第30話 それぞれの属する
『解った。程なく合流する。それまで待機しておいてくれ』
報告を受けたフレイは仔細を尋ねるでもなく、ただそう答えた。
程なくと言うからには既に近場まで来ていると言う事だろうか。さもなくばこれから基地を経つのでは一時間と待たされる事になりかねない。
それは恐らく、最悪の事態を覚悟せねばならなくなる。
何せ、俺と揚羽は既にブレイブ・ジャッジと事を構えてしまっているからだ。
追い縋る植物を掻き分け棟の外に脱出したとほぼ同時、俺たちとジャッジは出くわした。
一見すると只の強盗である俺たちである。植物に侵食され住人が逃げ出した集合住宅より這い出てくる目出し帽の男二人。これを怪しまないのでは警察官失格だ。一もニもなくジャッジは襲いかかって来た。
となれば大人しく捕まる訳にも行かず、武器を構え応戦した事で、俺たちがかつての戦闘員で有る事は露見したと考えて差し支えないだろう。
腹を決め交互に入れ替わり、背負ったリュックからヘルメットと外套と取り出し装着した。私服の更に上から外套を羽織った為暑さは拭えないが、さりとてそれを見逃すとも思えない。それは俺たちとて同様だろう。
「ビィッ!」
変声機から発せられる戦闘員の鳴き声。突き出した杖の一撃は、済んでの所で躱される。
体を躱した勢いそのまま、繰り出された蹴りは俺の腹部を捕え、鈍い衝撃、吹き飛ばされる。
入れ替わりとジャッジに肉薄する揚羽。杖を薙刀かのように振り下ろし、返しては振り上げ、最中で停めては突きに転じる。一連の動作が流れるように繰り出され、まるで完成された殺陣の様だ。
「お前たち何をしていたっ! 答えなさいっ!」
合間合間、ジャッジは外部スピーカーより問いを繰り返していた。俺たちが怪人を用いる組織の人間であると判れば、おのずと俺達がいた棟で何かしらがあったと想像するだろう。無論応える俺たちではない。
シューター、銃を腰にマウントしたまま、ジャッジは徒手空拳であった。俺たちはまぁ只の戦闘員であるから、その判断には一利ある。超火力である光線銃を迂闊に住宅街で放とうものなら、それこそ余計な被害を増やそうという物だ。
それにジャッジが現役の警察官であるならば、それこそおいソレと発砲は出来ない筈である。
かつて彼女の上司は命令無視を繰り返しジャッジを使用していたというが、よもや彼女もまた未だに警察組織に背き身勝手な行動を取っている筈はない。想像ではあるが恐らく怪人に対する有効打として警察が運用を開始しているに違いない。
多分……。
『で、どうしますこれ?』
『ん……どうしたもんかね』
まぁ組織に縛られているのはお互い様。こちらにも組織の運営方針と言う物があり、こと戦闘に関しては遅滞戦闘が常である。
が、それも怪人の運用試験という前提が在りきである。今回はと言うと実地試験を行い破棄する怪人は居らず、ましてや現場に眠るのは組織にとっての最重要優先と思われる花、サクラだ。いつもの様に負けて逃げると言う訳にもいかない。
『この場合、倒さなきゃなりません……かねぇ?』
倒せるかどうかを別にして、俺は尋ねる。怪人を含め数の暴力であれば圧倒は容易である事は実証済みである。だが現在現場に存在するのは虫の称号を関する揚羽と半怪人兼戦闘員の俺だ。対怪人用に持てる技術を全力投入されたであろう人間兵器相手にどれだけの勝機が望めるか。
『とりま、やるだけやるしか無いだろ』
望める増援も現在向かってきているフレイのみ。しかもニズヘッグは俺たちのスーツと違いキグルミ並のサイズを誇り、携帯は不可能。恐らくであるが運搬はしていない。
この上制服警官だとしても敵が増える事があれば、最悪俺たちは捕縛され、良くてサクラを放棄して逃走するしかない。
……何とか、フレイの到着からサクラを連れて撤収するまでを、俺と揚羽で凌がねばならないと言う事だ。
スーツのダメージチェックも
一撃を加えては離脱するヒットアンドアウェイでジャッジを押さえる揚羽が、一つ大きく下がり、少し遠く、俺に並んだ。
「答えなさい! 何をしていた!」
繰り返し問いかけるジャッジに、俺たちは杖を構え、応えた。
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