カエルがいた教室
城多 迫
カエルがいた教室
「明日の秘薬調合Aの授業ですが、入学時に買っておいてもらったカエルを材料に使うので、忘れずに持ってきてくださーい!」
担任の魔女による快活な指示とは裏腹に、わたしの心は一瞬で泥沼に沈みきった。
教科書と一緒に買ったカエルを、薬の材料に用いるなどとは知らなかったからだ。わたしはカエルを使い魔的なヤツにするものと思い込んで、「ぴょんぴょん」と名前を付けて可愛がってしまっていた。
ぴょんぴょんが家に来てから、2週間が経った。たったの2週間と思う人もいるかもしれないが、わたしとぴょんぴょんが友情を育むには十分な期間だった。
わたしだって最初は、カエルきもっ、とか考えていた。でも、あんまり動かない様子とか時々ぴょんと跳ねる様子とかどこを見ているかわからない様子が無性に可愛く思えてきて、出会って3日目にはぴょんぴょんと名付けていた。
○
その日の帰り道、わたしはクラスメイトのカナをチェーンのカフェに誘って、相談に乗ってもらうことにした。
「だから、明日はぴょんぴょんを忘れちゃったことにする」
「女子高生がガチでカエルを可愛がるなよ」
カナは、わたしの作戦を聞いて失笑した。
「女子高生っていうか……魔女の卵でしょ、うちら。魔女ならカエル可愛がっても変じゃないよ」
わたしは少しムッとなって反論した。
「いや、世間的にはただの女子高生だよ。明日の秘薬調合だってフツーに化学の単位にカウントされるし。卒業したらちゃんと高卒扱いになる」
カナと知り合って3週間ほどだが、カナのことは結構分かってきた。カナは、良く言えばクールで、こうやって現実に即した答えを返してくれる。悪く言えば、温度の低い天然だ。
「そういう話じゃなくて」
「まあ、カエル忘れたら後日補習になるだけだから、どうせぴょんぴょんは材料にしなきゃいけなくなるよ」
「え~~、じゃあ今から代わりのカエルを買いに行く」
「そしたら、そのカエルが可哀想になるよ」
カナの言うことはもっともだ。わたしは、すでにカエルグッズを購入し始めるくらいにはカエルという存在自体を愛でている。
わたしはふと、昔観た映画のことを思い出した。
「なんか……あれだね。小学生が教室で豚飼い始めて、最後に食べるかどうか皆で決めるみたいな映画なかったっけ……」
「邦画?」
「そう」
「妻夫木出てた?」
「そう、たしか。いまの状況、あれの感じじゃない?」
「全然」
○
結論から言うと、わたしはぴょんぴょんを秘薬の材料にした。
カエルとの別れを惜しんで泣いてしまった生徒は、わたしが初めてらしい。他のクラスメイト達はカエルを買った時からその用途を知っていたようで、一方わたしはハリポタでいうマグルの出身だからその辺は疎かったのだ。
「では、いま作ってもらった薬を実際に飲んでみましょう!個人差はありますが、およそ24時間身体能力が劇的に向上します」
生徒たちは自身が作ったドロドロの液体を飲んで、中庭に出た。それぞれが思い思いの運動を始める。
「カナ、ちょっと測ってもらえる?」
わたしは石を握力だけで粉々にしていたカナにストップウォッチを渡した。
「ぴょんぴょんの犠牲で得たこの力を、何らかの記録に残しておきたくて」
「大げさ」
「たぶん、あそこの木からここまで50メートルくらいかな……あそこから走ってくるからタイム測って」
わたしは50メートルを全力で走り抜けた。ぴょんぴょんが自分の一部になったのを感じながら、腕も足も目一杯動かした。
「5秒84!」
後で調べたところによると、女子世界記録を上回っていた。
○
その後、本当にカエルを使い魔にして、カエルと会話するという授業があった。
わたしはぴょんぴょんのことを思い出して泣いてしまったのだが、使い魔にしたカエルに「そんなにカエルのこと想ってくれて、ありがとう」と励まされた。
ちなみに、そのカエルは自ら「
カエルがいた教室 城多 迫 @shirotasemaru
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