ようこそ!鳥の会へ!

ノルウェー産サバ

12(+1)人のフレンズ

 ジャパリパークを眼下に見下ろす「こうげんちほー」、その頂で密かに営業を続ける「ジャパリカフェ」にて小さな会合が人目を忍んで行われていた。店主の計らいにて本日はこの秘密の会合”鳥の会”の貸切である。


「カーテンは閉めた?」


 そう言いながら”鳥の会”会長が店内を見回す。これは”鳥の会”開幕の合図のようなもので、実際にカーテンが開いているのかどうかを気にしているわけではない。”鳥の会”もすでに開催すること7回を数える。すると会長すら気づかぬ間に、遥か昔からそうであったように、これが始まりの挨拶になってしまっていたのだ。


「えっ、あ、はい。みんな閉めてありますよ」今回が初の参加であるは律儀に答えた。「いやーそれにしてもいい部屋ですねぇ。今までこんなお店を見逃していたなんて、まったく失念してました。ああ、この木の壁! なぜだか無性につつきたくなってくるような……」


 副会長が「つついちゃダメよ……」とつぶやいたが、隣の席の無遠慮でより大きな声のせいで、ほとんどのフレンズには聞き取れなかった。


「いいから早く始めるのです。みんなもうずっとテーブルについて待っているのです」

 ぐるりと見回すと色とりどりの鳥のフレンズが、小さいテーブルの周りに押し合いへし合いして会長と小柄な発言者の方を向いていた。正確に言うと、テーブル周りの椅子が足りなかったので立ったままのフレンズや、カウンター席に並んで座っている5人組のフレンズもいた。


「今日はもう新入りの挨拶も済ませたことだし、特にやることもないのではないですか?」同じく小柄なフレンズが先の発言に同調する調子で言った。「第8回”鳥の会”ともなると議題が尽きてきたのです。ここの美味しい紅茶が飲めるから我々は足を運んでいるようなものなのです」


「えへへー、そんなに褒められたら照れちゃうなぁ〜」

 店主はカウンターの奥でニコニコしながら、嬉しそうに全員分のお茶を用意している。


「そうだそうだ! ここのお茶はうまいんだ!……じゃなくて、議題がないのか? それだったら今日はPPPの新演出について意見を出し合おうぜ!」

 カウンター席から急に元気な声が飛んできた。ペンギンその1である。


「あなた急に声を出すわね……まぁでも珍しいじゃない! あなたから演出についての話がでるなんて」

 ペンギンその2が驚いたような声をあげると、ペンギンその1は褒められて照れ臭そうにしていた。


「うんうん、PPPの今後について広く意見を募るのはいいことだ。それにしてもペンギンも鳥類の仲間とはいえ、果たして”鳥”と言い切ってしまっていいものだろうか……この高原に来るにも会長達に運んでもらったり、変な乗り物を漕いだりしたし……飛べない鳥とはいったい……」

「ああっ、コウテイが考えすぎてまた失神している!」

 自問自答の最中になぜか気を失ったペンギンその3をペンギンその4が少しだけ心配そうにしていた。その隣でペンギンその5は素知らぬ様子でじゃぱりまんを次から次に食べている。


 その様子を眺めながら「わぁ、PPPはやっぱり華があっていいなぁ。私もあんな風になりたいな」と思っているフレンズもいたが、彼女の羽は拡げるとこのジャパリパークの何にも増して美しく見えるのだから、”鳥の会”一同がPPPに対する彼女の密かな憧れを知ったらきっと笑ってしまっただろう。”隣のフレンズは綺麗に見える”というフレンズらしい心情なのである。


「あ、あのー……」

 おずおずと手を挙げて目つきの鋭いフレンズが呼びかけた。

「今日は鳥のフレンズの新しい勧誘方法について話し合うって聞いてきたんだけど……」


「うん、そうそう!」副会長が食い気味にいった。「それこそが今日のテーマなのよ! 鳥のフレンズはまだたくさんいるのになかなかメンバーが増えないんだから……あなたいいこと言うわね、さっきからずっと怒っているのかと思ってたのに」

 すると「怒ってないよー」という返事がすぐにかえってきた。しかし、これもまた幾度となく繰り返された”お決まり”であり、他愛のないいつものやりとりなのだ。


 会長は先ほどからずっと黙って店内の賑やかでとめどない会話を微笑みながら聞いていた。めぐりめぐって議題がようやく予定のものに戻ろうとしたそのとき、脈絡なく突然、なんでもない気楽な感じで口を開いた。

「ふふふ、楽しいわね。一曲歌いたい気分よ。……え? ダメ? ふふ、テーマなんていいじゃない。大事なのはこの秘密結社”鳥の会”が「秘密」で「結社」な「鳥」の会であることなのよ。まぁ難しいことはよくわからないけど、とにかくこうやってジャパリカフェにいろんな「ちほー」のフレンズが集まって楽しめたらそれでいいと思うの」

 会長がにっこりしながらそう言うと、”会”の一同も自然と笑顔になるのだった。


「よっしゃー! それなら今度のライブの会場の案を出そうぜ!……」

「うちのロッジで次回の”鳥の会”をやりませんか……」

「皆で料理を作るのです……」

「誰かじゃぱりまん持ってない?」

 

 …………


 鳥の会の”議題”は尽きることなく、そしてとくに明確な結論を打ち出すこともなく、持ち上がっては次から次の”議題”へと移っていった。


「そういえばなんで”秘密”の会なの?」と入会するフレンズは必ず問う。その都度会長はただ一言「だってその方が楽しそうでしょ?」というだけでそれ以上何も答えようとはしなかった。

 

 けれども……


「たしかに……たのしそう!」


 賑やかに、そしてなお賑やかに、今日も”鳥の会”は開催されている。



◆おしまい

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