アスファルトを耕すな
第1話 小村
小さな盆地に村は位置していて、生い茂る緑や透明を誇る川が豊かだった。小鳥が鳴き、太陽はさんさんと輝いている。
一見平和そうなこの村の道を701分隊三人は歩いていた。休養というわけでもなく、危険支障事象排除案件による出動だった。
「わーいいところ。世の中まだこんなとこあったかってくらいのどかじゃない。ここに何の問題が?」
呑気なシャーリーが道端に落ちていた枝を振り回す。ちょこまかとはしゃいでいると道路に入った大きな亀裂に足を取られ、転げそうになるのをチャルが受け止めた。
「危ないよ。でも歩きにくいね、道がボロボロ」
「そ、このボロボロが悪党のいる証拠」
ジェフは足元を指差しアスファルトの亀裂を示した。経年劣化でもなく重量に耐えきれなくなった訳でもなく、明らかに太いハンマーのようなもので砕かれていた。しかも未舗装路には、土の上にくっきりと履帯の跡が残っていた。
「うわあキャタピラの跡。戦車でもいるのかな」
「怖いなあ」
「道路だけじゃない、畑だって」
広がる畑のいくつかも、農作物ごと耕地がめちゃくちゃに荒らされていた。畑道にポツンと置かれたトラクターはボデーやフレームがひん曲がりスクラップと化している。
「村長が待っているそうだから話を聞きに行こう。あの商工会議所だ」
「耕運機です、ハイ」
「コーウンキィ?」
初老の村長は白髪交じりの頭をかき、丸い背を恥ずかしそうに縮めて言った。出された紅茶にそれぞれ違うこだわりをトッピングする三人は尻上がりな声を重ねた。
「耕運機って、あの耕運機?」
「はい、耕地を耕すあれです」
「そんな、どう見たって兵器でしょ」
「正確には、強力に改造された耕運機です」
「マ改造ったって、戦車でもなきゃあの被害は・・・」
「元耕運機といった方が正しいかもしれません。改造された今、おそらく破壊活動以外に使われていません」
「どうしてそんな事態に?」
「逆恨みですよ、かつての豪農の」
戦後難民キャンプから始まったこの村は、肥沃な土地であることから良質な野菜や穀物を育てる農業を生業としていた。混乱期であるから政府も手が回らず村の運営は独立して自治されていた。幸い温厚な性格を持つ村人、よほど大きな問題もなく平和に過ごしていたのだが、とある兄弟の暴走が始まる。
一時期経営危機になったことがあった。要は凶作だったのだが、それにより一定期間収入を村で平等化すると決議された。多くの村民は賛成したのだが、ただ一家族、ブレン兄弟が強靭に反対した。彼らが一番収入を得ていたのだ。元々耕地に適した土地ではあったが、兄弟は更に秘密の肥料を用いて収穫量を増やしそのまま保っていた。紆余曲折あって陸島連合行政指導部の仲介もあり平等化は決まった。それだけでも兄弟は不満だったが、彼らの作物に問題が起こり、肥料に原因が認められてその使用が禁止された。収穫量が他農家と変わらなくなった兄弟は鬱憤を爆発させるところとなる。
「それから耕運機とトラクターを改造した車両で、他家の田畑や家屋を荒らしとるんです。怪我人も出てます。交通にも被害が出てるし、おちおち夜も寝られません。村の人口も減り始めたし・・・だから、何が何でも皆さんに彼らを排除していただきたいのです。このままでは村が潰れてしまいます!」
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