第3話 ブレン兄弟の威力
「どうですこれ」
「冷めちゃったけど美味しい。特にこのニンジン」
「カレー食ってる場合じゃないですよ、この惨状!」
現場に着いた一行は被害の検分と片付けを手伝った。シャーリーはメンバーと一緒に被害者のラモス老夫妻から話を聞き慰め、チャルは力を使ってテキパキと農具庫の残骸を片付けていた。到着してからカレーにスプーンを入れたジェフは食べながらポールの横に立ち残骸を眺めた。
「すっかり潰れちゃってる。それも頑丈な履帯と強力な動力によって」
「戦争の時、撤退するどこかの軍隊が棄てていった故障の戦車が郊外にありました。機関銃のような外せる武装は持っていき、砲は破壊されていました。でも故障自体は大したものでなく、エンジンとその足回りを直してトラクターに利用したようです」
「魔改造もいいとこだ。この履帯はロシア製かな。でも外板や機械の壊れ方からして、潰されただけじゃなくて砕かれてるみたいだ」
「ジェフ、ポール君、これ」
チャルが耕運機の残骸を持ってきて二人に示した。ポールは割れた赤い鉄板を指差してなぞった。
「広大で硬い土地を耕すための頑丈な機械式の鍬・・・どちらかといえば鉱山で石を砕く機械に似ているかもしれません。草刈機の丸い刃がとてつもなく太く大きくなったものを想像して構いません。それを車体前面に並べて高速回転させ、武器としているのです」
「通りでこんな廃墟が出来上がるわけだ。アスファルトがおかしな砕かれ方してて不思議に思ってた」
「鉄板がこんなになっちゃって。ジェフ、勝てる?」
「まあ努力はするけど」
「努力?確実に仕留めてくれ!」
シャーリーに背をさすられるラモス夫妻が涙ながらに訴えた。彼女が渡す煙草に火を点け、吸い方間違えたのかえずくように咳をする。
「あいつらバケモンだ。この倉庫と機材がなけりゃ収穫も満足にできんのに。そもそもの畑も潰されちまった」
「ラモスさん、残った畑の収穫は僕たち青年団が手伝います。機材の借し出しだって。被害額の捻出や再建も村から出来るだけのことをします」
「人手や金のことだけじゃねえ、今度の麦は出来がよかったんだ!それをあいつら!」
「おっさん、仇は打つからよ、安心して寝といてくれや」
「ふん、よそモンが余裕こくな。たった三人で何ができる」
「言うねえ」
「大丈夫よおじいちゃんおばあちゃん。普段私たちはもっと凶悪な連中と戦ってるんだから」
「あれ以上凶悪なやつらがいるかねえ」
「僕たちがんばるから、安心してて」
「チャルの言う通り、がんばるさ。まあ枕を高くしてなって」
なだめてなだめて、なんとか老夫妻を落ち着かせると、数人の少年を残してその場を後にした。ポールは三人を連れて、村郊外の山の山腹を通る広いトンネルの入口に寄った。中に照明があることはあったが、途切れがちで停電圧なのか暗かった。
「このトンネルの向こうがブレン兄弟の住処です。僕たちは明日あたりに強行偵察をしようと思っています」
「軍隊みたいなマネするのやめとけよ。危ないじゃないか」
「ケンカ売るつもりはありません、それはジェフさんたちの仕事。それにピストルくらいは持って行きますよ」
「拳銃携帯許可証は?」
「村には申請してあります」
意志の強い声だったが、張り切る少年たちの姿はどことなく不安に思えた。ジェフはシャーリーとチャルを見やって頷くのを確認すると、おもむろにポールの肩に腕を置いた。
「ならいいけど。危なくなったら逃げろよ、俺たちも一応同行する」
「それならありがたい。明日の13時くらいにはこのトンネルに行くつもりです。連絡先を交換しましょう」
「イケメンの連絡先ほしい!」
「だとよ、シャーリーと交換してくれ」
嬉々として連絡先を交換しスマートフォンを頬ずりするシャーリーにポールは照れたのか頬を染めた。ジェフはチャルと顔を見合わせ、呆れたように小さく笑った。
村唯一にして最高のホテルに三人は案内された。小さなホテルで従業員も少なかったが、特産品をふんだんに用いた心尽くしの料理は美味で舌を楽しませた。しかし部屋からの眺めは暗闇の中にポツポツとまばらな光不気味で、特にチャルは怖がる様子でカーテンを閉めた。
「トンネルの方、なんだか空が明るい」
