第37話 マスカレード
「では、作戦開始だ」
作戦は日曜を狙って行われた。場所は大規模都市公園。
良く晴れた日で、そこには多くの家族連れと恋人たちが、ささやかな団欒を満喫していた。
gh型怪人、全体を白い体毛が覆う巨躯のゴリラのバケモノを筆頭に、本部派遣の監視役はボディを修復し此度は自前の戦闘服を持ち込んだヘラクレス。俺たちはニズヘッグと揚羽と俺の最小構成メンバーである。
兎角戦闘能力を見ると言う事で今回はほぼ手出しは無し。即急に敵勢体を呼び出しての戦闘となる。
前座として市民の排除は既に終え、だだっ広い芝生公園には急行してきた警官隊が既に怪人を遠巻きに囲み、通信機越しにフレイは作戦の開始を告げた。
東京のベッドタウンと揶揄される埼玉の都心部の公園。晴れて警視庁管轄に組み込まれたと聞くジャッジが到着するには、第一報から二時間。ヘリでも持ち出せば一時間弱と言った所だろう。一般人の排除を初めてすぐと考えると、あるいは程なく出現が見込める手はずである。
「グルォオオオオオ!」
怪人を拘束していた糸を解除。途端怪人は全身に力漲らせ、蒼天向けて咆哮する。
それまで腕一本足一本の制御がせいぜいであった俺の能力だったが、先日フレイに食らった技が一つのヒントとなった。それ故にこの役目は俺一人で成し得た。
心臓である。
人の意思に干渉するのが俺の糸であり、しかし心臓の鼓動は意思の反射では無い。だが心因性により心機能を低下させる事は理論上可能で、つまりストレス。
怪人の意思そのものにコネクトし、人の思考とでリンク。無論、怪人の意識が逆流する為、俺にかかる負担も馬鹿にならない。むしろ狂気に取り込まれそうな程であった。
ただ純粋な衝動による破壊衝動。その燃え盛る炎の濁流。己が身をも破裂せしめんばかりの感情の爆発。
糸を解くと同時にどっと汗が吹き出た。目の前の景色は赤色で、理由もなく全身に滾る力が逃げ場を求めて暴れ狂っている、そんな感覚。
「そういえばあのジャリ、何処行ったのぉ? 基地には姿見えなかったケド」
少し離れた建造物の上、高みの見物を決め込む俺たちとヘラクレス。怪人のみを戦闘させる為、私服で一般人に紛れる案もあったが間もなく敷かれる付近一帯の避難を抜けるのもまたリスクを伴う。戦闘服を脱いだ俺は、少なくともいざという時逃げ切れる自信がない。
『……』
『何、死んだの? まぁ半怪人なんて中途半端な事、危険があってオカシク無いケド』
『他人の心配じゃなくて手前の心配しとけ。お前ジャッジに目の敵にされてんだ、せいぜい見つからないようにするんだな』
『ああ、アタシが倒したヤツの後輩? なんでしょう? しっかもか弱いオンナノコ。レポートは読んだわ。大して運動能力が良い訳でもないじゃない、何でアナタ逹が手こずってるんだかわっからないわぁ』
『うっせぇな』
『なによそれぇ、逆ギレ?』
僅かばかりの制服警官を蹂躙する怪人を遠目に、すっかり観覧ムードで軽口を叩くヘラクレス。一方のニズヘッグは開始を宣言した後は身じろぎ一つなく、ただ黙し佇む。
腕一つ振えば公園の樹木一つ程度難なく削り取る一撃。済んでの所で俺が糸を干渉させ、怪人のその勢いを削ぐ。それでも殴りかかられた警官はあっけなく吹き飛ばされ、一人また一人と戦闘不能に陥っていった。
一般市民とはまた違う彼ら警察官であるが、彼らもまた安易に手にかけるには面倒な手合である。仲間意識が非常に強く、大半が正義感を持った集団である事も加えて、秘密組織を貫く俺たちにとっては是非とも静かにしていて欲しい存在である事は間違いないだろう。
ではジャッジはどうかと言えば、そこは所謂日本人体質と言うか異端も異端であるが故か、警視庁内でも詳細を知る者は決して多くなく、彼女に関してはまぁ例外に数えられる。
「待ちなさい!!」
なんやかんややっている内、そうして本日の来賓の到着であった。
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