第4話 ヤングラークス
その頃。廃止された飛行場の鉄柵を、乾いた血でへばりつく掌で押す男がいた。飛行場の端を左腕の傷を抑え走っていると、鋭い光、目に痛かった。
「誰だおめえ!」
カービン銃のコッキングレバーを引く影が望楼上の投光器の前に現れた。男は眩い光から両手で目を守ると擦れた声、悲鳴に近かった。
「俺だ!やっとのことで逃げてきたんだ!」
「ここには来んなって言ってんだろ!入れ!」
望楼の男が手元のスイッチを入れると格納庫の扉が自動で開かれた。中からチンピラたちが集まってきて、構えた拳銃を男に突きつけた。
「撃つな、俺だ」
「ボス、この前国予にやられたチームの一人です」
ボスと呼ばれた男はデッキチェアに腰掛け格納庫に小さく鎮座するUHヘリを満足そうに眺めていた。頬の皺に入り込んだウィスキーを拭きデッキチェアを立った。
「ボス・フィルバ。すみません、俺たちやられちゃって。襲ったやつらはわかってます。三人組で、髭面、いい身体したブランド三つ編みの女、黒岩みたいな大男、車はどでかいパスみたいな・・・」
「国予の目があるんだ、ここには出入りするなと言ってあったな」
「は、はい」
フィルバは男の腹を蹴飛ばした。彼は鳩尾に鉄球を食らったごとく、腹を抱えてその場にしゃがみ込んだ。フィルバの暴力は留まるところを知らず、男はそのうち気絶した。
「水、ぶっかけますか」
「そのままにしとけ。どうせ置いてくんだ」
「国予に捕まったら居場所を吐きませんか」
「だから今から移動すんだろ。こいつに新しいアジトは教えてない。痕跡は一切残すな、お前たちは陸路で行くから、念のため迂回して来い」
「はい」
「それからな、こいつの言った連中を探すよう暇な奴らに指令を出せ。見つけ次第殺していい。すぐに見つかるだろう」
「はい」
「準備完了」
望楼の男が格納庫の扉を開くリモコンを、コードリールに巻き込んで持ってきた。彼は隅に置かれていた車にコードリールを持っていくとトランクに投げ込んだ。
「出発する。天井を開けろ」
フィルバがヘリに乗り込みローターが回転を始めた。格納庫の天井が軋みヘリ一機が飛び立てられるだけ開かれる。
「離陸します」
フィルバは小さく頷くと仏頂面でグラスを出す。側近がポケットウィスキーを出し七分目ほど注いだ。
「いい機会だ。国予なんざへでもねえところを見せてやろう」
グラスを呷ぎ空にする。次のウィスキーはすぐに供された。
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