レアって、ただ珍しいって意味です
ももも
プロローグ
(道真)① きっと死んだらしい
眼下に自分の遺体を眺めていた。
いや、見た目じゃ自分だって良く分からない。だって、原形を留めていないんだから。
そこは、街中のビル建設現場横の通路。そして、H鋼によって完膚なきまでに潰れた遺体だ。
ほわ~っとした感覚で、何故だかそれが自分の身体だったモノだと分かっている。
前後の状況も覚えていた。だが、悲しみや驚きは一切無い。どうやら、これが『死』というモノなのだろう。
理解は出来るが、思考はあまり出来ない。そんな状況がしばらく続くと、意識がどこかへ引かれる。
次に意識が出来た時には、何か大きな存在の前に居た。それは見えないのだが、遙かに上位の存在だと分かっていた。
その大いなる存在と、自分という矮小な存在の間に、3個の光の玉が現れる。
言葉も何も無いのだが、選択を指示されている事は分かってしまう。だから選んだ、真ん中の青い光の球を。
すると、その青い光の球は自分の中へと入ってきた。そして、溶け合い一つになる。
完全に一つになると、今まで意識体だった自分自身が物質化していくのが分かる。
細胞から赤ちゃんへ、そして幼児から子供へ。
その変化が10代半ばになった所で止まり、身体が一気に引かれた。
「坊主、どんな色でもって、まちげーねーんだろーな」
本日2人目のお客さんだ。いかにも冒険者って格好をした30代のムサイおっさん。
「ハイ大丈夫ですよ。そこに有る色見本の板を参考にしてください。もし、違う色が良かったら、その色のモノを持ってきてくれればその色にしますから」
一週間もやっていれば、慣れたモノだ。一息で一気に言う。
「色を付けて、魔法付与に影響とか出ねーだろうな」
これまた、何時もの質問だ。ま、冒険者としては大事な所だからしょ~が無いけど、こっちとしては、毎度毎度面倒だ。
一応、看板に書いて有るんだけどね。読みゃ~しねぇ・・・ ってか識字率が低いのよ、この国・・・いや世界か。
「付与には全く影響しません。それに、強度や切れ味とかも変わらないです。ホントに色が変わるだけです。やる前と後で、ギルドの鑑定持ちのマスダーさんに確認してもらいましたから」
「マスダーってあのチョビ髭のか?」
「ですです」
「なら、大丈夫か。・・・なら、このブロードソードを黒にしてくれ」
「毎度ありー。剣なんで、300ダリになります」
おおよそ日本円で3千円ほどだ。ま、物の価値がまちまちだからムチャクチャ大ざっぱな比較だけどね。
俺は、おっさんから抜き身のブロードーソードを受け取ると、木で作った台の上にのせる。そして、色見本の木片束から黒の木片を取り出し、それを見ながら意識を集中していく。
目前のブロードソードを頭の中に描き、その刀身を木片の黒で塗り替える。イメージとしては、PCのペイントソフトで木片から色をサンプリングして、その色で範囲指定して塗りつぶす感じだ。
イメージが完成すれば、後は『実行』だ。自分の中に有るスイッチを押す。ポチッとな。
次の瞬間、体内からMPが減る感覚と同時に、目前のブロードソードが青く光り、5秒程でその光が消えた後には漆黒に染まったブロードソードが有った。
「おおっ、あっと言う間じゃねーか。こりゃー表面だけじゃねーんだろうな」
「はい、研ぎを掛けても色は変わりませんよ。折っても断面までその色です。材質は変わりませんから、普通にサビますんで注意してください」
「そうか。・・・・・・黒剣・・・暗黒剣・・・・・・」
何か、いい年こいたおっさんが、厨二病に掛かった様なセリフをブツブツ言い出したよ、オイ。
ま、この世界は、名声や二つ名なんてのが、普通にありがたがられる世界だから、それで良いのかも知んないけどさ。
微妙にニヤついたおっさんは、将来自分に付くであろう二つ名を夢想しながら歩いて行った。まいど~。
さて、これまでの一週間の事を簡単に話そう。
俺の名は
でもさ、菅原道真ってろくな人生歩んでないよね。子供4人も流刑に成って自分も左遷地で死んで、あげくの果てに怨霊だよ。呪いまくりだよ。今でこそ学問の神様扱いされてるけど、絶対あやかって名前にするような人じゃ無いよね。
で、その甲斐有ってか、無事人生半ばにすら至らず死んじゃいましたよ。事故死です。工事現場のビルから落下したH鋼が直撃して即死です。痛みすら有りませんでしたよ。はい。
その後、何でか16歳の肉体で、異世界に転生しました。意味分かりません。気がついたら街の近くの路上に一人で立ってましたよ。ぽつねんと。
転生って、赤ちゃんの身体で生まれるんじゃ無いのかい? 普通そうだよね? ね!
