第5話マミちゃんと暮らす
「ただいまー」
薄暗い玄関に迎えられた俺は近くにある鉱石灯のスイッチを入れる。これは地球で言うランタンのようなもので、電球の部分に光る石が入っているのだ。
まぁ、これダンジョンに持ってくの忘れて一回死んでるから流石に覚えたわ。
俺は皮のブーツを脱ぎながら隣に立っているマミちゃんの方を向き、
「本当に俺ん家で良かったのか?」
「……後悔してる」
チーン。
酷くね?
自分からリオンくんの家に行くって言ってたのに。
俺は頬を赤くしながらそっぽを向くマミちゃんに、今からでも違う家探せば……と言った途端、マミちゃんは泣きそうな顔になりながら俺の手を軽く握り、
「……う、嘘。リオンくんの家が良い。ほかの家なんて行きたくない。だから……その……見捨てないで? ……も~こんな恥ずかしい事言わせないでよぉ! はじゅかしぃ……」
上目遣いでモジモジしながら言ってくるその姿はまさに女神だった。
リオンノックアウト!
――話は2時間前に遡る
俺が果物屋のおばちゃんの家に入り、初めてマミちゃんと会った時。
「は……初めまして! リオンと申します。……その、マミちゃんの事が俺大好きなんですよ」
「…………」
「…………」
いきなりポカをやらかした俺はマミちゃんとおばちゃんに、何言ってんだこいつみたいな目で見られていた。
その視線に気まずくなった俺は、冷や汗を流しながら近くにあった金魚のような魚が入った水槽を見る。
空気を欲しパクパクと口を開ける様はまるで自分を見ているかのようだったが、水槽に反射して水色のツインテールがぴょこぴょこ動いてるのが目に入り死にたくなる。
「……あのぉ、すいません。大好きって言うのはそういう意味じゃ――」
俺が今最大に出来る言い訳を言おうとした時、マミちゃんがおもむろに小さく口を開いた。
「…………とう」
「え?」
マミちゃんの声が思ったより小さく、聞き取れなかった俺が戸惑っていると、ポロポロと涙を流し始めた。
……よし! 適当にストーリー進めてフリーズしてこよう!
俺はもう嫌われたら終わりやないかいと心で自分を呪いながら玄関へ行こうとした時、マミちゃんは俺の背中から勢いよく抱きつき。
「行かないで! ……私のことを好きになってくれて……あ……ありがとうござい……ます」
「え?」
「あらまーやーねー、あのねリオン。マミ、ずっとリオンのことが好きだったのよ。まさか両思いだったなんて……ふーふー!」
え?
ポカンと口を開けている俺に対し、口を尖らせフーフー行ってくるおばちゃん。
これ、え?
少し状況を理解しようと落ち着いた時に、全く関係ない事に気づいてしまった。
しっかり成長してますな。
その成長の意味が多分150cm位しかない身長のことを指していると思うのならそう思うがいい。違う! これは違う!
ヒントを言うなら女の子の最強の体型、ボンキュボンの最初のボンに値する部分!
俺の背中でふにょふにょと形を変えるソレから意識を遠ざけ、平然さを保ちながら、
「あ、ああああー、そうだったんですか! あ、はいはい、ね、うんうん、はい、」
保ててないです。
俺が耳まで真っ赤にしていると、マミちゃんが俺の背中でゴニョゴニョと、
「ばぁちゃん。私リオンくんの家に行きたい。……ダメ?」
「いいよいいよ! もちろん反対なんかしないさ! そのかわりリオンがいいって言ったらね?」
「はっ?」
思わず意味のわからない会話に出てしまった声に、再び泣き出すマミちゃん。
ちくしょー! 俺の反射神経を誰かちぎってくれ!
「ごめごめん! 全然俺はいいですよ!」
「本当?」
「うん。本当」
「…………やったー! ねーねー! ばぁちゃん! リオン君がいいって! 私これから借金しなくて済むのかな!」
「どうかねー、リオンも冒険者今日なったばかりだからねー」
おい。聞き捨てならない話が。
俺が借金に対してツッコむより速く、マミちゃんは自室へ走っていった。
おいおい、これ莫大な借金を返すために演技してんじゃねーだろーな。
うまく行き過ぎて嫌な予感をしていると、横からおばちゃんが、
「実はね、マミ、最近変なやつに絡まれてるんよ、しかもそいつら、マミを婚約者にしたいとかなんとか言い始めて、金出すからそれだけはしないでくれって言ったら、ずっと来やがってさ……マミを、守ってやってくれないかね」
「……ははははい! 守ります!」
え、やだ! チョー怖いんですけど! 知らないそんな話知らない! そんなのゲームになかったぁぁぁあ!
俺は今更後に戻れないと、半べそをかきながらマミちゃんの用意を待ち、家を出た――
――そして今に至る
「これからどうなるんだろう。ゲームと全く違うストーリーに変えたから先が読めねー」
この時初めて、自分で自分の首を絞めていたことを知った――
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