第2話ここクラウディアテンペストじゃね?
「さてさて、何故こうなったのだろう」
俺は軽装の鎧を身にまとい短剣を片手に突っ立っていた。
俺死んだはずだよな。
左右には見たこともない絵が飾られており、テレビなんてものはなくただただ質素な物しかない。
うむ。少なくとも俺の部屋ではないな。
剣を鞘にしまいながら窓の近くによる。そこから見える景色は中世そのものだった。
……あれ? これどっかで見たことあるような。
俺はその景色に見覚えがあるなと思いながらもこの部屋にある扉に手をかけ……
「お兄様ぁー! おはようございます!」
「うわっ! いった!」
扉を少し開けた瞬間に飛び出してきたのは小さなお団子を作った黒髪の小さな女の子だった。
ちくしょー! 扉の角におでこ打った!
未だズキズキするおでこを擦りながら女の子を改めてみて俺の意識は覚醒する。
お前は……!
口を開けたまま動かなくなった俺を不審に思ったのか、女の子は首をかしげながら、
「どうしたのですか? お兄様の変なのーふふふ。あっ、そうだ早くしないと始まっちゃうよ!」
そう言って俺の手を握る女の子。
知ってる。
目の前の満面の笑みを見せるこの女の子とこの話の流れを知っている。
確か次に言うセリフは、
『……お兄様なんでそんな顔してるの? あーまだ寝ぼけてるんだね、今日は冒険者試験があるでしょ、早くしなきゃ!』
俺と女の子は一ミリもずれずにそのセリフを言い遂げる。
本当にそうなのか?
すると、女の子は丸い目をしながら沈黙する。
いや本当にゲーム世界に来たのかもしれない。 だってこれは【クラウディアテンペスト】の最初の部分。外の景色も全く同じだし!
俺は興奮を抑えるかのように目の前の女の子に微笑みかけようと――
――プツン
脳内にテレビ画面が消える時のような音がなり、俺の甘い考えとは裏腹に視界は暗転した。
「…………」
今度もまた同じ場所。
安定の変な絵に軽装の鎧。
どういう事だ? 俺さっき気を失ったのか?
最初、扉を頭に打ったから気絶でもしたのかと思ったが、最初の場面に戻ってきている以上、それもなさそうだ。
俺は考えてもしょうがないかと、とりあえず外に出ようと扉に手をかけ……
「いや、またあの子出てきたりするんじゃ……」
先程以外にいたかったおでこを擦りながら冷静な判断で後退りした時、扉は元気な女の子の声とともに開けられた。
「お兄様ぁー! おはようございます!」
「いや本当に出てくるんかい!」
また挨拶にやってきた女の子に俺はツッコミ、さっさと外に出ようとする。
すると、女の子が俺の手を握りながら。
「お兄様今日は頑張ってね? ん? 今日何あるかわからないの?」
廊下にどうにか出て俺と女の子は手を繋ぎながらレッドカーペットをゆっくり歩く。
本当、全く同じだな。
内心そんなことを思いながら、
「ん? 冒険者の試験だろ?」
「…………」
「おーい? どうしたんだ? って、こいつかてぇ!」
手を引っ張っても一ミリも動かない女の子。
ちくしょー! さっきより進んだのに何でまた!
俺はどうにか復活しないかとつついたり声をかけたりするが反応しない。
数秒後、俺はまた意識を失った。
「…………あぁここにはしっかり戻るんだな」
本日3度目となるこの部屋。
むしろこの絵の良さがわかってくる。
そんなことを思いながら2度の自分の行動を振り返る。
「最初は女の子と同じセリフを言ったらフリーズ。次は先読みしたらフリーズ。……これもしかしたら俺が冒険者試験があること知ってちゃいけないんじゃねーか? そうか! ゲーム内ではあの女の子は【冒険者試験】と言うことを教えるように設定されているのか! 逆に言うと、その設定さえ守れば他の行動を取ってもいいってことか!」
自分なりに立てたその計算を試すため、女の子のセリフをすべて言わせたあと、俺はゲームをやった時にはなかったことを少しやってみる。
「布団が吹っ飛んだ!」
「お兄様! 面白いです!」
この時俺の計算がすべて正しいことを教えてくれた。
よし、これを使ってみんなが生きれるルートを探してやる!
俺は隣にいる女の子に笑いかけながらそう心に誓った!
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