CASE:8受刑者。

 司は、刑務所に来ていた。

 再生対象者が、受刑者だからだ。


 警察署と同じく所内は撮影は禁止なので、録画ドローンを停止させてから中に入った。

 受付で全身スキャンによる本人確認後、看守に案内されて遺体安置所へ向かった。

 安置所の中には、シーツをかけられた遺体があって、その側に看守と同じ制服を着た白髪頭で白髭を生やした男が立っていた。


 「クローン管理課から来ました渡部司です」

 いつもように手帳を見せながら自己紹介した。

 「所長の大場拓三おおばたくみだ」

 男は、身分証明書を見せながら自己紹介を返した。 

 「それでは、これから判定を始めさせていただきます。録画開始」

 司は、ドローンのスイッチを入れ、録画が開始されたことを確認して判定を始めた。

 録画の有無を説明しないのは、所長が判定の手順を把握しているからである。


 再生対象者の名前は村松真吾むらまつしんご、四十三歳で七件の強姦殺人の罪で終身刑となっていたのだ。

 死因は、急性心不全で仕事中に倒れ、延命処置の甲斐なく死んでしまったのである。

 

 「本件は再生許可とします」

 司は、再生を許可した。理由は無期とはいえ、刑期を全うさせるべきと判断したからだ。

 「被害者遺族の同意はどうなっていますか?」

 「全員再生に同意しているよ」

 所長は、自身の手帳を取り出し、画面に表示させた指紋画像付きの同意書を見せた。

 「確認ました。それでは承認ボタンを押してください」

 所長は、司が除菌ガーゼで拭いた指紋認証部に指を乗せた。

 対象者が受刑者の場合、収監先の所長が立ち会いと承認を加害者家族の代理として執り行うことになっているのだ。


 受刑者は、罪の大きさに関わらず再生登録が義務付けられている。

 これは刑期を終えずに死んだ場合、刑を完遂したことにならないというクローンが認可された時代を反映させた措置だった。

 ただし、再生を行うかどうかは被害者もしくは遺族の同意数に左右される。

 同意が多ければ再生となり、反対が多ければ許可は無効となるのだ。

 クローン管理法が定られた当初は、一般人と同じく判定官の判定だけで再生が決められていた。

 しかし、受刑者が高額な費用を全納することなくクローン再生を受けることに対して、不満を爆発させた被害者が結成した団体が政府に猛抗議した結果、出所後に費用を支払う義務を課したが、それでも治まらなかった為、最終判断は被害者側に委ねられるようと同意制が導入されたのである。


 今回の案件は被害者遺族全員の同意による再生となった。

 司は内心、この結果に驚いていた。

 真吾の手口は凄惨極まりなく、本人の犯行に至る証言中、傍聴人数名が卒倒し、殺してやると喚きながら証言台に飛び込もうとする遺族が出たほどだった。

 そうした凶悪犯が、なぜ無期懲役になのかというと、真吾には幼少期から精神疾患があり、刑事責任は問えるが、死刑までは適応できないと判断されたのだ。

 当然、遺族側は再審を申し出たが、証拠部十分として却下された経緯から全員が真吾の再生に同意したことに対して不可解に思ったが、法律上は問題無く自分が干渉することではないとして刑務所を出た後、DNA保管所で真吾の情報ケースを受け取り、指定の警察病院まで運搬した。

 

 それから数週間後、真吾の再審が行われ、被害者遺族一同が集めた証拠により死刑が確定された。

 このニュースを官舎のTVで見た司は、遺族全員が真吾を再生させたことに対して、大いに納得した。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る