(道真)② がっでむ

 まあ、なんだかんだあって、フリーで露天が開ける広場で『何でも色変えます!屋』を開始した訳ですよ。

 当たり前の話だけど、1~2日目はほとんどお客は無かったね~。元々この世界に無かった商売だけからしょ~がない。

 一応その間、色々考えて、看板を作ったり、説明文を作ったり、色見本を作ったり、実演をやった訳よ。

 そのおかげも有ってか、3日目からはそこそこのお客が現れ始めて、5日目にしてトータルとしての赤字が埋まっちゃったのよ。

 その後は完全に黒字だよ。なんせ元手が掛からないからね~。うはうはですよ、うはうは。

 とは言っても、大もうけって事じゃ無いよ。1回やって200ダリから500ダリ、つまり2,000円から5,000円程度のもうけ。

 それが1日20から30の依頼が有った訳で、4,000ダリ(4万円)から15,000ダリ(15万円)位のもうけって事ね。……大もうけ?

 元々無かった商売で、パイオニアだった事も有って胡散臭い商売ながら結構なお客が来てくれた。

 ある程度話が広がった事も有ってか、10日目になっても結構なお客さんが来てくれて、MP回復を待ちながらのお仕事でしたよ。

 そんな訳で、営業開始から10日もすると7万ダリ以上の貯蓄が出来た。日本円に換算すると70万円以上だね。

 毎日のように増えていく小銭を数えながら、『宿屋から脱出して家借りんぞ~。うんにゃ、いっそのこと家買ったろか~』なんて考えたりしてました。

 はい、増長してましたよ。アホでした。

 その次の11日目から、客足がピタリと止まっちゃった訳です……

 今までなら、朝10時頃に開店(?)するとポツポツと現れていた依頼人が全く現れない。

 おかしいなーおかしいなー、といぶかっていたんだけど正午の鐘が鳴っても一人も来ない時点で、確実におかしい事が分かった。

 需要に供給が追いついてしまったというのなら、客足は少しずつ減っていくはずで、いきなりパタリと無くなると言う事はあり得ない。

 社会人未経験の専門学校生のmeでも分かるのよ、それ位は。

 これでさ、周辺の露天にも客がいなければ、なんか別のところでなんか有って客が来ないんだろ~な~、なんて思うんだけど、そんな事も無い。普通に人出が有る。

 お・か・し・い。

 そんな中、本日初めてのお客様が来店です。

 10代後半の女性冒険者2人で、以前皮鎧の色を変えた事が有ったお客様だよ。

 リピーターですよ。リピーター。客商売の神様で有るリピーター様です。

 リピーターの無い客商売は絶対長続きしません。ビバ!リピーター!!!

 某演歌歌手ばりに『リピーター様は神様です』なんて考えながら満面の笑みで神様をお迎えいたしました。

「ちょっと! あんた色を変えても品質に変化が出ないって言ったわよね! 嘘だったじゃ無い!! お金返しなさいよ! と言うか、皮鎧代弁償しなさいよ!!」

 ……訪れた神様は、我が露天にたどり着くと、当方の表情と真逆の顔で怒鳴ってきましたよ……

 リピーター様は、クレーマー様だったようです……

「えっと、意味が分からないんですが……」

 ぱっと見、彼女が着用している皮鎧(ピンクに着色済み)に破損は見られない。

 つまり、防げるはずの攻撃で貫通してケガを負った、などと言う理由では無いのは明らかだ。

 だのに、『嘘だった』? 意味が分かんない。

「私らは武器や防具に命を預けてるのよ! 劣化させられたら命に関わるんだから!!」

 横に居る非お客様も「そうよ! そうよ!」とがなっている。

「いえ、ですから、劣化なんかしませんよ」

「うそよ!! ちゃんと分かってるんだからね! 錬金術師協会ギルドが言ってたわよ!!」

 俺の言葉にかぶせるように言ってきたクレーマー様の言葉に、ポカーンである。

 はぁ? 錬金術師ギルド? 何でここで錬金術師ギルドが出てくる?

 錬金術師ギルドは、他の冒険者・魔術師・商業等と同様に互助組織として協会ギルドと言う形を取っている集団で有る。

 ま、現時点ではそん位しか知らないんだけどね~。

 多分、小説などで良くあるアレのはず。技能集団ってヤツ?

