5.家族

その日はそれから家へ帰って、家族でご飯を食べた。



一人っ子で三人家族。

父は仕事の関係上、日本の各地を飛び回っていて、小学生の時から一年に2~3回くらい会えればいいほうで。

母は、父がいるときはいつもより楽しそう…というより、

家族三人そろっている時に、”完成された家族”を作っている、といったほうが正しいかもしれない。



だからわたしも母に合わせて、中学生になりたての初々しい自分になる。

わたしにとって、「なる」のは簡単なことだ。



父「紫苑、学校はどうだった?」



紫苑「楽しかった! 近くの席の子と友達になれたよ」



母「よかったじゃない。仲良くするのよ」



父「中高一貫だし、よい友達を選びなね。



パパも中高一貫だったけど、やっぱり今でも中高時代の友達と付き合いはあるし」



母「そうそう、部活の友達とかね」



紫苑「…うん! 頑張るね」



友達を選ぶ、ねえ。

心には若干の違和感が残る。

年に数回しか会えない父のことは好きだし、一緒に遊んでもらったりおもちゃを買ってもらったり。

でも、それと同時に嫌いなところがあったのも確かだ。

こういう大人になりたくない、と思うことも、わたしが成長するにつれて増えていたように思う。



そんな時、わたしは彼のことを思い出す。

彼はなにを、どんな風に考えるんだろう。



知りたくて、たまらなくなった。



紫苑「パパ、いつまでこっちにいるの?」



父「ん~明日には戻らないといけないんだよな、仕事が入ってて」



母「新幹線乗り場までお見送りに行こうね」



紫苑「そうだね。次はどこへ行くの?」



父「北海道」



紫苑「じゃあお土産!お土産楽しみにしてるね!」



母「わたしジャガポックルが食べたいな」



にぎやかな食卓。幸せな絵面。

これに満足できないなんて、私が欲張りなだけですか?





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る