行く気が無いのに冒険譚! ~なる気が無いのに勇者様!?~

アラセイトウ

第一話 究極レアは女の子!?

「いってぇ! 誰だお前は!?」



 無論、俺意外無人だが、もし誰かいた時のための牽制行為だ。

 取り敢えず、俺の脳天に何かがぶつかったのだけは確かだ。

 痛む頭をさすりながら、さして広くもない自室の天井を見回す。

 特に何もおかしなところはない、と思う。


 一瞬、隕石かと思ったがな。

 ま、隕石ならもう死んでるな。


 天井に穴が開いていないことに少しホッとする。

 実は天井裏に、ダメな本を隠してあるからだ。


 あれは、世に出してはいけないものだ。


 ふと足元を見ると、卵くらいの大きさの、水晶みたいなものが転がっていた。



「なんだこりゃ……? どっから湧いた?」



 ちょっと引き気味にそれを眺めていると、なにやら虹色に光っているような気がした。


 爆発とかしないだろうな、おい。

 嫌な予感しかしないぞ。


 握っていた携帯端末を机の上に置き、その水晶のようなものをそっと拾い上げて、窓の方へかざしてみる。


 熱くはないな。隕石だったら高熱だろうし。



「へー、よく見りゃ綺麗な色してるわ」


 色々な角度から矯めつ眇めつしてみたが、やはり虹色に輝いているようだ。

 何故か俺の心を鷲掴みにする色だ。


「なんだかレア度の高そうな石だな」


 今やっているゲームの事を思い出し、ちらりと机の方を見る。

 むしろ、ゲームの方で出てほしいような色の石だ。

 最近、ろくに当たりが出ない事を思い出し、ちょっとムカつく。


 そもそも出現確率がおかしいんだよな。

 あんなのをバンバン引けるやつは、無限に課金できる石油王か、圧倒的な激運持ちだけだろ。

 チクショウ。



「チッ、高い宝石とかなら売り払ってゲームに課金したり、アレしたり、ソレしたり……グフフ」


 おっ、自分で言っておいてなんだが、ナイスアイデアだ。価値を調べてみよう。

 てか、どこから落ちてきたんだこれ。

 流行りの異世界か? んなバカな。

 まぁいいや、さっさと調べて売っちゃおう。

 隕石でも高額になるらしいしな。


 俺はちょっとウキウキしながら机に向かった。


 ピシッ


 突然妙な音が聞こえた。


 ピシシッ!


 その音は俺の手元から聞こえる……ような……


「えええーーーー!?」


 何故か突然ヒビの入った水晶を慌てて放り投げる。


 冗談じゃないぞ、やっぱり爆発するのか!?

 くそ、こんなもん窓から投げ捨てちまえば良かった。


 クリアファイルを顔の前にかざして盾代わりにし、ビビりながらも水晶を見ていると、全体にヒビが入り、まるで孵化する卵のように所々欠け始めている。


 何が起こっているんだこれは。

 もしかしたら、俺は今日、死ぬのか?

 まさかそんなお約束みたいな事が俺の身に!?

 ふざけんな! お約束ブレイカーを舐めるなよ!


 その欠けた隙間から虹色の輝きが溢れ出す。

 まるでスパークだ。



 舐めてました、すいませんでした。どう見てもダメなやつですこれ。

 さっさと諦めて、来世に賭けます。

 さらば現世。願わくば、来世はモテモテになりますように。あと、せめてHくらい経験してから死にたかったです。




 パーーーーーーーン!!




 水晶が一気にはじけた。

 そして軽快なリズムの効果音が流れる。


 あまりの眩しさに視界を奪われた俺は、椅子から転げ落ちて、セイウチかアザラシのようにビタンビタンとのたうった。


「目がーーーーー! 目があァーーーーーー!! ああぁぁーーーーー!!」


 まるで色眼鏡をかけたどこぞの王族だ。彼は天空の城から落ちて行ったっけな。

 そうこうしているうちに虹色の輝きは少し収まってきたようだ。


 今のうちに部屋から逃げ出そうか迷うところだが、って、なんだこれ……は。




 部屋の壁にまるでプロジェクションマッピングのようにデカデカと───




 S  S  R




 の文字が金色の、そしてやたらと仰々しいフォントで映し出されていた。



「………は? ………………なにがSSRだ! 舐めてんのか!」


 色々起こりすぎて、つい逆ギレしてしまう。



 水晶があった場所はまだ輝いている。金色の靄状の光だ。

 そして、その輝きがなにやら形を変えていった。

 それは棒状に伸びて行く。


 棒……いや、杖か?