「えっと…… 錬金術ギルドがどうかしたんですか?」

 完全に意味不明状態でつぶやく俺を、にらみ付けるようにしてクレーマー様は語る。

 どうやら、一昨日前から錬金術師ギルドが『色つけ』を業務として開始したのだそうだ。

 んで、その際、俺の『カラー』による『色つけ』は、「いい加減な代物で、品質が低下し魔法付加や魔法耐性・機能に支障を来す」と言っていたのだという。

 大嘘である。虚偽である。ヘイトスピーチである。朝Θ新聞である!!。

「いやいやいやいやいやい、嘘ですよ。そんな事有りません。ちゃんと品質に変化が無い事は確認済みですから!」

 話を理解した俺は、当然ながら釈明を実行する。

 だが……

「何言ってるの! あんたと錬金術師協会、どっちの言ってる事が信じられるって思うのよ!」

 あぁ… そ言う事ね。なるほど。そりゃーそうだね。うん、納得……… 納得出来るか───!!!!

「アノですね、確かに個人のこちらが信用できないのは分かりますが、多分以前説明したと思うんですがこちらは冒険者ギルドの鑑定士マスダーさんに確認して貰ってるから品質低下は無いはずです」

「それ自体が嘘なんでしょ!」「マスダーの名前に騙されたわ」

 くそーっ、なんか本気で腹立ってきたぞー。

「分っかりました!! そうまで言うのなら冒険者ギルドまで行きましょう。で、マスダーさんに直接確認しましょう」

 そう言うと、看板やランチョンマット、折りたたみテーブル、カラーサンプルなどを取り急ぎかたづけると、リュックに入れて彼女たちを促して冒険者ギルドへと向かう。

「いーわよ、途中で逃げようとしても無駄だからね!」

 二人もいきり立った状態で俺の後に続く。周囲の露天商やお客達が唖然と見守る中、互いに怒りのオーラを振りまきながら進んで行った。

 当然、俺が逃げ出す訳も無く、左右を二人に挟まれるように進むがその事は全く気にしない。

 そして、人出がほぼ無い時間帯の為がらんとした冒険者ギルドのホール内にたどり着き、理由を言って窓口でマスダーさんを呼び出す。

 その際、受付のおっさんは「あー、アレか」とどうやら状況を理解しているような事をつぶやいていた。

 で、現れたマスダーさんに状況を説明すると、こちらもすでに状況を理解していたようで、苦笑を浮かべている。

「その件ですが、確かに私の方で剣・鎧・マジックアイテムに付いて色を付ける前と付けた後で全く変化が無い事を確認していますよ。まあ、協会同士の関係もありますので向こうの言われる事については私の方ではどうこうは言えませんが、鑑定の結果は事実です」

 ちなみに、このマスダーさんは『ギフト:鑑定』を持つおっさんで、一般にいる努力と経験で身につけた『スキル:鑑定』と比べて格段の鑑定力(?)が有る。つまり、鑑定に関しての能力・信用度が天地だと言う事だ。

 で、この『ギフト:鑑定』はレアとまでは言わないがかなり少ないギフトで、この街にはマスダーさん1人しか居ないそうな……つまり、錬金術ギルドには『ギフト:鑑定』持ちは居ないって訳。

 この世界では、基本的に生まれながら神から授けられた『ギフト』と、努力によって後天的に身につけた『スキル』で同種の物が有ったとしたら、『ギフト』の方が強力なのだそうだ。

 もちろん、全く努力していない『ギフト』と手に入れてから数十年努力に努力を重ねた『スキル』で有れば『スキル』の方が勝る場合もあるそ~な。

 マスダーさんの場合は、職業として毎日のように多彩な品物を鑑定している訳で、努力と経験の上にある『ギフト』と言う完璧な『ギフト』って事に成る。

「……じゃあ、錬金術ギルドが嘘をついてたって事?」

 クレーマー様がつぶやくが、マスダーさんは無言で微笑むだけだ。

 ……いやいや、そーゆー事はハッキリ言って欲しいな~。俺、お客だよ。金払って鑑定して貰ったんだよ。お客様だよ。神様だよ。

 何でお客様より組織間の関係を優先しやがりますかね? むぁったく、なっちょらんですよ。

 だいたい、俺、『マスダーさんに鑑定指して貰ってますよ~』って言って商売してたんだよ。

 その上で、『劣化する』て言っているって事は、『マスダーさんの鑑定は嘘だ~』って錬金術師ギルドが言っているのと同じよ。

 錬金術師ギルドがマスダーさん、ひいては冒険者ギルドにケンカ売ってるようなモノだよね?

