私は、サーバルキャットのサーバル?
椿ツバサ
はじめまして!
そこは、さばんなちほーと呼ばれる場所。その木の上でうとうとと眠る存在がいた。
「んー、ふぅー」
大きく背伸びをする。そのとたん。
「みゃっ!みゃみゃっ!?」
バランスを崩して枝から下に転がり落ちる。ドシンという音が辺り一面に響く。
「い、いたいよー。なになに?って、あれ?」
そこでようやく自分が、自分出ない存在になっていることに気がつく。頭を押さえながら立ち上がるといつもより視線が高くあたりが広い。
そのまま、ほんの少し重くなった体を引きずって水辺まで行くと水面に映る自分の顔に驚く。
見慣れぬ瞳、顔立ち。そして、おそるおそると手で自分の顔を触る。そのときになって初めて自分が二足で歩いていることに気がつく。
「これが……私なの?」
「だーれー?」
「うわぁぁぁ!?」
突如目の前に水柱が上り、ぱくぱくと口を開ける。現れたのは自分と同じように二足歩行をする生物。そのまま見上げていると彼女は口を開ける。
「あら?見かけない顔ね。あなたはだぁれ?」
「私?私は……サーバル。サーバルキャット、のはず」
「はず?」
「あなたは?」
「私はカバよ」
「カバ」
その存在は知っている。カバは水辺にすむ大きな生き物。口もおっきくてその力強さも知っている。しかし、このような形であっただろうか?
「えっと?」
「あら?もしかしてあなた産まれたばかりなのかしら?」
「産まれたばかり?どういうこと?」
「あなた昨日まで、どうしていたか覚えている?」
「狩りをして、そのまま眠って」
「狩りね。よくわかったわぁ」
一人で勝手に納得をしているカバに、少し憤りを感じる。勝手に納得されてはこっちがわからない。すっと、サーバルの目が細くなる。いつもとは違うが爪が出ているのは感じる。
「落ち着きなさい。説明してあげるから」
だがカバはサーバルの頭を強くなでると、同時にどこからか取り出したのか丸い何かを取り出す。
「それはジャパリマン。食べ物よ」
「食べ物?」
「そうよ。食べてみなさい」
言われるがまま、その得体の知れない物を口にほおばる。その瞬間、口内に響き渡る、なんともいえない快感に思わず頬を緩ませる。
「おーいしーい」
「そうねー。何から話した物かしら」
その様子に、にこにこと笑いながらも思案顔となるカバ。その口から語られる真実は、まだ産まれたばかりのサーバルにはとうてい理解出来る物ではなかった。
「つまり、あなたはサーバルキャットとして暮らしていたところ、サンドスターにぶつかってフレンズ化したわけ」
「そうなんだー。でも、この格好でも大丈夫だよね。カバ、ありがとう」
その無邪気な笑顔に心を許しそうになる。だが、カバとしても伝えなければならないことは先に伝えなければならない。このままずっと彼女を優しく見守りつづける訳にはいかないのだ。
「でも、いいこと?ここの掟は自分の身は自分で守ること、他人の力に頼ってばかりではだめよ?」
「うん。わかったよ」
大きく頷いて返事をする。そんなこと言われなくても今まで一匹で生きてきたのだ。特にジャンプ力には自信がある。一人で生きていくことなんてわけない。
「とにかく、ありがとうカバ。これからいろんな所見て回ってくるよ」
「そぅお?気をつけてね」
「わかってる」
「いい?ジャパリマンはさっき言ったボスに出会えるともらえるからねー」
「はーい」
「それからー」
「だいじょうぶだよ!」
徐々に水辺から離れていっても、今だに声をかけてくるカバに先制で声をかける。大丈夫だ一人で生きてきたんだからなんとかなる。もう一度自分に言い聞かせてこのさばんなちほーを歩き回る。
だが、限界はすぐに訪れた。
「みゃぁー!?」
「ふん、ぬぬぬぬ、狭い……」
「あれ?あれ?うまくジャンプできない」
この、いつもより重くて大きな体を前にして、いつも通りの生活など出来るはずもなく、うまくいかないことの連続。そして次第におなかもすいていく。
カバ曰く、狩りをする必要性はないとのことだが、この格好だと狩りをしようにも体の大きさなどが災いして、二回に一回は成功していた狩りは絶対に失敗する自信がある。
「うぅぅぅ……おなかすいたよー」
ふらふらとしながら歩いていると茂みが、がさがさと音を立てる。
「みゃ?」
その音はかなり小さなものであったが、サーバルの聴覚は鋭くその音を確認する。そして音のした方向に歩いて行くと小さな物体が動いていた。
「あー、あなたがボスなんだね?ねぇ、ジャパリマン、もらっていい?」
その物体、ボスはサーバルを見上げると小さく首をかしげる。それを肯定と受け取ったサーバルは、ジャパリマンを受け取ると口にする。カバからもらった時と同じように口内においしさの鐘が鳴り響く。
「ねぇー、ボス。もう少しもらっていくね」
次は返事を待たずにボスからジャパリマンを数個受け取ってポケットにいれて再び歩き出す。
日が徐々に暮れていく。夜目に効くサーバルにとってすればこれからが本番の時間だ。
そんなサーバルの目の前に、またしても別の存在が現れる。大きさは膝の下ぐらい。青くてふわふわした一つ目。
「あなたもフレンズなの?それともボス?」
そっと手を出してその存在に触ろうとした瞬間。
「ダメよっ!」
「うわぁぁぁ!?」
突如横からの強い力に吹き飛ばされ。なんとか空中で体制を整えて着地をする。
「な、なにするの、カバ!?」
「サーバル。これはセルリアンといって私たちを襲う恐ろしい存在なの」
「そ、そうなの!?」
「そうよ、っと」
その言葉を肯定するかのごとく、青い、そのセルリアンはカバに突進をかける。だがカバはひらりとそれをかわすとセルリアンの後ろにつく。
「唯一の弱点はセルリアンの後ろにあるこの石。これを壊せばセルリアンは消える……わ!」
カバが大きな口で石にかぶりつくとパリンと音を立ててセルリアンは消えていく。
「すごーい!!ありがとう、カバ」
「セルリアンのことを説明しようと思ったらいっちゃうんだもの」
「えー。だって、もう終わったと思ったし。というか言うのおそいよー」
「あなたがせっかちすぎるのよ」
その議論は平行線を辿りそうである。端から見ればどっちもどっちである。
「とにかく、気をつけることとか、色々わかったよ。ありがとう」
「どういたしまして。何か困ったことがあったら誰かに聞いてみることも大切よ?」
「わかった」
大きく元気に返事をするサーバル。
それからまもなくサーバルの名前がさばんなちほーだけでなく、近隣のじゃんぐるちほーや、さばくちほーにもおっちょこちょいやトラブルメーカー、ドジっ子として名をはせていくのだが、それはまた別の話である。
私は、サーバルキャットのサーバル? 椿ツバサ @DarkLivi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
心のストレッチ/椿ツバサ
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 22話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます