっす」
「あいつかよ!」
妖精がぱちんと指を鳴らすと、一枚の紙がぺらりと落ちてきた。
『復職支援プログラム』
「妹サンの企画っすねー。これ実行する前にしょーたさん会社クビになっちゃったんで、自立支援プログラムとか、そんな感じになっちゃいますけども。あ、ちなみに1000枚くらいあったんですけど、読むの大変だと思ったんで取り急ぎ要点だけを1枚にまとめてみましたー」
それでもなんかすげーびっしりと書かれているんですけどこれ!
しかし、なんだって妹(あいつ)がこんなことを。まるで生ごみの入ったごみ袋をつまみ上げるときのような苦々しい顔でオレをみる妹が。もう何年も会話していないような気がするな、そういえば。
「妹サン、たぶんしょーたさんに立ち直ってほしいんでしょーね」
「そうなのかなー」
嫌がらせとか、厄介払いにしか思えないぞこれ。
なんだよ最終目標。魔王より数倍強い神的な存在を倒すって。
「ああ、それ、未だに誰もクリアしたことのないクエストっすね。レベル99でスキルマの冒険者が束になっても勝てないというボスがいるんすよ」
「……」
無理じゃないですかそれ。帰りたい。
「まぁ、こちらも料金もらっちゃってるんで、そう簡単に帰ってもらっちゃ困るんすよねー。最終目標はさておき、やれるところまでやってもらわないとわたしらのボーナスの査定に響きますんで」
そういうところは現実的なのね。仕事が大変なのは、
「ところでええと……妖精さん?」
「あ、失礼しました。ぼくの名前はククルっす」
「ククルさん、オレたちは今、どこに向かって歩いているのこれ」
「冒険者さんたちが初めに訪れる町ローグタウンっす。そこの冒険者ギルドでチュートリアルクエストを受けてもらうっす。そこで基本的なことを学んでもらいます」
まぁ、ゲームじゃよくある流れか。
「町が見えてきたっすよ」
いつの間にか、中世ヨーロッパ風の建物群を確認することができるところにいた。人、というか色々な種族の姿も見えるようになってきた。耳がとがっている人がいたり、獣のように毛で覆われている人がいたり、様々だ。日本人らしき人もいるな。町はかなり賑わっている。本格的になってきたなぁ。
オレはククルさんに導かれるがまま、町を歩いていく。
そしてたどり着いたのは、大きな赤いレンガ造りの建物だった。
「ここが冒険者ギルドの総合案内所っす。入るっす」
「はい」
オレはおそるおそる、建物のドアを開ける。
「……」
カウンターにごついおっさん(オレもおっさんだけど)が腕を組んで立っている。
右目に眼帯。身長は190センチくらいはあるだろうか。筋肉が隆々だから、余計にでかく見える。熊みたいな人だった。
「何か用か」
ドスの聞いた声が下腹に響いてきた。これは怖いぞ。
「こ、こ、こんにちは! 失礼しました!」
俺は大きな声で、そして45度に腰をおって挨拶をした。挨拶は先手必勝! すでに後出しだけど、とにかく目を合わしたら殺されそうなので、オレはお辞儀したまま、ゆっくりと建物から出るのであった。
35歳でうつ病になったオレ(無職)が異世界に行って無双できると思ったらできなかった結果 るーいん @naruki1981
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