CASE:7アイドル。

 「失礼します」

 司は、一礼して録画ドローンと一緒に霊安室から出て行った。

 

 「あの、再生判定官の人ですよね?」

 出てすぐに四人組の少女に呼び止められた。

 「君達は?」

 「彼女のグループのメンバーです」

 真ん中に立っている黒髪で長髪の年長者と思える少女が、自分達と対象者の関係について説明してきた。

 「対象者はアイドルグループの一員だったね」

 今回の対象者の名前は村上舞依むらかみまい、年齢十七歳で、デビューしたばかりのアイドルグループの一員だったのだ。


 「舞依は、舞依は再生できるんですか?」

 ポニーテールの少女が、対象者の名前を呼びながら結果を聞いてきた。

 「結果はマネージャーに聞いてくれ」

 「どうせダメだったんでしょ。分かっています」

 ツインテールの少女が、暗い顔をしながら言った。

 「ダメだった理由はなんなんですか?」

 ショートカットで眼鏡をかけた少女が聞いてきた。

 「みんな、もう止めなさい。この人は何も答えてくれないわ」

 年長者の少女が、三人を宥めるように言った。

 「マスコミ対策の決まりなんでね」

 「その心配ならいりませんよ。私達、デビューしたてだから記者が貼り付くこともないですし」

 「それでも規定は規定だから話すことはできないんだ。早く結果が知りたいのなら中に入ってマネージャーに聞くといい」

 司は、霊安室の入り口に視線を送った。

 「再生許可は取り消されたんですよね」

 黒髪少女が、静かな一言を放った。

 「やっぱりそうなの?!」

 「事務所の奴等が許可を却下したのね」

 メガネ少女が、悪態を付くように言った。

 「判定官さん、ほんとなんですか?!」

 返答できないと言っていたにも関わらず、ポニーテールが大声で質問してきた。どうやら感情を抑えることができないらしい。

 

 「再生させてもらえなかった理由には察しが付いてます。事務所が許可を取り消したんですよね。あの子メンバーの中で一番人気が無かったから」

 芸能人が死亡した場合、所属事務所が再生を行うことになっている。

 学生やサラリーマンといった一般人と異なり、突然の事故や病気などで死亡して、TVや映画などの撮影スケジュールに影響を及ぼさないようにしなければならないからであり、クローン再生に登録していない者は、事務所との契約時に本人の同意の上で登録することになっているのだ。

 クローン再生が、認可されている時代ならではの芸能人の在り方だった。

 ただし、各スケジュールにも影響が出ないほど人気の無い芸能人の場合、高額の費用を出してまで再生させる必要がないとして、判定官が再生許可を出しても死亡扱いにしてしまうことも少なくない。

 人気がものをいう世界だけに、再生も大きく左右されてしまうのだ。

 今回もその例に漏れず、舞依が未成年であることから再生の許可は出したが、事務所側は人気が出ないだろうと再生を放棄したのである。

 こうなった場合、個人での再生登録をしていればそちらの費用で再生できるが、舞依は天涯孤独の身で、事務所との契約時が初登録だった為に再生は事実上不可能となってしまったのだ。


 「確かに舞依は人気は無かったけど、その分誰よりも努力していました! それで体調を崩してこんなことになってしまったんです!」

 「私達は、舞依を合わせた五人揃ってのグループなんです。どうか、舞依を再生させてください!」

 「再生費用なら私達が払います!」

 黒髪以外の三人は、まるで司が再生取り消しを行ったかのように自分達の気持ちをぶつけてきた。

 「事前に調べているのなら金額に付いては分かっているだろ。それに未成年者では引受人になれないことも知っているはずだ。とにかく結果に関してはマーネージャーから聞いてくれ。私から言えることはそれだけだ」

 「お前達、中に入れ。今後に付いて話がある」

 霊安室のドアが開いて、顔を出したマネージャーが四人に声をかけた。

 四人は、司に何か言いた気な表情を向けたながら霊安室に入っていった。

 司は、四人が中に入ったのを確認してから病院を後にした。


 数か月後、自室にて何かおもしろい番組はないかとリモコンでチャンネルを回している最中、舞依が所属していたアイドルグループが出演している歌番組が目に止った。

 「私達、これからもずっと”四人でがんばります”」

 リーダーの黒髪が、司会者の男性に明るく応えながら、他のメンバーを引き連れてステージへと向かって行った。

 「なんだよ。四人でも全然やっていけているじゃないか」

 司は、悪態を付いた後、チャンネルを変え、左手に持っているビールを飲んだ。

 

 

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