 受付のおっさんまで知っていたって事は、冒険者ギルド内でそれなりに話題になっているって事のはず、多分、きっと。

 その上で、その対応で良いんかい?

 これが日本だったら、色々突っ込んでも良いんだろうけどさ、悲しいけどここ異世界なのよね。日本の常識は非常識なのよね……

 つまり、下手な事言ったら色々まずい事になる可能性大って事。くちチャックですね。災いは口からですよ、出るのも入るのも。

 結局クレーマー様御一行は「そう言う事なら良いわよ!」と怒鳴り気味に言うと、とっとと出て行きやがりました。謝罪なしです。そんなもんです。

 一応、俺も、口には出さないけど、じ────────っとマスダーさん&その後ろに居る冒険者ギルド職員さん方を見てから「お騒がせしました」と言ってその場を後にした。

 色々と色々とい・ろ・い・ろと言いたい事はある。クレーマー様方や冒険者ギルドの職員達についてもだが、何より錬金術師ギルドの奴らだ。

 嘘云々もだが、なんで仕事を取るかな────!!!

 錬金術師ギルドって言ったら会社みたいなモノだよね。しかも、この世界じゃ大企業にあたるよ。その大企業が個人営業店舗の仕事を取んじゃね────よ!!!

 元々錬金術師ギルドがそんな仕事をしていたのなら別だけどさ、やってなかったじゃん。俺確認したんだよ。錬金過程での着色はやってたけど、既存の品を『色づけ』するなんてやってなかったじゃん!

 錬金術は色々出来るんだから、色しか付けられない『ギフト:カラー』の仕事取んなよ────!! がっでむ!!

 以上、心の中の叫びでした。

 はぁ、でもどーしよう。

 あのクレーマー様方がそれなりに言いふらしてくれれば、ある程度は真実は広まると思う。

 でも、あの二人が言っていたように、信用度ほぼ無しの個人(若造)と信頼と実績(?)の錬金術ギルドでは大多数の者が錬金術師ギルドの方を信じるよな~。

 たとえ嘘でもさ。

 で、その上で、同じ仕事なら、これまた信頼と実績の錬金術師ギルドが選ばれる訳で…… はぁ~、ため息しか出ませんよ。

 俺の『ギフト:カラー』無双夢想が終わりました。完です。Finです。終劇です。


 仕事が無くなりました~。ニートです。

 事の真相が分かった後、その日と翌日、翌々日に出店してみたんだが、客無し……

 事情に関してはすでに流布されているようで、錬金術師ギルドの嘘に付いては周りの出店者達も知っていた。「困った話だね」って同情されたよ。

 と成れば、当然一般市民や冒険者達も知っている確率が高いはずなのだが…… お客様は来ないのですよ。

 まあ、新規クレーマー様が訪れないのはありがたいんだけどね。

 でも、ど~すべ?

 一応、多少の蓄えは出来た。残金は75000ダリ(75万円)近くはある。宿代1泊2食付きで200ダリだから、一日2食だけで済ませれば1年以上暮らす事は可能だったりする。

 困ったよな~。せめてさ、錬金術ギルドが武具関係に限定してくれてれば、衣類や生地の仕事が残っていたんだけどな~。

 あやつら根こそぎ持って行きやがりましたよ。ぜ~んぶ。

 個別で訪問して、生地を販売している店や問屋に掛け合うって手もあるんだろうけど、なんかさ、それもしばらくしたら錬金術ギルドに奪われる気がする訳よ。

 なんせ、組織力&経済力が違う訳。敵う気がしない。

 普通だったらさ、こんな弱小個人経営者なんか気にしないはずなんだけど、今回の『嘘騒動』がそれなりに広がっているとなれば、原因はともかく『面子が』とか言って徹底的にちょっかい掛けてくる気がするんだよね……

