PPP会議

椿ツバサ

PPP会議

「なぁ、プリンス。ちょっと気になることがあるんだけどいいか?」

 PPPの次のライブのため、日夜練習に励む中、イワビーが休憩中のプリンセスに話しかける。手元には大空ドリーマーの歌詞カードをもっている。

「なに?どうしたの?」

「前から気になっていたんだけどさ、この部分さ『恋におぼれちゃうの』とか『いつも私だけを愛して』とかの、恋とか愛とかって、どういう意味なんだ?」

 2番のサビ部分を指しながら尋ねるイワビー。その返答には一瞬以上の間が開かれる。寒いのが得意なペンギンたちだがこの瞬間に訪れた冷たさは鳥肌が立ってしまう。元々鳥肌で、すべすべのものになって、また鳥肌になってしまった。

「そうね、気にしたことがなかったわ」

「そもそもこれって、誰が作ったんだよ」

「さぁ?博士からもらったものだし」

「大空ドリーマーですか!それは初代PPPのメンバーが全員で考えたらしいですよ!」

 どこから聞いていたのか、ひょこりとPPPの専属マネージャーたるマーゲイが顔を出す。

「そうなの?」

「はい。初代メンバーの皆さんが『ここはこのようにしてはどうだろうか?』とか『こういう気持ちもあるよねー』とか『これはこうだろ』とか『この歌詞はこうしてみたらいかがでしょうか?』といった形で作ったらしいです」

 お得意の声まねをしながらそのときの様子を再現もうそうする。マーゲイも初代たちの世代には産まれていなかったので想像するしかない。

「なになにー。なんのはなしー」

「フルルって、あなた、また休憩時間中に」

「おなかすいたからー」

 手元にはジャパリマンをもっており、口に運んでいる。それでもきちんと動けるのだからあまり文句も言えない。

「何の話してるのー?」

「こっちの話ききなさいよ……」

「いやな、歌詞の意味とか考えてたんだよ。どういうことなのかって」

「あー、それなら私もわからないところがある―。このおしくらまんじゅうって、なんではいってるのかなーって?」

「えっ?フルルもフレンズになる前、仲間たちとやってたでしょ?」

「やってないよ?」

「あぁ、それはですね。フンボルトペンギンさんは他の皆さんと異なり暖かい場所に住んでいたからですよ。プリンセスさんたちは、寒いところにすんでいたからそこら辺の違いだと思います」

「マーゲイってそこら辺も詳しいんだな!」

「ファン……あー、マネージャーですので!」

 キラリと眼鏡を輝かせる。ファンというものはその動物の性質にまで精通している必要性があるのかはわからないが、マネージャーならばアイドルの子たちのポテンシャルを最大限にいじするために動物としての性質を生かすのは大切なことだ。それをパフォーマンスに組み込むことも可能だ。

「へー、わざわざ寒いところにいるんだ。もしかして、コウテイだけじゃなくて、みんなもマゾなのー?」

「違うわよ!」

「だからなんでフルルはそういったことだけ詳しいんだよ!」

 フルルの爆弾発言にその勢いのままツッコミをいれる。なお、ちゃっかりとコウテイは確定でマゾとされているがそのあたりの訂正はしていない。

「私の名前を呼んだか?」

「皆さんどうされたんですか?」

 そのツッコミを聞きつけてか、コウテイとジェーンの2人もよってくる。あれだけ騒げば当然であろう。

「えっと、フルルが……、って本題はそこじゃなくて、イワビーが聞いてきたのよ。ここら辺の歌詞の意味は一体なになのかって」

「どれ?」

「どこですか?」

 歌詞をのぞき込むと同時に2人とも、あぁという表情をする。

「この前私もジェーンとこの話していたんだ」

「はい。コウテイさんと大空ドリーマーの歌詞って不思議だよねという話をしていました」

「2人とも気にしていたんだなっ」

「あぁ。やはり自分のうたう歌だからな。歌詞の意味も、きちんと理解しておいた方がいいと思うし。大切じゃないかと思ってね」

「最初の頃は歌を覚えたりとか、ダンスを覚えたりとかで大変だったけど、最近になってようやく余裕も出てきましたしね」

「みんな、きちんと考えてたんだ……。私気にしたことがなかった」

 そして1人落ち込むプリンセス。

「ぷ、プリンセスはいつも私たちの事を見守ってくれてたし、マーゲイがくる前まではイベントの調整とかもして忙しかったから仕方ないよ。それに、本当のことを言うと、リーダーである私がやらなくちゃいけないことなんだし」

「うぅ」

「くぅ」

「お、お二人ともとても頑張ってくれてますよ!ね、イワビーさん」

「おう、そうだ。二人とも頑張ってくれてるからな!」

 落ち込む二人を慌ててジェーンとイワビーが励ます。トップ2人はなんだかんだでよく似ているところがあるようだ。

 一方フルルはというとジャパリマンを全て食べ終えてマーゲイにも進めていた。マーゲイは断りながら話を本筋に戻す。

「そ、それで歌詞の意味でしたよね」

「そ、そうだったな。私も恋におぼれるとか、そこら辺の意味が理解できなかったんだ。我々は泳ぎがうまい方だと自負をしているしな」

 それはフレンズ化した今になっても同じ事である。泳ぎがうまいペンギンがどうしておぼれてしまうのか。もしかしたら初代PPPは泳ぎが下手だったのかと、少し勘ぐってしまう。

「そこで色々考えてたらジェーンが教えてくれたんだ」

「恋や愛というのは誰かを思う気持ちのことです。その二つの違いを説明してといわれたら難しいですが……、誰かのことを考えて胸が苦しくなったり、つらくなったりすることを現わすそうです」

「そうなんだ。それで苦しくておぼれるって言うんだ」

「はい」

 本当にただそれだけのことをなのかと言われれば怪しい部分がある。しかし、これが彼女たちの出した答えであり、決して間違いではない。

「それでは私がPPPのことを思う、この気持ちも恋や愛なんですね」

「それは……どうかわかりませんが」

 きらきらと輝く瞳を困ったように受け流す。これは恋というにはいささか重すぎるようだ。

「それにしても、ジェーンはよく知っていたわね」

「本当だな!」

「知ってるー。そういうの、ムッツリって言うんでしょー?」

「だからなんでおまえはそういうことばっかり知ってるんだ!」

「「「「「「あはははは」」」」」」

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PPP会議 椿ツバサ @DarkLivi

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