第二話 泣き虫少女のお願いは

「で、そのSSRってのはどこにいるんだ?」


 俺がボソっと言うと、フランはニッコニコしながら己を指さした。


 うわ、飛びっきりの笑顔だ。

 何かムカつく。


「お前はどう見ても違うだろ。本物はどこだ? 後から来るのか?」


 わざとらしくキョロキョロしてやる。


「んーーーー!」


 フランは力いっぱい指さす。

 既に涙目で顔が真っ赤だ。 


「返品」


 俺は椅子ごと背を向けると「うわーーーーん!」と言う絶叫が背後から聞こえた。


「俺には何も覚えがないぞ」


 新手の詐欺か何かなんだろうか。

 こういうのは、キッチリハッキリさせておかないと後々面倒になるからな。


 泣きながらギッシギッシと、椅子にしがみついてくるフランの顔をつかんで引きはがすと、その場に正座をさせる。


「お前な、いきなりそんなこと言うヤツにさ、やったーわーい当選だーってなると思うか? 詐欺ならもうちょっと勉強してからこい。それと、妄想癖があるようだから、一度病院へ行った方がいいぞ」


「ちーがーいーまーすー! 詐欺じゃないですーーー! 頭も大丈夫ですーーーー!」


 思い切り口を尖らせるフラン。

 嘘つけ。


 これはもう殴って良いフラグだろう。

 さり気なく拳を握りしめる。


「この世界じゃなく、別の世界で当選したんですーーーーー!」


「???」


 この女は突然何を言いだすんだ。

 別の世界って、要は異世界だろ?

 頭がお花畑なんだろうか。

 俺より少し下くらいの年齢に見えるんだが、な。

 とにかく、これ以上関わってはいけない気がする。つまみ出そう。


「はいはい、そーかそーか良かったなぁ。玄関まで送るから気を付けて帰るんだぞ。ちゃんとお家まで帰れるか?」


「うわああああん! 違うのー! 本当なのー! そんな目で見ないでえええ!」


 どっちだよと思いながら、しがみついてくるフランを引きはがす。


「そういやお前、何もない空間から出てきたよな。もしかしたら本当の事なのかもな」


 フランはパッと笑顔になり、


「そうでしょう? そうなのよ! 貴方は別の世界でSSRのこの私を引き当てたの! とっても幸運なことなんですよ!」


 とか言ってる。本格的にヤバい。目がイッちゃっている。


「わかったわかった落ち着け。ツバを飛ばすな」

「モガー!」


 飛んでくるツバを拭いながら、目を爛々とさせるフランの顔を座布団に押さえつける。


「なぁ、聞きたくないけど……当選した後はどうなるんだ?」


「良くぞ聞いてくれました! アキト様には私と共に物語を開始し、向こう側の世界を救っていただこうと─────」


「イラネ」


 即答した俺にぎゃあぎゃあ泣きながらすがりついてくる。


 あ、鼻水ついた。コンニャロ。


 俺は、そんなありがちな話に乗ってやるような男じゃ無い。

 その手の話の連中は、全員が全員とも苦労してるじゃないか。

 俺は自堕落に生きたいのだ。出来れば可愛いロリっ子とな。

 後はネットとゲームがあれば充分だ。



 さて、コイツをどう説得して帰そうかな。



 土下座スタイルで泣いているフランを見ながら、俺は頭を巡らせるのであった。

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