仮面面接会場はこちらへどうぞ

ちびまるフォイ

なにも見えてない面接会場

面接会場の入り口につくと、仮面が用意してあった。


「弊社に応募希望の人は仮面を必ずつけてください」


「え、なんでこんなのつけるんですか?」


「弊社は清らかで誠実な人材を求めています。

 人を見た目や、態度や、服装で判断したくないんです」


「なるほど!」


なんていい会社なんだろう。

私はますますこの会社になんとしても入りたい。

きっと本当に人の心を重要視しているんだろう。


「では、応募者の人は部屋へどうぞ」


形式はグループ面接形式。

数人のまとまった人数が面接会場の大きな部屋に通される。


「失礼します」


面接官と私たち希望者の間には大きな幕が覆われている。

こちらから面接官を見ることはできないし、向こうからも見えない。


(すごい。仮面だけじゃなく姿も見えないんだ)


太っているから、痩せているかで判断されることもない。

やっぱり私はこの会社に入りたい。


「では、最初の人から自己PRをどうぞ」


「は、はい!!」


トップバッターはなんと私。

返事をした声がボイスチェンジャーで変わっていることに驚いた。


「あ、あれ!? すみません、声が……」


「あははは。気にしなくて大丈夫ですよ、みんな同じです。

 我々は受験生の心を見たいので見た目や体型や声では判断しません」


どれだけこの会社に入りたいという"心"を見せる場なんだ。

私はそれをはっきり自覚すると、必死に自分の言葉で訴えた。


「わ、私はこの会社のことが好きです!

 こちらで販売されている製品も好きですが、

 人の気持ちをなにより優先する社風に惹かれて応募しましたっ」


我ながらよかった方だと思う。

仮面や体型や声が隠されているからこそ本音が伝えられた。

私はしずかな手ごたえを感じていた。


「ありがとうございます。では次の方」


「はい、私は名門のT京大学の出身で理工学経済部に所属しておりました。

 かねてよりこの国の問題点である水の枯渇と資産の分配について

 株式経済的な面での働きかけができると思い、御社に志望いたしました」


「え、え、え」


私は目が点になった。

言っていることの半分以上がわからない。


「では君は弊社になにをもたらしてくれるかね?」


興味を持ったのか面接官からは質問が飛ぶ。


「私は大学時代に培った心理学と論理学の併用により、

 御社の顧客単価への形而上学的な向上を行うことを約束します」


「なるほど、素晴らしいですね」


私は頭がまっしろになった。

こんなにもすごい人がいるなんて……。


「では次の方」


「私は先日までロスのホーバード大学におりました。

 そこで学んだアクティブインピーダンスのエビデンスの

 イニシニアチブすることに関心があり御社を希望しました」


「あわわわわ……」


私はますます追い詰められた。

いくら中身の勝負だといってもこれじゃ私の完全落選だ。


「では君はどういったスキームを考えてますか?」


「私はアウトソーシングになりがちなアライアンスを直し

 OJTの充実と社員のオポチュニティマネジメント能力を養います」


「すばらしいですね、わかりました」


私はいますぐ帰りたい。

こんなにも優れた人が応募する会社だとは思わなかった。

私は竹やりで戦場に向かっていたんだ。


その後も、応募者たちはそれぞれの知識や能力を伝えた。

どれもが最初に発言した私よりも優れていたことは誰よりもわかっていた。


ひととおり面接が終了すると全員に封筒が渡された。


「そこには今日の合格者が書かれています。

 ほかの合格者も載っているので落ちた人も次の糧にしてください」


「はい……」


見るまでもなかった。

私は面接会場を去って、誰もいないエレベーターの中で開いた。




【合格】




「はぁああ!?」


エレベーターを緊急停止して面接会場に舞い戻った。

焦りのあまり息が乱れている。


「あ、あの!! どうして私だけ合格なんですか!?

 ほかの応募者はみんなあんなに優れていたのに納得できません!!」


「うちの会社は誠実な人を雇うと言っただろう?」


「だから、私のどこが誠実なんですか!? ほかの人だって完璧でした!」


私の質問に面接官は答えた。




「替え玉受験しなかったのは君だけだったんだ」

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