しかも、上下フル皮製防具を身に纏い、腰には鉄製ショートソードが有りましたよ。で、更に、剣を下げるベルトにはポケットが4つ程有り、その中には鉄貨10枚、銅貨10枚、銀貨5枚、金貨1枚が入ってましたよ・・・
なんか、コレって、MMORPGのスタート時点の状況に似てね? しばらく、マジで『ゲームの世界に入っちまった』って可能性も検討しちゃったよ。
挙げ句の果てに、首にクレジットカードより一回り大きな金属っぽいカードが鎖で掛かっていて、それにこう書いてあった。
ミチザネ(16歳)
ギフト:カラー
レベル 1
体力 50
魔力 30
力 10
速さ 10
賢さ 10
運 10
・・・・・・色々突っ込みたい所が満載だったよ。
ゲームだよ、コレって、間違いなくゲームだよ、ね、ね! 半分は、そう思いたかったってのも有る。死んだ直後の意識体の時は感じなかった後悔をその時は感じていたから。だから、ゲーム=夢と思いたかったと言う事・・・
でも、現実だと言うのも、分かってた。風、臭い、土の感触、草の感触、剣で皮膚を軽く刺すと痛みと血が・・・ 5分と立たず、ため息と共に自分を納得させた。悲しいけど、これ、現実なのよね、と。
で、落ち着いた所で疑問、『ギフト:カラー』って何ぞや?
スマホの感覚で、その部分を押して見ると、一瞬で表示内容が変わり、
カラー:物質の色を変える事が出来る力。
変える範囲は任意で選択可。
範囲は魔力に依存する。
・・・そんだけかい! って言いたくなる程簡潔な説明だった。
つまり、戦闘用の技能では無いって事だね。間違っても、俺Tueeeなんて無理なのは分かった。
でも、生産職って言って良いのかも微妙だよね。だって、色を変えるだけだよ・・・
しかし、良く有るパターンで、レベルが上がっていけば、使える力に変わって行く・・・ってのはコノ手の話には良く有るパターンだ。
ミスリル
なんて、その時は思ってましたよ、はい、儚い希望でしたね・・・
ま、そんな妄想をしつつ、取りあえず街に向かって移動した訳だ。なんせ、ステータスや魔法らしき物が有る世界なら、当然モンスターなるモノが居ると考えるべきで、のほほ~んと郊外に突っ立っているべきじゃ無い事ぐらいは俺にも分かったのさ。
多くは無いがある程度はその手の(?)小説を読んだ事のある身としては、先ずは『冒険者協会(ギルド?)』だろうって事で、定番の『冒険者登録』なるモノする事にした。
で、街へ移動した訳だが、街入り口の門でお金を取られたり、身分証明を提示させられたりする事も無くすんなりと入れたよ。
王都以外は、基本物流が生命線なので、通常そんな事で税を取るような事はしないらしい。身分証明も、同様の理由で大きな事件や、いかにも怪しげな者以外には提示は求めないらしいよ。
そう言う事が分かったのは、最近になってだけどね。その時は、かなりおっかなびっくりで逆に挙動不審だったと思う。
この街は『
初めての街を、キョロキョロと挙動不審な態度で歩きつつ、言語と生活レベルを確認していた。なんせ、良く有る『翻訳』とか『○○語』なんてスキル持ってないから、言葉が通じなきゃ悲惨な生活が待ってるのは100%間違いない訳だ。
ゼロから覚えるなんて、過去の英語の成績を考えれば俺には無理だしね。
幸いな事に、周囲から聞こえてくる声は全て『日本語』だった。目だけ閉じてれば日本の下町に錯覚するかも知れない。それ位完全な日本語だったよ。
ってか、看板の文字も漢字と平仮名、カタカナまで有りやがる・・・コレで犬耳の獣人が見えなきゃ、どこぞの映画用セット村かよって思う所だった。
文明度は、その時点では良く分からなかった。ただ、貨幣経済で路上に糞尿がまき散らされていない事から、100年前の某半島よりは格段に文明的な所なのは分かった。
よく有る『中世ヨーロッパ』って、逆にどんなモノか知らないんで比較出来ない。
そして、恐る恐る、野菜を売っていたおばちゃん(推定50歳)に『冒険者協会』的なモノが有るか?と尋ねると、アッサリと「あるよ」と言って場所を教えてくれた。
『なんか買わなきゃ教えないよ』的な事も無くさらっと教えてくれたよ。人情紙風船じゃなくって良かった良かった。
