第1章
01話 お仲間~
ども、
でも、引きニートじゃないよ。街中を歩き回ってるよ。
ちなみに、目的は無い。なんか、良い事ないかな~って感じで歩き回ってるだけ。
……徘徊とか言うな!!!! 市場調査だ!! 何を調査するかは俺も知らないけど!!
まあ、てな訳で街中をうろついてたんだけど、屋台街の一角で『醤油』というワードが聞こえてきた。
今日までの期間で、この街には『醤油』と呼ばれる調味料が存在しない事を俺は知っている。
宿で出された食事に、醤油味の物が有ったのでその際聞いたんだけど、それは醤油では無くモンスターの内臓を使った調味料だと言ってたんだよ。
その後、他の食堂でも確認したんだけど、『醤油』と言う名前の調味料が存在しないか知られていないのは間違いなかった。
そんな訳で、その『醤油』と言う単語を喋っていた男が他の町か外国から来た者で、そこでは醤油が存在しているんだ~って思って喜んだ訳だ。
なんてったって、この街で使われている醤油に似た味の調味料は、やはり醤油程のうまさが無くって、微妙~に不満に思っていたんだよ。
後さ、醤油があるって事は味噌も有る可能性が高いって事じゃん。ここ味噌無いんだよ。味噌って日本人の心の友じゃん。味噌汁のみたいじゃん!!
ってな訳で、聞き耳ずきんと化したんだけど……えっ? ナンプラー? 魚醤? それって……
慌ててその喋っている男の顔を見ると、ど~見ても黄色人種。しかも醤油顔!!
年齢は今の俺と同じくらい?
そして、なんか見覚えのある皮鎧セット!! しかも腰のベルトにはちっこいポケットが4つ!! 既視感が!!
あの皮鎧セットってさ、性能的にはこの街にある初心者向け製品と変わらないんだけど、デザインは結構違っていて他に見た事が無かったんだよね……
以上の事を纏めると、あれって日本人臭いぞ!!!! って言うか、俺とおんなじ転生だか転移だかしたヤツじゃね?って事。
そう思えたら、もう即座に確認に動いたよ。
「あの~ぉ、ひょっとして日本人だったりなんかしませんか?」
屋台の脇で串肉を頬張ろうとしていた彼は、俺の問いに驚きの表情で応えてくれた。うん、その表情だけで分かったよ。間違いない、日本人だ。
彼の名前は太一郎だった。当然ながら日本人。んで、聞いてみると俺と同じように死んで神様っぽいアレと会ったらしい。その上、光の球も選ばされたとか。ん……完全に同じだ~ね。
しっかし、彼の名前、太郎や一郎でなくって、太一郎……初めて聞く名前だったよ。ってか、今時一郎はともかく太郎って名前は同世代でも殆ど見かけないけどさ。
死んだのは36歳の時らしい。死因とか、それまでの生活については「話したくない」って言われたよ。なんか、あんまり良い人生じゃなかったっぽい。
ま、俺の人生も、良い人生だったか?って聞かれたら「びみょ~」って応えるけどさ。だって20歳で死んじゃったしね。しかもぺっちゃんこになって…… やっぱ、名付けが悪かったんだよ。親父のせいだ。間違いない。
んで、太一郎さんと情報のすり合わせをしようとしたんだけど、太一郎さんって今日この世界に来たばっかりだったらしい。
だから、この世界の事は何にも知らなかった。
それどころか、ここが異世界だと言う事も理解していなかったよ。ファンタジーじゃなくって、SF的に別の星への転移系だと思っていたらしい。
なんか、ゲームも殆どした事が無くって、ファンタジー系の小説も全く読んだ事が無いってさ。
多分だけど、今日俺と知り合わなかったら、この後まともに生活できなかった可能性が高かったんじゃね? いや、マジで。
だって、「冒険者ってなんだ?」って聞いてきたんだよ。「無謀な事をする職業なのか?」って…… いや、まあ、言葉そのものとしては間違ってないけどさ……
確かに、ゲームやその手の小説を読んでなかったら『冒険者』って言われても「はぁ?」って成るか。改めて考えると、確かに『冒険者』って変な名称ではあるよね。うん。
ま、こんな感じで『冒険者』すら知らなかった太一郎さんだから、当然『冒険者協会』なんて物を知るはずも無く、金策が出来ないまま所持金を費やして、浮浪者コースまっしぐらだったと思う。
てな訳で、その後1時間ぐらい、蕩々とこの世界&ファンタジー的常識を講義する事になった訳よ。
「保証人か……」
普通の仕事に付く為には、他の者の紹介が必須で、大半は縁故採用だけだと言う事を説明すると、彼はため息と共にそう呟いた。なんか、前世(?)でも同じ苦労をしてたっぽい?
