第一章:出会い
この物語はフィクションであり、実在する団体や個人とは一切の関係はありません。
メーデーのOPにある言葉を思い出した上でお読みください。
1章 出会い
私は、とある会社で働く訪問販売員。だが、売っている内容に実物は無い。皆が大嫌いなあの放送局の契約と徴収をする者だからだ。
ナビ端末を片手に、私は一人で街を練り歩く。確かその日は五月。じわじわと緑が生い茂り、若干の寒さの中に日差しの暖かさを感じる、奇妙な季節であった。
ただ、こちらはスーツ姿。そのジャケットは寒暖を左右させるには、タスキの諺のような状態だ。
「対策」と呼ばれる、訪問をしていた場所は東大宮の6丁目。
その日も集合住宅のインターフォンを押し、その場で怒鳴られた。
その言葉に自身の胸を痛めつつ、思い返せば自分の未来とは本当に未知であったと思い知らされる。
2015年の12月、私は夢の広がるアルバイトから一転、この業界へと落ちた。
6年後に控える、祖父と進めているマンションの建造計画の一旦として、辛い仕事の正社員を決めたのだ。
銀行から少なくとも2000万は借りなくてはならない。だが、残りの1億以上は、不動産業を営んでいた祖父の力を使えば現実的な話。
未来の為に、今苦労をする。…だが、それは自身の性格からは、遠く離れた考え方であった。
まず、私は博打が好きだ。一発逆転を狙い、一攫千金を得ると言う快楽が大いに好きなのだ。
次に、楽しい事が好きだ。仕事などクソ食らえ。私は、私が楽しいと思う事しかしたくない。
皆も、心の底ではそれを望んでいる。一見当たり前に見えるその精神が、私は人よりも何倍も強いのだ。
夢を打ち砕くかのような罵声、そして、訪問員こそが抱える、放送局への矛盾。
これらが大きく重なった時、私のスマートフォンが、まるで闇へと陥れる運命を紡ぐかのように震えた。
「Y!久しぶり!元気してる?」
それは、「O」と言う男からのLineだった。
ちなみに、Yとは自分の事である。
だが、このOと言う男、実は私はあまり好きでは無い。
何故なら、インターネットビジネスの「M3」において、幹部をしていた男だ。
そして、私と同じ中学校の出身であった。
だから、後に信用してしまった。…今、そんな事を言っても、言い訳でしかないのだが。
さて、「O」からLineだが、書いてあったのはこんな内容。
「良すぎる案件がある。話だけでも聞いてみないか?」
…過去の彼から、私は全く信じられなかった。
そもそもインターネットビジネスとは、悪い言い方をしてみれば「マルチ」と呼ばれる詐欺に近い物なのだ。
自身の利益の為、友人達から金を巻き上げる…。まあ、私は本当に面倒くさがりだったが為に、誰も地獄に落とさずに退会したのだが。
ただ、マルチやねずみ講なんかと違うのは、M3の場合は「マイタケエキス」とやらを使った健康食品を実際に販売していた事にあるだろう。…効果?知らんね。
話を戻す。
とにもかくにも、彼の話は嘘が付き纏う。
だが、変化が欲しかったのも事実。別に話を聞くだけなら…と軽視したのも事実。私は、彼を含めた詐欺集団が待ち構える池袋に向かってしまったのだ。
5/3
私は、池袋の西口に居た。奴は15分遅れて来た。
「よう、久しぶり」
そんな声を掛けられる。お久しぶりです!…と返す。
だが、私は人の顔を覚える事が凄まじく苦手な男なのだ。
未だに半年も働いている職場の同僚の名前を覚えきれていない程に。
だから、彼の顔を見たところで、本心は初めまして。だった。
…。
西口を出て、三井住友銀行を右に曲がる。
今までナンジャタウンや池袋サンシャインに訪れた事はあったが、この景色を見せつけられ「都会」と言う物の認識を改めた。
「なあ、今なにしているの?」
と、彼は調子の良い聞き方をする。
金髪にチャラいネックレス…。普段であれば、目も合わせたくないようなDQNが。
「N○Kの集金です」
「うっそ!?マジで?あんなんやってんの?」
「はい」
「あー…でも、俺んところにも来たわ。やっぱり怒鳴られたりするでしょ?」
