第21話 親愛なる王妃陛下へ
王家の三人は頻繁に退避施設の外に出て警護士や国予の兵隊たちを労っていた。今日この日も、撤退する部隊の隊員や負傷者と握手を交わし、死者の冥福を祈っていた。王家の慰労はこれで最後となり、戦闘が完全に止むまで近衛警護士共々地上を無人化し退避施設に籠ることになった。ケイトたちはそれぞれ王宮を見回り異常がないか調べていた。
ジェフがケイトを探しに行くと停めた車の側に行きシャーリーは煙草をくわえた。
「これでお別れねえこの国とも」
「そうだね。ジェフはケイトちゃんと会えたかな」
「大丈夫でしょ、きっと見つける。デイビスさんとこと王家以外この国はなーんか気に入らなかったけど、まあ感慨深いっていうのかな、ちょっと寂しい気も」
「デイビスさんたち本当に親切だったね。ピートくんとエミルちゃん、これからすくすくと親切な人に育っていくんだろうね・・・」
「泣くことないじゃない、戦争終わったら、何もいらんこと知らずに幸せに生きていけるんだから」
「でも、寂しくって」
先程から涙が止まらないチャルをシャーリーはなだめた。チャルの気持ちもなんとなく理解できて、親切ばかりで何の裏もないこの国と住民に偏見を持っていたシャーリーも涙腺が緩んできた。特にあの王妃を思い出すと。
十人ほどの足音が聞こえその方を見ると、吐いた煙の向こう側に警護士に囲まれた王家が歩いていた。一行はシャーリーたちに向かってきて慌てて煙草を捨て踏み消した。
「止まって」
凛とした王妃の声、シャーリーの身体を震わせた。目元まで下げた帽子をおそるおそる上げると、煌びやかなドレスに包まれた王妃がこちらを見ていた。いつしか昔読んだ、おやゆびは姫の絵本を思い出した。花々に囲まれた美しいおやゆび姫の姿、王妃にそっくりで、涙がぽろぽろ溢れた。
「貴女は、いつしか転んでしまったお嬢さんね」
「は、はい」
「そんな重そうな物を持って、大変だったでしょうね。貴女も、男性の方もお怪我はないかしら?」
「はい、大丈夫です!」
「外の世界の人々には多大な苦労をかけてしまいました。ですが、私たちは感謝しております」
「激戦もあったと聞いております。心から感謝の念に耐えません」
王家の三人は深々とおじぎをした。急なことでチャルは涙が止まり、1ビットのゲームのようなカクカクの敬礼をした。シャーリーは何か言おうとして口を開けたまま涙が止まらなかった。
「お、王妃さま」
「なにかしら、シャーリーさん」
ちゃんとファーストネームを覚えていた。再び王妃の口から自分の名前を聞けたという事実だけでもう一杯になり、次の言葉を紡ぐのに苦労した。
「わたし、の、親愛の印を、受けていただきたいのです。みなさんに。だめ、でしょうか?」
涙で声は絶え絶え、出かけた鼻水をすすった。王妃は「まあ」と口元に手を当て、シャーリーに微笑みを与えた。まずは王が手袋を脱ぎ手の甲を差し出した。シャーリーは静かにひざまづきそっと唇を添えた。チャルも続いて印のキスを献上した。
「外の世界の人たちに愛されて嬉しいですわ。でも、もうすぐいなくなっちゃうのかしら。寂しいわ」
王女の手の甲にキスをすると初めて口を開いた。シャーリーは嗚咽を漏らした。
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