第5話 青い勝鬨
後始末を村の大人たちに任せ、負傷した仲間を病院に送ってから例の整備工場付喫茶店に来た。連絡を受けていた店主は祝宴の用意をしていて、分隊のテーブルにはビールやウィスキーが所狭しと並べられている。秩序正しい青年団の少年たちはノンアルコールを手に手に乾杯したが、それでも気分は酔った風になる。
ウィスキーグラス片手にぴったりポールを抱き寄せるシャーリーは早速口説きにかかる。
「ね、一目見たときから感じたの。私はポール君の女になるべきで、ポール君は私の男になるべきだって。わかるでしょ?ウンメイ」
「そ、そんな、僕女の人とお付き合いしたことないしわからないです・・・」
「ぜーんぶ私が教えたげる。オトコとオンナのこと」
「バッカでー。騙されるなポール君、その女はとんでもないビッチで、行く街行く街先々で男と寝てんだぜ」
「ちょっと!そんな嘘言わないでよ!そんなことないよね、チャル?」
「うーん、僕からはなんとも」
「みんなヒドイ!ポール君、そんな事実ないのよ?ポール君が私の初めての男」
「なーにが。男女のことおせーたげるって抜かしといて」
「もう!」
ふくれっ面のシャーリーに周囲はどっと笑った。何人かのマセた少年は、気分の昂りに任せシャーリーの隣を陣取る。顔真っ赤なポールはこれ幸いと退散した。
「ああンポールくぅん!」
「シャーリーさん、俺たちだっていい男ですよ」
「そうですよ、今日だってがんばってブレンの悪党と戦ったし!」
「そうね、みーんないい男!キミたちとも付き合っちゃおうかなあ」
「やったあ!」
「でも、まずはキスから」
「よろこんで!」
大勢の少年たちとイチャつき始め、何人ものファーストキスをシャーリーは奪った。
ポールは瓶コーラ片手に、空いているジェフの隣に座った。彼はビールジョッキ掲げコーラ瓶とかち合わせると、少年の肩抱いて共に中身を空にした。ジェフはシャーリーを指差しわざとらしく笑った。
「いいじゃねえか、シャーリー可愛いと思うぜ。ヤッちまいなよ」
「そ、そりゃシャーリーさんは美人と思いますよ。でも僕は女の人と付き合ったことないし」
「チェーッ、色男が頬染めて言うセリフかよー」
「だって!そういうことは、よくお互い知り合ってからですね、それに、そういうことを目的に恋愛したくないし・・・」
「そうだよジェフ。ジェフもプラトニックな恋を学ばなきゃ」
ポールに助け舟を出したのは、外で少年たちと力比べしていたチャルだった。ポールを挟んで座り、ホットミルクを上品に口に含む。チャルと力比べしていた少年たちも入ってきて口々に彼を褒めた。
「団長、すごいすよチャルさん!俺たちのバイクを軽々と持ち上げちゃうんだから!」
「それに全然自慢とかすることなく謙虚で、ものすごく優しいし!」
「さすがだなチャル。早速ファンができたな」
「ファンだなんてそんな〜」
「チャルさんて、ものすごく強いのにすごい優しい性格ですよね」
「性格で言や、チャルがいちばん可愛いんだ。ほら、照れちゃったりなんかして。見た目は厳つく声もドスが効くから偏見持たれて、なかなかモテないのがかわいそうだ」
「いいんだ僕は。モテなくたって、たった一人のひとを愛して、愛されていれば。それにステキな友達だっているし」
「くーッ、チャルのそういうとこ好きだ!俺も愛してるぜ!」
上気して、チャルの頬にキス。驚いたポールは慌てて頭を引っ込めて、しかしその姿に気づいたシャーリーも少年たちとの愛撫を一時中止し、チャルの身体に飛び込んだ。
「私もチャルだーいすき!」
首に手を回し、頬にキスするシャーリーと困り顔でも笑うポールの頭上、ヘリの回転翼が騒がしく空気を裂く音が聞こえた。皆揃って外に出ると、見上げて陸島連合のヘリが数機過ぎ去っていった。後に落下傘の白い花が一つ咲き、聞き覚えのある声が空から小さい。
「おーい、701分隊のしょくーん」
「あーのフェリーニのヤロー、今度は空から降ってきやがった」
分隊三人は肩組み合い、大口開けて笑った。いまいちなんのことか掴めない少年たちもつられて笑った。
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