カーテンを閉め切るとチャルが不思議がった。ベッドに寝転んでいたジェフは起き上がって窓に近づき、チャルの横から窓を覗いた。シャーリーは見向きもせずにスマートフォンを触っている。
「ははあ、ブレンのアジトかな。動く光があるところを見ると、ありゃ探照灯だ。相当な警備を敷いてるようだ」
「だから村の人たちもなかなか退治できなかったのかな」
「どうもそうらしい」
「まー明日、ポール君と偵察に行きましょ」
「シャーリー、お前あのイケメンと消えるつもりじゃないだろうな」
「どうしよっかなー草むらが多くてコトに及ぶにはよさそうだし。あ、ラッキー!ポール君付き合ってる女の子いないんだって!」
「あのなあ。明日ポールには俺とチャルがべったりくっついてるぞ」
「仕事だよ、もー」
「やめてよあの子私のだから」
口を尖らすシャーリーはポールへのメールに愛の言葉を送信すると、ようやくスマートフォンの電源を切った。内線電話の隣からサービスメニューを取るとジェフに投げ渡す。
「これにさっきの料理の値段が書いてある。でもお金のことはいいんじゃない?国予へのサービスって言ってくれたし」
ジェフはメニューを取ると先ほど平らげたコース料理の値段を見つけ、タブレットに記入していった。経理部への経費申請だった。
「そういうわけにもいかないよ。ブレンのせいで村の財政は苦しいはずなんだ。小耳に挟んだが、農作物の値段は上がってきてるらしい。一番高い料理食わせてもらってタダ食いはよろしくない。つい今しがたフェリーニの野郎を口説き落として、経費を認めさせたとこだ」
「ま、お
「事件が解決したら、ここの野菜をたくさん買っていこうね」
チャルの言葉に異論はなく二人は頷いた。
今日分の経費の申請が終わるとタブレットを閉じ、ジェフはガンケースから機関短銃と拳銃を出して入念に点検した。夜のうちにブレンが現れないとも限らないから、数本の弾倉に弾を込めておく。シャーリーも拳銃に弾を装填しシリンダーを小気味よく回転させ撃鉄をゆっくり落とした。チャルは大量の手榴弾を点検し専用のベストに取り付け、三人分の畳まれた服をそれぞれの枕元に置いた。
「ありがと。重い手榴弾をたくさん持たせて悪いな」
「僕は力持ちだから。これくらいしかできないし」
「そんなことないさ、家事もよくしてくれて助かってる。でも、例の銃も一応持っておいてほしい」
「あの拳銃?」
「そう、バカでかいあれ」
ジェフはもう一つの拳銃を出すと抱えるようにして持ちチャルに渡した。拳銃というより大砲で、8インチ強の銃身から.50口径の巨大な弾丸を撃ち出す。チャルは冷や汗かいて銃を受け取った。
「使えるかなあ」
「どこまで役に立つかわからないけど、弾は強力だから。普段銃は使わなくてもチャルの射撃姿勢は悪くないし、大きな掌で俺たちよりよっぽどちゃんと扱える」
「私とかだと、それ使うと手が痺れちゃうからねー」
「撃つ時は教えるから、その時は頼むよ」
「わ、わかった」
非実用的なこの銃もチャルの手に添えられるとバランスが良い。手榴弾ベストの上からハーネスで吊るすと間違いなく三人の中で一番剛健に見えた。
ベッドに潜って数分、誰も寝息を立てないうちにシャーリーが起き上がる音が聞こえた。トイレにでも行くのだろうと二人は思っていたが、彼女はジェフのベッドに入ると後ろから抱きついた。彼は呆れた溜息吐きシャーリーを離そうとした。
「浮気してるくせに」
「いやーポール君のこと考えてたら、ちょっとね。ねー相手してよう」
「ふんだ。ポール君とやらに頼めよ」
「いけず。ジェフも私のこと好きでしょ?」
「それとこれとは別」
「私もジェフのこと好き」
間違っても恋人同士の会話ではない。シャーリーは戯言を少し湿っぽくし、ジェフの頭を抱えて自分の方に向けた。抵抗もせず向き直ると、頬を包んでキス。数十秒の後小さな水音挟んで唇離すと、ジェフはなんだか憎めずシャーリーの胸に手を入れた。
「指だけだぞ」
「それでいいよ。でも何回かがんばって」
「疲れなかったらな」
幾分か真剣な顔をして瞼を閉じる。指を動かしながら女を攻め、のけ反る身体から寝間着を剥いだ。チャルは顔を赤らめさせ毛布にくるまり困ったように文句。
「よそでやってよ・・・」
「ん・・・チャルも、来る?」
「やらないよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます