24話 出揃いました

「よーし、これで大体の担当と動きが定着したな。取り合えず、一度まとめてみたから皆で確認して行くぞ。紙を回してくれ」

姉御のアパート御一行がオタマ村の温泉に引っ越して来てから、一カ月ちょっと過ぎました。仲間が増えたり、大福ねずみが告白されたり、姉御の目が見えなくなったりと、大分波乱続きでしたが、何とか開業にこぎ着けました。

 仕事と担当者が書かれた紙を、姉御が全員に回します。

 

 フロント・警備 りょうちゃん

 喫茶・バー   バーママ

 料理      姉御

 姉御補佐    ヒコナ

 風呂掃除    たぬき三兄弟

 売店      座敷グレイ

 医務      薬師様

 掃除(埃)   ケサランパサラン

 庭管理・伝令  Cマーブルズ

 タケミ相談室  礼一・ブチ黒・ブチ白

 大工・建物管理 カエルのお頭

 補佐・雑用   クマズ

 悪夢・娯楽   獏巾着

 支配・金    大福ねずみ

 鬼・格闘    姉御

 フリー     Cリーダー


「それぞれの中心的責任者はざっとこんなもんだが、各自、自分の手が空いている時には他の仕事にも回ってくれ。補佐が欲しい者は、クマを確保しとけよ。後は、やりながらおいおい決めて行こう。何か質問は?」

姉御の言葉に、皆が頷いて見せました。もはや、おかしな項目につっこむ者などいませんでした。

「あっ、僕、聞きたいことがあるよ」

座敷グレイが手を挙げます。

「おぅ、何だ?」

姉御が促すと、座敷グレイは立ち上がって咳ばらいをしました。


「えーと……大福君は、かずきちゃんに告白の返事はしたのかな?」

もったいぶった割に、場違いで下らない質問が飛び出しました。

 姉御が、眉間に皺を寄せて黙ります。

「そうねぇー、気になるわよねー」

りょうちゃんも、下衆な質問に同調しました。

「ちょっとちょっと、こんな大勢の前で、デリカシーが無いわよ。で、どうなの?」

少しはまともなことを言いかけたバーママまで、遠慮のないおばちゃんのように尋ねます。

「おいおい……もしかして、皆知っておるのか?」

カイザーたぬきの言葉に、当たり前のように皆が頷きました。姉御の悩みに付き合わされっぱなしだったカイザーたぬきは、茫然としてから渋い表情で大福ねずみを睨みました。


「ブチ白が、言いまくってた」

クマのどれかが、さも納得出来る理由をリークました。

 姉御と礼一が、渋い顔を作ります。明らかに、口の軽い家来への口止めを忘れた礼一のミスです。皆の視線を受けたブチ白は、得意顔でおかしなポーズを取っています。猫の限界を考慮すると、どうやら腕を突き出して親指を立てているようでした。

「お前の迷いの無い所業は……もはやカッコ良さすら感じさせるよ」

姉御の言葉に、ブチ白はニッと歯をむいて笑いました。悪気は無いからと、ブチ白を庇うモノはいません。既に、悪気全開でやりたいようにやっている生き物だと、皆に認知されているのでしょう。


「で、大福君、どうなの?」

うまいこと話が逸れそうでしたが、それを許さないというように、座敷グレイが駄目押しして訪ねます。

「え? オイラが何だって~?」

大福ねずみが、姉御の肩の上で首を傾げました。

「だから、かずきちゃんに愛の告白されて、どう返事したのかって聞いてるんだよ」

下衆な質問をくじけずに繰り出し続ける座敷グレイも、ブチ白に負けず劣らずなかなかのものです。

「え? 愛? 告は……っ! あ~あれね、そうそう、告白ね~、そうね~」

大福ねずみの歯切れの悪いアンサーを聞いて、姉御の顔が曇りました。深い付き合いなので、大福ねずみが照れてとぼけているのでは無いことが解ります。


「お前……忘れてたのか……」

礼一とブチ白が、堪えきれずに吹き出しましたが、近くにいたりょうちゃんにそれぞれ頭を叩かれました。

「笑っちゃ不謹慎よー。でも、すっかり忘れていたなんてね。驚きというより、感心しちゃうわー」

りょうちゃんの言動も、吹き出した輩と対して変わりがありませんでした。

「だってさ~、普通、ねずみに告白する~? どう考えても変だよね~。まともに取り合う気になれない~」

大福ねずみの発言が、一番下衆でした。


「中身が人間だ、それが好きだとか何とか言っていたのでしょ?」

礼一の質問に、下衆いねずみは、ふんっと鼻を鳴らしてから口を開きます。

「中身なんか、簡単に見せるかよ。付き合い浅いし、幻想か妄想だろ! 問題だよ~あの子。きっと、口の上手い悪い男に騙されるタイプだよね~」

口の上手い悪い雄ねずみの言葉に、最初に質問を繰り出した座敷グレイですら口を噤みました。

「特別どうも思ってないし~。あの子はオイラを、ねずみだと思ってるよ。ねずみとの切ない恋にでも酔ってんだろ。そういうのはいらないし、理解できないな~」

大福ねずみの持論に、皆それぞれ思案するようなしぐさを見せました。妙に納得出来る部分もあったようで、大福ねずみを非難する者はありませんでした。

「……かっこいいな」

 クマのどれかが呟きました。


「まてまてまて。この流れは良くないぞ。忘れてたのは、良くないことなんだから! かずきが馬鹿な変人だとしても、本人は至って真面目に思い詰めているかもしれないだろ。馬鹿な変人だからこそ、冷静に自己分析なんか出来ないだろうからな」

至って真面目にフォローを入れた姉御の言葉が、一番かずきを侮辱していました。

「まぁ、何じゃ……結局、大福はかずきをどうも思っておらんから、告白も真面目に取り合っていないし、付き合うつもりも無いということじゃな。これ以上は、かずきも不憫な感じになるから、お終いということでどうじゃろうか」

カイザーたぬきが、年長者らしくかずきにも配慮を見せながらまとめました。

「そうね~」

大福ねずみが後ろ足で耳の辺りを掻きながら答えると、他の面々も同意するように黙り込みました。

 カイザーたぬきが姉御に視線をやると、それを感じた姉御も頷いて見せました。カイザーたぬきは、ほぼ姉御が原因になっていたここ数日の厄介事が解消されて、さっぱりした気持で肩の力を抜いたのでした。


「俺も、告白、された、一昨年、かずきに」

猫です。猫の発言です。まさかのブチ白が、突然カミングアウトしました。それを聞いた一同は、耳を疑い、凍り付きました。


「マジで~?」

「まじ」

大福ねずみとブチ白のやり取りを聞いた面々は、渋い顔になりました。主人である礼一も初耳だったようで、嫌そうな顔をしながら、ブチ白を見つめています。

「それで……お前は、何と返事をしたのです?」

礼一は、一応主人として聞いておこうと決めたようで、渋々家来のブチ白に尋ねたのでした。


「馬鹿にゃの? って言った」

ブチ白はそう言って、下らなそうに後ろ足で耳の辺りをカシカシ掻きました。


「……そう言ったら、かずきは何と答えたのです?」

礼一は、ドライな家来に懲りずに、再び質問を繰り出しました。


「諦めません、言ってた、うざっって返したにゃ」

 何食わぬ顔で、超モテ男のような鬼発言の連発を説明したブチ白に、皆ちょっと尊敬の眼差しを向けています。


「ちょっと待て! かずきちゃんは、白と黒のふわふわが好きなだけじゃね~?」

大福ねずみが叫ぶと、姉御が首を振りました。

「いや、白黒ふわふわで、自分勝手で性格が悪い毒舌野郎が好きなんだろ」

強く頷く全員を見て、大福ねずみは、ぺっと唾を吐きました。

「付け加えると、かずきちゃんは、困難な恋に燃えるタイプなのよ」

春子たぬきが、どうでもいい情報を追加しました。

「何だよ、ほんとに下らん。心配して損した」

姉御の言葉を聞いて、やさぐれていた大福ねずみが顔を上げました。


「え? 姉御は、オイラが告白されたのを知ってて、それを心配してたの~? もしかして、様子が変だったのも――」

「あ~~、聞こえない、見えない、うるせーうるせー、みんな仕事しろ――!」

取り乱した姉御が、クマズを掴んでは投げまくったので、現場は大混乱に陥りましたが、大福ねずみだけは満足げに笑っていました。


 後に、かずきの告白にお断りの返事をした大福ねずみは、諦めませんと返されて、心からため息を吐いたのでした。

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