 杞憂だったら良いんだけどさ、否定できない自分がいたりなんかする。

 で、結局、どうすべ?って事だよ。

 一応、『色つけ』の仕事は出来ないと思った方が良さそうだ。

 と成れば、後は俺に何が出来るかって話。……何も無い。な~んも無い。

 技能無し、知己無し、知識無しと3無し状態だからな~。

 うーむ、出来るだけ避けたかった『冒険者』ってやつしか無いのか……

 アニメや小説みたいに、ホイホイと命を掛けるなんてイヤなんだよね。だから『野草採取』すらやりたくなかった。

 一応さ、普通の仕事についても色々聞いては見たのさ。

 でも基本この世界は『縁故採用』オンリーらしい。紹介者がいないと無理だって。

 まあ、治安が一定以下の世界じゃ、誰それの紹介という形の信用が無いとダメって言うのも分からなくは無い。

 時代劇の押し込み強盗じゃないけど、内部から手引きするヤツなんてのが入り込んだら事だしね。

 って事で、それは仕方ないとしても、それ以外の汚れ仕事やキツい系の仕事も無いんだよ。

 日本とかだとさ、土方や産業廃棄物処理系の仕事って経歴不問が多いじゃない。それにあたる仕事が無いかな~って思ったんだけど……無かった。

 何でじゃ~! って思ったら、そんな仕事は犯罪奴隷にやらせているらしい。

 この世界には、刑務所的な物は無いらしく、刑が確定したらその刑に準じた期間犯罪奴隷としてこれまた刑に準じた場所で強制労働させるらしい。

 まあ、刑務所とか作ったら維持費がむちゃくちゃ掛かるもんね。

 なんかさ、食い逃げレベルでも半年間の犯罪奴隷になるらしいよ。殺人は基本死ぬまでだって。

 近くで野菜を売ってたおばちゃんいわく、重い刑の者は鉱山で強制労働させられるケースが多くて、1年と経たず死ぬらしいよ……

 で、そんな犯罪奴隷だけならまだ良かったんだけど、普通の(?)奴隷もいやがりました。借金奴隷ですね。

 自分の借金の為に一定期間奴隷になるパターンと、親の借金のかたに子供が奴隷になるパターン。

 こちらも、最初の段階で奴隷の期間が定められて、その期間奴隷として働くらしい。

 で、この借金奴隷の皆々様方が、多くの職を奪ってくれてやがるのですよ。

 犯罪奴隷のようにかなりキツかったり死ぬ可能性の高い職場にはあまり付かないんだけど、ほどよくキツいお仕事に尽かされていやがる訳で…… 俺のような者の仕事が絶賛無い無いですよ。がっでむ。

 小説とか読んでてさ、良くスラムって有るじゃん。そんな設定読んでて『なんでそんなの有るの? 働きゃぁ良いじゃん。選ばなきゃ仕事有るっしょ?』っていつも思ってたんだよね~。

 ごめんなさい。こりゃあスラム出来ますわ。んで、スラムの者が食うに困って罪を犯して犯罪奴隷になって、んでまたスラムの者の職を奪うって言う悪循環だね。

 いや~、良く出来てますわ。……がっでむ!

 ま、この世界の場合はまだ『冒険者』って言う選択肢が残っているから、身体を壊した者以外は職残っているんだけどね。

 ……つまり、俺も『冒険者』しか残されていないって言う事になっちゃったりなんかする訳だ。なんてこった。

 ……弓買って練習しようかな。剣?持ってるよ。でも、接近戦なんて無理でしょ。死ぬよ。確実に死んじゃうよ。

 異世界転移して、即日モンスターを狩りに行くヤツがいるけど、アホだよね。馬鹿だよね。愚か者だよね。死ぬよ。絶対死ぬよ。

 俺は、頭は良くは無いけどお馬鹿では無いのだよ。つまり、絶対にそんな無謀な事はやらないのですよ。はい、絶対に。

 って事で、ある程度お金に余裕もあるし、弓矢や槍とかの練習をやろうかな。出来ればスキルが身に付けばラッキーなんだけど。

 あ、後、冒険者雇ってパワーレベリングって出来るのかな?

 ってか、レベルって普通にモンスターしばき倒せば上がるのか? 確認してなかったよ……

 よし、頑張って色々やるぞ。……明日から!!

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