冒険者協会の場所は、楕円形状の街の中心に近い所に有り、東西南の全ての門に均等になる位置として立てられたらしい。北は城主の城が有って門は無い。
おばちゃんに聞いたとおり、ドデカい剣と斧がクロスした看板と共に、同じくデカデカと『
それ以前に、いかにも!って格好をした野郎どもが、夜のコンビニ駐車場にたむろする不良よろしく
ヤンキー座りしている冒険者達を見ないようにして建物に入った俺は、受付で『冒険者登録』をしてもらったのだが、その際、衝撃の事実を知る事になった。
「カラー・・・ですか、初めて見るギフトですね。レアギフト・・・もしくはユニークギフトになるんでしょうか・・・」
受付をしてくれた受付のおっちゃん(30代半ば)は、珍しそうに俺のステータスカードを見ていた。
ちなみに、本人以外は
何はともあれ、レア! ユニーク! 素晴らしい響きでは無いですか!
「よろしかったら、ギフトの内容を教えて頂けませんか? ギルドとして記録したいのですが・・・」
受付のおっちゃんが、申し訳なさそうな感じて言ってきた。ギフトの説明=個人の強み・弱みな訳で、説明しないでも不思議ではないと言う事なのだろう。
ただ、俺的にはそんなモノは無いし、なんせ『色を変えられる』だけの事だし・・・ 別段隠す必要を感じなかった。
実際は、説明する事で、武力的な力を持たない事を教える事になり、不利益を被る可能性があったので教えるべきでは無かったのだが、平和ボケ日本出身者をなめるなよぉ。
「はぁ、良いですよ。物質の色を変える事が出来る。変える範囲は任意で選択可。範囲は魔力に依存する。・・・以上です」
「・・・色を変えられるですか・・・ 錬金術の能力で似たような力があった気がしますが・・・」
おおっ! 錬金術! やっぱ有るんかい! 等価交換ってヤツですか? たーる!ってヤツですか?
「あのですよ、このギフトって、成長したら機能が拡張されちゃったりなんかするんでしょうか?」
「はあ? スキルはともかく、ギフトはそのままですよ。説明文に書いて有るモノが全てです」
勢い込んで聞いた俺に、おっちゃんは怪訝な顔で全否定してくれました・・・
どうやら、おれの能力は『色を変えられるだけ』らしい。ただそれだけらしい・・・・・・
異世界転生して、それは無いだろ~~~!!!
そんな叫びを心の中で上げた瞬間でしたよ、はい。一時間ほど前の想像が、ただの妄想になった訳ですよ。夢も希望も無い現実ってヤツ・・・
ってな感じで、その時の俺はかなり混乱していて、ゆっくり考える場と時間が欲しかった。だから、おっちゃんに宿屋の事を尋ね、その宿屋へと昼間っからでは有るが宿泊した。
その宿屋は、
2食込みで200ダリ。部屋はベッドと小さな棚があるだけの部屋。テレビで見た刑務所の独居房より狭い。
ちなみに、お金の価値はおおよそ以下の通り。
鉄 1(10円)
銅 10(100円)
大銅 100(千円)
銀 1,000(1万円)
金 10,000(10万円)
大金 100,000(100万円)
白金 1,000,000 (1千万円)
大白金10,000,000 (1億円)
なぜか持ってた所持金が、『鉄貨10枚、銅貨10枚、銀貨5枚、金貨1枚』だったので、15,110ダリと言う事になる。適当変換で日本円に直すと、約15万程。
実際は、もう少し高い感じだけど、計算がめんどいので単純に0を足して考えるようにしている。
最初、この貨幣の事を聞いた時、なんで『大銀貨が無いんじゃー!』と思ったんだけど、単純に金と銀の貨幣価値の関係だったらしい。ま、大鉄貨も無いしね。
この貨幣は、この国だけで無く、周辺6国共通貨幣となっているそ~な。ヨーロッパのユーロみたいなものかも知れない。
部屋に入ると、とりあえずベッドに腰掛け、ぼけら~っと脱力する。
現状を再度思い起こしつつ、ため息をついたり、残してきたPCデータの事を考えベッドの上をゴロゴロと転がってのたうち回ったりなんかして過ごす。
でも、ま、考えても無駄な事だし、PC内の某フォルダーの動画データ等に付いては、前世の恥は掻き捨てって事で無理矢理納得させました…… ブラウザーの履歴とか絶対見るなよ!!!
