第三話 一緒に行ってと言われても
「ヒック、ヒック……お願い……来てぇ……」
涙ながらに懇願するフラン。
聞きようによっては誤解されそうだが、俺は動じない。
「残念だが泣き落としは効かぬわ。俺のストライクゾーンはもう少し年下だ」
「変態! ロリコン!」
「なにおう!」
お互いに睨み合う。敢えて否定はしない。する気もない。
「どうしても行かないって言うの!?」
「行ってられっか! どうせ危険や怪物がいっぱいでとんでもない世界なんだろ! 俺が行ってもすぐあの世逝きだ!」
バチィと火花が出そうなほどの眼光がぶつかり合う。俺から折れてやるつもりはないぞ。
「あのな。俺はごくごく普通の学生だ。女にもモテないし、特に取柄もない。そんな俺がそっちで何ができる? それともあれか? 何かチートみたいな能力でも貰えるのか?」
「特に何もないわよ?」
こいつ言い切りやがった。余計に行く気無くすわ。
「でもでも、もう何人もあっちで頑張ってるのに未だに終わりが見えてこないのよ。頑張ればアキト、貴方は勇者よ! 英雄よ!」
もう呼び捨てかよと思いつつ、精神の奥底に封じ込めたはずの中二心が疼くのを感じていた。
冒険、勇者、英雄、そんな単語に胸を躍らせない男がいるものか。
ムズムズしてるように見えたのか、フランが畳みかけるように言う。
「向こう側ならきっとアキトもモテモテよ! だって勇者様よ? 英雄様よ??」
「へーそうなんだー」
平静を装い、即答する俺にキシャー! と爪で引っ掻いてきた。
俺の顔に縦線が入る。
胸は躍るが、死ぬのは嫌だ。正直言って、めんどくせ。
「痛っ痛てぇ! ゴルァ!」
フランの両手を掴むと途端にシュンとした表情になった。
黙ってりゃ可愛いのに。勿体ない。
流石の俺でも少しは良心の呵責を覚える。
しかし行きたくないものは行きたくないのだ。
普通に死にたくない。
「ま、そう言う訳だから、諦めて帰ってくれ」
「帰れないわよ」
「は?」
「一度当選したら、当選者と一緒じゃないと帰れないのよ。アキトの気が変わるまでここから動かないからね!」
俺は椅子の上でグッタリするしかなかった。
なんてこった。
俺の自堕落ライフが終焉を迎えてしまう。
このままでは自分を慰めることも出来なくなるじゃないか。
そこで気付いた。口を開けばアホだが、見てくれは良い子猫ちゃんが転がり込んできたと考えればいいのだ。
よく見れば、なかなか良いスタイルをしているじゃないか。
俺の視線と思考に気付いたのか、フランはバッと胸を両腕で隠した。
む、両手をワキワキとさせてしまっていたのが敗因のようだ。
「変な事考えないでよね!」
「カンガエテナイヨ」
「私にいかがわしいことする気でしょ!」
「ボクロボダカラワカンナイ」
「助けてー! 犯されるーー!」
「やめろ! バカたれ!」
こんなくだらないやり取りの中、夜は更けていくのであった。
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