「ん、だから、俺らは普通の仕事って多分無理。まー、盗賊に襲われてる所を助けて──なんてテンプレがあれば、それを縁に紹介してもらえたりなんかするかもしれないけどね~、ま、無いよね」
テンプレなんて無い。テンプレがあるなら、俺たちは『俺Tueeee!!』してるはず!! それが無いって事は、テンプレなんて無いって事なんだよ!! なんだよ、『色を変えられるだけ』って!!
あ、そうそう、太一郎さんのギフトは『固定』だったよ。スマホを使った事の無かった彼は確認方法を知らなかったみたいで、教えて確認して貰った所、『物体の位置を固定出来る』だった。
それ聞いた時、なんか、既視感を覚えたよ。『ギフト:カラー』と似た感覚を…… ま、後で検証するけどね。
太一郎さんは、壁に背をもたれたまま空を見上げて、大きなため息を付いていた。うん、そう成るよね。
「ってな訳で、後は正直『冒険者』やるしか無いんだよね~」
そう言って、『冒険者』の仕事や、その危険度などを説明していった。
太一郎さんったらRPGやった事が無いから、レベルアップの事から説明しなきゃ成らなかったよ。ファミコン時代のゲームのマニュアルかよ!!
で、その時『経験値』とか説明したんだけどさ、なかなか理解してもらえなかった。
「なんで、その経験値とかって言うのが一定になったら、身体能力が急に成長するんだ?」
「剣で戦って、敵を殺したのに、なんで魔力?なんていう使ってもいない力まで成長するんだ?」
「まあ、ゲームをゲームとして成り立たせるシステムだと言う事は分かったけど、それはゲームだからだろう、異世界とは言え現実でそのシステムが同じように働くとは思えないんだが」
などと、思いっきりだめ出しされまくったよ…… いや、あのさ、確かに言われてみればあり得ないシステムなんだよね。
ゲームに慣れた者には当たり前になっているシステムだけど、改めて突っ込まれると答えに窮しまくったよ。
なんか、5歳の甥っ子の『なんで~、ど~して』攻撃を受けた事を思い出しちゃったよ……
で、しょうが無いから、「とりあえず、そう言うモノだと理解して!!」と言うしか無かった訳よ。
なんかさ、それを言ってて、高校時代に担任が授業でトルクを説明する時「物を回転させ続けようとする力だ。まあ、分からんとは思うが、そう言うモノだと思って理解してくれ」と言った事を思い出した。
当時は、なんじゃソレ、って思ったけど、確かにそう言う以外説明できないや~ねぇ~。
「で、さ、太一郎さん、ど~する? 冒険者やる?」
一通りの説明し終わったんで、確認したんだけど、太一郎さんは一瞬考えただけで「やるしか無いだろう」と即答したよ。
「死ぬかも知んないよ」
「多少危険でも、やらなきゃ生活できないのならやるしか無いだろう。
……将来に希望も無く、ただ毎日を過ごす日々よりはマシだろうしな……
それに、この世界では、危険とは言え普通にやってる事、職業なんだろう?
なら、出来る範囲で、最大限安全を図ってやるだけさ。
死にたくは無いが、幸か不幸か、輪廻だか転生だか言うシステムが実際に存在している事を体験したからな。
以前ほどは死に対する絶望的な恐怖は無い。
まあ、次も同じように生まれ変われるとは限らないがな……
この転生は、神の恩寵なんだろう。前世の理不尽を理解してくれてたのかもしれないな……」
……なんか、太一郎さんって、よっぽどイヤな人生を送ってきたみたい……
神の恩寵? いや、俺の人生は最後はともかく、そこまで悲惨じゃ無かったよ。
神様から同情されるような事って無いよ。彼女とかいなかったし、童貞だったけど、まだ20歳だったし! 魔法使いになってなかったし!!
推定未来は燦然と輝いてたから!!!!
あの後、俺は太一郎さんを同じ宿屋に連れて行って、その晩はそこで泊まった。
んで、翌朝、ある程度時間が経ってから冒険者協会、通称ギルドに来たんだよ。
目的は『冒険者登録』である。ま~、転移・転生モノの第一歩だ~ね。俺は以前登録だけはしているから、太一郎さんだけ。
登録自体はササッと終わったんだけど、受付のおっさんが太一郎さんの『ギフト:固定』に反応した。
「固定ですか… 初めて聞くギフトですね」
……はい、また、デジャブです。既視感ですよ。
レアだかユニークなギフトらしいっすよ。
……普通さ、レアな能力って言ったらさ、すっごい能力ってのが普通じゃん。少なくとも、能力自体は強いとかさ!
