第12話 戦闘員の非日常5
「
現れた
子供の癇癪が更に混乱で悪化する。
「逃げ遅れた子供か……哀れな」
「
ちなみにこの
そんな
『……泣き止まぬな』
胸元のピンマイクを握り、手首を口元に運ぶ。構造上仕方ないが、居丈高の高慢ちきな女性が狼狽える姿は少しだけクるものがあった。
「
答える。泣き続けるエネルギーが切れたのか、目の前の男の子は激しく嗚咽を繰り返す様になった。まぁすぐにエネルギーチャージは終了するだろうが。
『むぅ。困ったな。そうだ、いっそお前担いで運んでやれ』
「
『仕方ないだろう。このまま放置して巻き込む訳にも、なぁ?』
同意を求められても困る。ごく常識的な事を言えば、そもそもテロを起こさなければこんな事にはならないのだから。
人が支配し暮らす世界である。余程の田舎でない限り、人は居て、恋人が居て、親子が居る。そして人が集まる場所を襲撃すれば、身体能力に劣り、状況判断に欠ける子供が現れるのは確率の問題だ。
「
見やるフレイは本気で困っていて、建設的な意見は求められそうにない。かと言って俺も旨い手は思いつかない。放置も有りと言えば有りだ。が、狼狽する子供に当てられてか、旨い事思考が回らない。軽いパニックだったのも確かだ。
俺はしゃがんた体制のまま、子供ににじり寄った。「ヒッ」と男の子が激しく震える。右手を差し出し、広げた掌を見せ、更に進んだ。
「う……うぅ……っ」
今にも再噴火しそうになる男の子。見せつけるように目の前にやった手をグーパーと動かし、それから街の方を指差す。
どれだけ意図が伝わるやら。
「ふぎっ、ううぅ、うん」
よし、良く我慢している。男の子は何とか一つ頷いた。思わず撫でたくなるが止めておく。所詮俺はテロリストに堕ちた身だ。
さてどう運ぶか。脇に抱えるか、背中に乗ってくれるか。無理やり運ぶなら勿論強引に脇に抱えてしまうべきだが、見たところそこそこの年齢。体重は二十キロはいくだろう。片腕で支えるには些か、というかむちゃキツい。となれば、
「ギッ」背を向けて後ろ手に手を広げる。
面倒だから解ってくれ。
いつ現れるか解らない平警備保証の存在に焦りを覚える。
「……」
男の子は案外素直に俺の肩を掴んだ。
「これからコヤツがお前を人の居る場所へ運んでやる。そこから先までは面倒が見きれぬ故、母親を呼び続けるのだ。恐らく警官が近くに来ている事だろう、見つけたらそいつを頼るのだぞ」
フレイさん、心配しまくりです。
まぁ子供なので仕方はない。むしろフレイにも人間らしい面があると安心出来た。男の子が背中に体重を寄せるのを確認し、尻に手を回す。
「ギッ!」
気合を入れ身体を持ち上げる。重い。腰が悲鳴を上げた。
『後は任せる。届けたら全力で戻ってこい』
「
マントを翻し来た道を戻る。その向こうでは絶えず遠く破砕音が続いていた。
俺は身体を一つ上下に振りオンブの体制を整えると、慌てず急がず、しかし急いで街の方角へ歩き出し
「っにしてやがるぁ!!」
瞬間、現れた靴の裏が目の前に広がり、衝撃。
景色が左へと流れていった。一周、二週、そして地面。
「ちょい! 無茶苦茶するなっつの! 子供が落ちたらどうするつもりだったのさ!」
「おう、ナイスキャッチだヤマP!」
「ギ……!?」
スーツのおかげか、ニ回転半吹っ飛ぶ程の衝撃を受けたにしては、思いの外意識はすぐ回復し、俺は身を起こし振り返った。
「貴様ら……何者か!?」
気づいたフレイが声を荒らげる。見知っている相手だが、今日の俺たちは
見ると以前より装甲が増加され、最早機動隊風というよりは
「んなこたぁどうでもいいんだよ! いつもの連中かと思ったら何だてめぇ! 猥褻物陳列罪で逮捕すっぞゴルァ!」
「
その背後より続く三つの姿。それぞれが身体のラインに青、緑、黒を入れている。
とうとう五色のそれになってしまったのか。心中でため息をつく。きっと今頃フレイはココロの中で小躍りしている事だろう。
ここ数日の喫茶店での調査では何の成果も得られなかった末に、この結果。
当面特別報酬は望むべくもないようだ。
しかし、こんな、バカみたいな展開になるなんて。
「うっせ、やりたきゃお前がやれ! なぁんで態々敵の前でポーズ決めて仲良く自己紹介しなきゃなんねぇんだ!」
最もだ。短絡的な言動の割に赤は随分
「何者かと聞いているっ!」
問いかけを無視されて些かムッとしたのか、
「……」
静寂が場を支配した。
「どうした、身が
その間に体制を整えた俺は、すぐに逃げ出したい欲求をぐっと堪え、
「
「
先、逃げていいすか。
「ハッ、グリーンピースだか緑黄色野菜だか知らねぇが、こんな事するバカ野郎共はもういらねぇんだよ!」
「どうあっても名乗りたく無いんだね……」
フレイの再三に渡る要求は突っぱねられ、いよいよ危険な状況であった。頼みの綱のバケモノR型の起動はどれくらいになるだろう。揚羽には既に通信で報告は済んでおり、起動状況の確認に走って貰っている。
いっそ何よりも先に援軍に駆けつけて貰った方が良かったのかもしれない。
カトラスを抜き放ち、グリップの尻を捻る。片刃の刃がやおら熱を帯びて赤く唸った。
「
言うとフレイは滑らかなバックステップで後退するや、マントを翻して一目散に駆け出した。釣られ、俺も後退する。恐らく子供の事もある、すぐに追って来る事は無いと信じたい。
「っか野郎逃がすかぁ!」
が、駄目。赤の色に恥じない猪突猛進ぶりで、赤レンジャーが追いかけてくる。更に向こうを覗くと、残りの四人は顔を見合わせ何かを確認しあっているようだ。
と、なればすぐに四人が来るか。
『揚羽、敵が四人。追いかけられてる』
『ばっか! 抑えてろよ! フレイ、最後に打った時間と量は!?』
『二十分前に一本だね。もうそろそろじゃないかな』
全力疾走をしている割にフレイの声は落ち着いている。案外と身体能力は高いようだ。むしろ俺よりマシなのではないだろうか。
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