「すっごいされます」
「めっちゃくちゃ大変そうだよね」
…。
この会話。いや、彼の話し方。
既に私は話術に落とし込まれていたのだ。
基本的に、彼らは「詐欺師」である以前に、誰かから金のやりとりをする「ビジネスマン」なのだ。つまり、会話の中で誰かに信用を寄せさせる為の「話術」を持っている。
それはまるで手品のようで、右手にコインを握った事を信じさせながらも、実は左手に隠しているかのようである。
つまり、「それ以外」の人間は、簡単に騙せるのだ。
それは、絶対に侮らない方が良いだろう。戒めでもあり、皆への警告だ。
カラオケ「パセラ」とパチンコ屋の間の通りへと歩を進めながら、彼と雑談に更ける。
だが、道が狭まり出した時、彼は深く、真面目な顔をし始めた。
「実は、今日呼んだのは…覚えてる?」
「ああ、良い話って」
「そう!そうなんだよ!」
日建工科二号棟を右にまがりつつ、彼は話す。
「実は、ほらM3の時の事覚えてる?」
「あー。ありましたね」
「そん時、いつか起業したいって言ってたでしょ」
…。そうだ。確かに言った。いや、言ってなかっただろうが、言った気がした。
昔から好きな事には格別に力を入れていた性格。自分の好きなように生きると言う、自己の名誉をレールにしている事…。彼はそれを覚えていたのだ。
「でさ、今回の件ってのも、それに関係する事なんだ」
「へぇ」
「ある人が居て、その人が起業のコンサルティングをしてるんだけど、ほら…今の世の中って起業する人が少ないじゃん?」
「そうですね」
「だから…社労士ってわかる?」
「いや…分からないです」
「まあ、その起業した時に会わせてもらえるんだけど、起業した時って助成金が出るんだ。助成金も分かる?」
「…すいません」
「あはは。いいよいいよ。そうだよね」
…まるでそれは馬鹿にするかのように笑う。
私と彼は、進んだ先の開けた通りに出た。
そこを左に曲がりつつ、会話は弾む。
「その助成金を出すのは国なんだ。で、国会議員の人と繋がってる社労士さんが居て、その人の助けで助成金を相当な確率で貰えるようにできててさ!」
ああ、この時点で察しはした。
彼は、私に起業させたいのだ。そして、美味い話の表面を見せつけ始めているのだと。
「まあ、そのコンサルやってる人の住んでる所がこの近くなんだけど、きっとYも気に入るよ」
「そうなんですか?」
「だって、その人ポーカーが大好きでさ。テキサスホールデムってわかる?」
「…!」
…この言葉に、俺は心を踊らされた。
私はボードゲームが大好きだ。チップを使ってトランプをする事も。
随分前に読んだ「やらない夫のポーカーの話」。それに惹かれて、様々なグッズまで集めていた。
そして、このアメリカではポピュラーなポーカーは、その面白さと裏腹に、日本では浸透していない事を悩んでいたのだ。
「ええ、知ってます!」
「マジで!?けっこうやってたの?」
「いや…中々メンツが集まらなくて」
「マジ、その人めっちゃ強いから!つか、好きすぎてポーカーテーブル買ったから!」
「!!」
ポーカーテーブル。皆さまも、ベガスを舞台にした映画で見たことがあるだろう。
あの広々とした滑らかな緑のテーブルだ。
…ちなみに、金も場所もない癖に、私も購入を考えていた時期があった。
麻雀卓すら不必要な程あると言うのに。
「て、テーブル…」
「今から行くところ、マジで置いてあるから!びっくりするよ!」
「楽しみです!」
ある程度進み、ファミリーマートへと入店する。私は甘党だ。だから、チョコレートを買ったのを覚えている。
…店内のATMに書かれていた「振り込め詐欺に注意」と言う文字も、私は見落とす。
きっちりと、「詐欺」と言う言葉を思い返していれば…。今となっては後悔しか残らない。
「はやくー^^…だってさ(笑)」
彼の声に、急いで店を出た。
…まさか、その目の前で輝く新築同然の集合住宅に「悪魔」が潜んでいるとも知らずに…。
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