でも、『カラー』にしても『固定』にしても、ど────見ても地味だよね!!
『色を変えられる』『物を固定出来る』………レアでも全然ありがたくね~から!!!!
ところで、太一郎さんの『ギフト:固定』なんたけど、昨晩宿屋で出来る範囲の検証をやった。
で、分かった事は
・固定を実行する為にはその物体に触れなくてはならない
・固定出来る物体の大きさは使用する魔力に準じる
・固定出来る時間は使用する魔力に準じる
・固定した物体を途中で解除することが出来る
・固定した物体の固定を解除するには、同じ量の魔力を必要とする
・物体を半永久的に固定する事も可能だが、それには多大な魔力が必要
(現時点では圧倒的に魔力が足らない為不可能)
・固定出来る位置は絶対座標だけで無く、相対座標も可
・生き物も固定出来るが、固定が実行されるまでに2秒以上を必要とする
(生き物で無ければ、ほぼ瞬時に固定可能)
と、言う感じだった。
ちなみに検証に使った生き物は、宿屋のどら猫『ケム君』と庭の草。
『固定』確認後、ケム君に引っかかれた事から、『固定』中は意識はあるぽい。ごめんな、ケム君。
なんて言うかさ、多分、俺の『カラー』よりは言い能力っぽい。
物体の位置を半永久的に固定出来るとしたら、空に浮いた家とかも作れたりなんかする訳だ。
移動は出来ないけど、天空に城なんかも作れたりする。で、「人がゴミのようだ」とか言ったりなんか出来る訳よ。
ただ、太一郎さんいわくハッキリはしないようなんだけど、この『半永久的に固定』する為には、魔力、いわゆるMPが1000近くは必要っぽい。現在の太一郎さんの魔力は50…… どんだけレベルを上げれば出来るようになるのやら。
ってな訳で、実質、俺の『カラー』と大差無かったりする。
まあ、モンスターを『固定』している間に、しばき倒すって手もあるんだけど、生き物の場合は『固定』するには2~3秒間手で触れ続けていないといけないらしいんで、先ず無理だよね。
そんな事している間に、剣でグッサグッサ刺しまくった方が良いに決まってる。
ただ、モンスターと通常の生き物が同じなのかは検証する必要があると思ってる。もしかしたら、モンスターの場合は、他の非生物同様に瞬時に『固定』出来る可能性も有るからね。そしたら、戦闘がかなり楽になる。
まぁ、その時には、太一郎さんは超接近戦を演じなくちゃ成らない事に成るけどさ…… そん時は頑張ってもらおう。俺の安全の為に!!
と、まあ、なんやかやあって、登録を完了した俺たちは、そのまま『常設依頼』となっている『薬草類採取』の依頼を受けて町の外へと向かった。
この薬草採取だけど、ここら辺は良くあるパターン通りで、町の近くである程度安全に採取出来るらしい。
ただ、あくまでも『ある程度安全に』な訳で、死んだり大けがする者も当然いるそうだ。
んな訳で、冒険者登録をしている者以外からは買い取りが出来ないようになっているみたい。お子ちゃまが小遣い稼ぎに行って、殺されたりしない為の方策らしいよ。
この薬草類だけど、複数の『魔法回復薬』いわゆるホーション類に使用される植物全般を指し示す言葉で、その数は50を超えるらしい。
ただ、この街の周囲に有るのは、2種類だけで、俺たちが採取するのはこの二つって事に成る。うん、頑張って採取せねば。
ってな事で、俺たちは40分以上掛けて、西門から町の郊外へと出た。
一応、途中の雑貨屋で『初級回復薬』×4、『初級解毒薬』×2を買ってある。今日の収入予定額の3倍近くになったけど、とりあえず問題は無い。死にたくないからね。それが、一番大事。
一応、当座は、収入よりも、レベルアップを目的とするつもりだよ。RPG的世界なら、先ずは何よりレベルだからね~。強くなってナンボの世界だよ。
幸い、『カラー』で稼いだお金が結構な額まだ有るからね。慌てるこた~無い。
あのクズ錬金術師ギルドがちょっかい掛けてこなきゃ今頃……… うっ…いかん、負の暗黒面に陥るところだった。その事はもう考えないようにするんだ。
よし、気を取り直した。
「そんじゃ、索敵重視で、薬草探し頑張りましょう」
「分かった。……あの絵で分かるかが少し心配だけどな」
俺たちは、ギルドで見せてもらった薬草のイラストを思い出しながら、探索を開始した。
これが、長く険しい冒険者生活の第一歩だった────って事に成らない事を祈りつつ……
レアって、ただ珍しいって意味です ももも @momomo_zz
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