6.再会

五月。



学校にも慣れ、わたしは今まで通り優等生の”橘 紫苑”として生活していた。

俗にいう友達もでき、委員会なんかも入って、

中学生としては好調なスタートをきっていた。



彼との再会は、思ったよりはやく訪れた。

その日もまた、雨だった。



学校帰り、電車にゆられながら

帰ったらなにしようかな、宿題はないし…なんて考えながら。

その頃のわたしには一つ決めなければいけないことがあった。

部活動だ。



六月の定期試験が終わったら、部活動を決めなければならず、

つまり五月の今は部活の見学が始まっていた。

しかし特に何に興味を惹かれるでもなく、

ただ運動神経がないので文化部を中心に考えていた。



最寄駅で降り、改札を見上げると―――彼が、いた。

今度は雨に濡れてはいなかった。

きちんと、出会った時と同じ紺の傘をさして、つまらなさそうに立っている。

イヤホンで音楽を聞いているかのように目をつむっているが、耳には何もしていなかった。



―――ほら、また会えた。



ほんのちょっぴり、予感が的中したことへの優越感のようなものを感じながら

今日もまた、自然に足は彼のもとへ向かっていた。

今度は彼のほうからわたしに気付いてくれた。



?「また会ったね」



すこしおかしそうに、彼は笑った。



?「もしかしてここが最寄駅?」



紫苑「そうよ」



?「そりゃ、会えるはずだね」



彼はまた微笑んだ。

何故だか、一か月前よりも距離が縮んでいる気がした。

わたしのほうが緊張しているみたいだ。気にくわない。

でも、距離が縮んだ気がしたからこそ。



紫苑「何を聞いていたの?」



わたしがそう問いかけると、彼は驚いた顔をした。



?「どうして聞いていると思ったの?」



質問を質問で返された。

驚いていたようだから、本当に何かを聞いていたのだろうけど。



紫苑「何かを聞いている人の顔だったもん。見ればわかるわ」



少し得意げにわたしがそういうと



?「ふふ。それは正しい分析だね」



少し妖しげに、またまた微笑んだ。

その笑顔の理由が知りたい。

―――彼を、知りたい。



そんな再会だった。





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