 その杖の上に何やら文字が浮かぶ、聖杖……なんちゃらとか書いてあるようだが良く見えない。

 杖はポトリと床に落ちた。


 ここまでくると、何者かのふざけた作為を感じてしまう。



「解ってる、解ってる。どうせロクな事にならないんだろ! こんなもん、へし折って燃やしてやる!」


 怒りに任せて拾い上げた時、まだ残っていた金色の靄の中に、人影が見えた気がした。


 俺は直感した、人影は少女であると。

 怒りも忘れ、全身全霊を込めて願う。




 頼む! どうせ出るなら美少女にしてくれ! 色々捗るから!!




 これが全ての間違いだったと、この時は気付けなかった。



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 と、取り敢えず落ち着こう。


 二、三度深呼吸をする。



 俺の手に握られた杖のような物を今一度じっくり眺めた。



 先のほうには、赤くやたらとデカい玉がくっついている。

 まるでプラスチック製のバット並みに軽い。

 妙に手に吸い付くそれを、俺は思わずブンブン振ってみた。

 意外と頑丈だ。



 うむ。これなら勝てる。



 何に勝つのかは解らないが、部屋に転がってるボールを無性に打ってみたくなる。

 ゴルフスイングで力いっぱい杖を振り上げると、





「ま、待ってー! 待ってくださーい!!」



 と悲痛で切迫した声が背後から聞こえてきた。

 色々ありすぎて逆に冷静になっている俺は、「どうせお約束だ、なんでも来い!」とばかりに振り返ってやった。



 よっしゃ! 



心の中でガッツポーズを決める。


 見れば涙をダバダバ流している女の子が、膝をガクガク震わせながら立っているじゃないか。

 思っていたよりも、かなり可愛い。



「グスッ……そ、その杖は私のです……グスッ……かえしてくださぁい……」



 流れる涙もそのままに、両手を合わせて懇願している少女。


 それにしても、なんだその格好。


 長い髪、ヒラッヒラの赤ともピンクともつかぬ色合いの服。もしかしたら、花を模しているのだろうか。


 俺は安心させるようにその子に笑いかけ、笑顔のままゴンッと力強くボールを打った。



「うわーーーーん!」




 ひとしきり全力で泣いた女の子が、落ち着き始めた頃合いを見計らって、俺は椅子にふんぞり返り、居丈高に聞いてやった。


「で? 一応聞いてやるが、お前は何なんだ?」


 まだグスグス言ってる少女は、


「……とりあえず、杖を返してくだしゃい……」


 とかなんとかぼしょぼしょと言った。


 多少可哀想になり、そっと杖を目の前に置いてやると、パッと顔を輝かせて杖に覆いかぶさった。



「あっ! テメェ嘘泣きか!」

「うぇーんうぇーん」

「嘘こけ!!」



 こいつ引っ叩いてやりたい!


 俺は衝動をグッと堪えて、杖に損傷はないか撫でまわしている少女に尋ねた。


「で? お前は結局のところ何なんですかね?」


 少女はハッとしたようにスックと立ち上がると、妙なポーズを決めた。

 スカートからチラチラと何か白いモノが見えてますけど。

 取り敢えず、勿体ないので目に焼き付けておこう。




「私はフランと申します」

「腐乱?」

「フーラーン!!」

「わかったわかった」

「貴方はミウラアキト様ですねっ!?」

「違います」

「あれっ!?」



 謎の少女、フランはわたわたとメモのようなものを引っ張り出して確認している。


 もしかしてこいつ、アホの子か?

 きっとそうなんだろう。要領も悪そうだしな。


「で、この三浦秋人に何の用なんだ? 俺の彼女候補になりたいのなら検討してやるぞ」

「えっ、ミウラアキト、様……で、いいんですか?」

「うむ」


 おっ、額に一瞬ビシッと青筋が見えたぞ。怖い怖い。


 フランは怒りとも羞恥ともつかない顔色になり、口の端をピクピクさせていたが、気を取り直したように「オホン」と咳払い。

 大仰なくらいニッコリしている。非常に胡散臭い。


 スカートの両端をつまんでポーズを決める。

 そして必要以上に溜めた後、彼女は高らかにこう告げたのだ。








「アキト様! この度は、SSRの御当選おめでとうございます!!」





 何を言ってるんだコイツは。

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