んな訳で、先ずはこの後ど~すべ? って考えた訳よ。
ゲームよろしく、フィールドに出てモンスターガシガシ殺しまくって素材ガッポガッポの、売却してお金ガッポガッポなんて無理。
だって、これ現実だもん。死んだら多分ホントに死んじゃう。噴水前広場でデスペナ受けて復活なんてま~ず無い。
ましてや、『ギフト:カラー』だよ。色変えるだけだよ。こんなんで、ど~戦えと?
剣? 確かに持ってるけど、試しに振ってみたら危うく足を切るところでした… しかも重さに負けて体が前に持って行かれたよ。
結論。無理。む~り~!!!!!
となれば、薬草採取? 生産? 知識チート?
知識チートは無理。だって、なんか役立ちそうな知識なんて持ってない。某ダッシュな番組を見ていた位の知識しか無いから、なんか自分だけで作ろうとしても出来る気がしない。
薬草採取…… ゲームみたいに街の近くで安全にとれる? もしそうなら、需要と供給を考えれば金になる気がしない。でも、命の危険が少ないなら、ギルドで確認だけはしておこうかな。うん、明日聞いてみよう。
で、薬草採取がダメだったら…… 『ギフト:カラー』でなんとか出来るんか?
染色? ペンキ塗り? 染髪? ……金になるんだろうか?
ま、取りあえず試してみますか、ってんで、やってみた。
取りい出しましたるは『鉄製ショートソード』。抜けば玉散る氷の刃……じゃないか、ただの汎用品。ひょっとしたら鍛造品ですら無いかもしんない。
それを右手に持ち、試行錯誤する事4分。はい、思ったより簡単に実行できちゃいましたよ。自分でもびっくり。
頭の中に、ステータスプレートを描き、その中の『ギフト:カラー』の部分を頭に描くと、何となく使い方が分かってしまった。
その、『何となくガイド』に従って目前の剣身を頭の中に描き、真っ赤な色で設定して意識の中のボタンをポチッと。
それだけで刀身の色があっけなく変わってくれた。MPの消費は5。
その時点で、色が変わったのは表面だけでは無く剣身部分の材質そのものが着色された事が『何となくガイド』によって分かった。
この体積でMP5…… 微妙だな~。
その後、MP1回復するのに1分ほど掛かる事も分かった。そして、『元に戻す』という事は不可能で、同様の色で再度着色するしか無いようだ。
だだ、着色の回数制限は無いようなので、その点は安心。失敗してもやり直しが利く。
てな感じで、2時間近くあ~でも無いこ~でも無いと色々試した結果、大きすぎない物ならやってけるかな?と言う結論に達した。
とは言え、これで商売できるのか、どこで商売して良いのか、などと言った事を全く知らない訳で、そこん所明日にでもギルドで聞いてみんべぇって事にした。
根本的に、ギルドがそんな質問に答えてくれるかどうか自体分かんないんだが、ダメ元ってヤツだ。
んで、結果から言うと、結構親切に教えてくれた。
しかも、着色によって対象品の性能が劣化しないか、マジックアイテムに影響が出ないかまで確認してくれたよ。有料だけどね。しめて1,500ダリなり。
値段がそれなりにしたのは、確認用に使用した格安マジックアイテムで有る『炸裂弾(小)』が800ダリしたからだ。
その代わり、ギルド鑑定士のマスダーさんより『品質変化なし』のお墨付きを頂いた訳さ。
もちろん、マイナス変化どころかプラスの変化も無かった。つまり、赤にしても炎属性が付くなんて事は無いって事だ。
ホントに色が変わるだけ……
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